003 夜の密会イベント
領地に来てから一ヶ月が経ちました。トロレイヴ様とハレック様は修行にも慣れてきたようで、最近は夕食時にもあまりお疲れのご様子はありません。
まあ、それを見ている自衛団長がさらにハードルを上げようと思っていると、お爺様にご相談しておりましたけれどもね。
そして今日、わたくしは領地経営のお勉強はお休みして、トロレイヴ様とハレック様の修行の見学をすることになっております。
ああ、間近でお二人の絡みイベントが見られるなんて、顔がにやけない様にしっかりと表情筋を維持しなければなりませんわね。
訓練場に着きますと、早速と言った感じに二人でストレッチを始めました。二人で組んでするストレッチ……眼福ですわぁ。今まさにお二人がわたくしの目の前で絡み合っている状態でございます。
「ほう」
ああ、思わず艶めいたため息が漏れてしまいましたわ。
わたくしは用意された椅子に座り、大きな日傘の下で鼻息が荒くならないように気を付けながら、リリアーヌが用意してくれたアイスティーを飲んでのぼせそうになる頭を冷やします。
(きゃあっ! 腕を組んでる!)
ストレッチの一部だとはわかっておりますけれども、目の前で行われる生絡みに、わたくしのテンションは爆上がり中ですわ。
ああ、たまりませんわね。お二人は訓練着こそ着ておりますが、季節柄、薄手の物となっておりますので、しっかりと付き始めている筋肉を感じることが出来ますわ。
はあ、なんて素晴らしいのでしょう。
ストレッチを終えたお二人は、お互いに拘束具を付け合うと、剣を握って向き合います。
(生拘束具! ああ、マジたまらん!)
お互いがお互いを拘束し合うなんて、なんて美味しい展開なのでしょうか。このような修行方法を編み出した自衛団長には何か褒美を与えたいぐらいですわ。
あ、思わず涎が出そうに……。
わたくしはさり気なさを装い、口元に手を持って行って、涎が出ていないか確認いたします。
大丈夫ですわ、ギリギリセーフですわね。
「ハレック、本気で行くよ」
「それはこっちのセリフだ」
そう言うと、お二人は剣を交え始めました。
ああ、何度見ても剣技を互いに繰り広げるお二人の姿は美しいですわね。
わたくしはしっかりと写真機でお二人の姿を写真に収めていきます。
「グリニャックお嬢様、暑くはありませんか?」
「そうですわね、(お二人が絡んでいる姿は)熱いですけれども、問題ありませんわ」
むしろ眼福ですわ。
お二人はいつも何かを賭けて勝負なさっているようなのですが、最終的にはトータル引き分けになるのですよね。
本当に仲がよろしいですわよね。
はあ、お二人が真剣なお顔で互いに剣を交えておりますわ。まさに魂のぶつかり合いですわね。
こうやって二人の愛は深く結ばれていくのですわ。
わたくしは外見上優雅に、内面はハイテンションでお二人の修行を見守ります。
一時間ほど剣を交じえあったお二人が、同じタイミングで収めると、わたくしの方に歩いていらっしゃいました。
休憩でしょうか?
「はあ、今回も決着がつかなかったね」
「もうちょっとだったんだがな」
「お二人ともお疲れ様です。(お二人が絡んでいる姿は)とても素晴らしかったですわ」
お二人が用意された椅子に座ると、すぐさまリリアーヌがお二人にアイスティーを差し出します。
お二人はそれを受け取って一気に飲み干してしまいました。余程のどが渇いていたのですね。
あ、ちなみに拘束具はそのままですわよ。まだお互いを拘束し合っている状態ですわ。うふふ。
「はあ、それにしても今日も暑いね。グリニャック様、一人でこんなところに居て大丈夫だったかい?」
「ええ、ご心配にはおよびませんわ。せっかくお二人の修行を見ることが出来るのですもの」
わたくしの言葉に、トロレイヴ様とハレック様が照れたように顔を赤くなさいました。
ああ、自分達の愛し合う姿を見られて照れていらっしゃいますのね、大丈夫ですわ、わたくしはお二人の仲はちゃんと理解しておりますもの。
わたくしは微笑ましいものを見る想いでお二人の顔をしげしげと眺めます。
もうすぐ二年生になりますが、一年前と比べても、お二人の色気は倍増しておりますわね。
ああ、その付き始めた筋肉も色気の暴力ですわ。
「お二人はいつもこのような修行をなさっておいでなのですね」
「そうだね」
「ああ、今日は走り込みがない分楽だな」
「まあ、そうなのですか」
走り込んで、今よりもさらに汗に濡れるお二人も見てみたかった気も致しますわね。
…………ちょっと待ってくださいませ、汗で濡れてお二人が着ている上着のシャツが若干透けて肌がっ!
気が付いてしまい、わたくしの顔がカッと赤くなってしまいます。
「ん? グリニャック様、顔が赤いよ? 熱にあてられたのかな?」
「いえ、なんでもありませんわ」
「そうか? だが、本当に顔が赤いぞ」
「すっ、直ぐに引きますわ」
気合ですわよ、わたくし。気合で顔の熱を引かせるのですわ。
……だ、駄目ですわ。視界にお二人の透けた肌が見えてしまって顔の熱が引きませんわ。
お二人はいつもこんな感じで修行をなさっているようですし、もしかしたら、わたくしがいなかったら上着のシャツを脱いで修行をしているのかもしれませんわ。
ああ、出来ればその光景をこっそりと見て写真に収めたいですわ。
わたくしはとりあえず、気を紛らわすためにアイスティーを一口飲んで息を吐き出します。
ああ、息が熱くなっておりますわね。
アイスティーの入ったグラスを、テーブルに置くと、わたくしは赤くなった頬を隠すように両手で頬を抑えます。
気合ですわよ、気合でこのご褒美イベントを乗り越えるのですわ。
わたくしはなるべくお二人の姿を見ない様に視線を若干反らしつつ、必死に熱が収まるのを待ちます。
「グリニャック様、本当に大丈夫かい?」
「え、ええ」
トロレイヴ様が心配そうに身を乗り出して、わたくしの額に手を当てていらっしゃいました。
(きゃぁぁぁぁ! 顔が近い! 手が、手が額に触れて! ちょっ待って! 脳内で処理しきれない!)
最推しのトロレイヴ様のお顔のアップに、わたくしの心臓はドクドクと音を立ててしまいます。
「そうだな、まだ顔も赤いし、やっぱり熱にあてられたんじゃないか?」
そう言って、ハレック様も身を乗り出して、わたくしの手にご自分の手を被せるようになさいました。
(ああああ! 近い! っていうか手に触れられてる!)
「ご、ご心配には、及びませんわ」
ああ、頭がいっぱいいっぱいになってしまいました。
どうしましょう、ますます顔が赤くなってしまいます。
「でも、心配だな。今日はもう屋敷に戻って休んだら?」
「そうだな、それがいいかもしれないな」
「大丈夫ですわ」
せっかくお二人が間近で絡んでいるのを見る機会ですのに、屋敷に戻るなんてそんな勿体ないことが出来るわけがないではありませんか!
クールになるのですわよ、わたくし。今耐えなくていつ耐えるというのですか。
ここで耐えなくてはご褒美イベントが見れませんわよ!
「…………よし」
「「ん?」」
わたくしは気合を入れ直し、お二人に向かって微笑みを向けます。
「ご心配をおかけいたしました、もう大丈夫ですわ」
そうですわよ、成長して結婚した暁には、こんな肌が透けるどころじゃないお二人を見るのですから、今から慣れておかなければなりませんわよね。
それにしても、半裸のお二人は、湖での水浴びの時にも見ましたが、シャツから肌が透けるというのは、半裸になっている時よりも色気がありますわね。
前世で濡れシャツの需要があった理由が分かりますわ。
……え、ちょっと待って。そうですわよ、結婚したら目の前で半裸どころか全裸のお二人を見るのですわよね。
え、わたくしの理性が持ちますかしら?
閨に関してもお母様に習い始めておりますが、おおむねお二人に任せておけばよいと言われておりますのよね。
前世でも病院暮らしでそう言った知識は入って来ませんでしたし、どうなるのでしょうか?
えっと、男性のアレをわたくしのアソコに入れるのですわよね、そのぐらい知っていますわ。
と言うか、それしか知らないのですけれども。
もう少しお母様に閨について聞いておくべきでしょうか? 実際に閨を体験したときに、お二人の邪魔にならない様に勉強しておかなければなりませんものね。
そうですわよ。結婚したらお二人の今以上の、それこそ十八禁の薔薇の世界を生で見る事ができるのですわ。
こんな事で顔を赤くしている場合ではありませんわよね。
「本当に大丈夫かい?」
「ええ、本当に大丈夫ですわ」
「じゃあ、私達は修行に戻るけど、無理はしない様に」
「わかりましたわ」
わたくしはそう言って、訓練場に戻るお二人の背中を見ます。
はあ、背中姿も色気の暴力ですわね。
お二人は拘束具を増やしますと、また剣を交え始めました。
「リリアーヌ、わたくし幸せで死んでしまいそうですわ」
「グリニャックお嬢様がお幸せそうで、私も幸せでございます」
「あんなに素敵な方々が、わたくしの伴侶になるなんて、わたくしはなんて恵まれているのでしょうね」
「本当に、お二人にとってもグリニャックお嬢様の伴侶になれることは至高の喜びでございましょう」
「そうですわよね! やはりお二人はそう思ってくださいますわよね」
「ええ」
リリアーヌも二人の愛を理解し始めてくれたのですわね。嬉しいですわ。
昼食をはさんでの修行が終わり、二人は汗を流してくるといってそれぞれお部屋に戻って行かれました。
はあ、良い一日ですわ。お二人の絡みを見るのは、まさに至高と言えるのではないでしょうか。
わたくしも汗をかきましたので、軽く汗を拭きとるついでにドレスを着替えるために部屋に戻ります。
自室に戻り、衣裳部屋に入りますと、すぐさまリリアーヌがドレスを脱がせてくれます。
一度コルセットも脱ぎ汗をタオルでふき取り、ベビーパウダーを薄く塗られて、新しいコルセットを付け直し、新しいドレスに腕を通します。
はあ、お二人の汗で肌が透けるというご褒美イベントはありがたいのですが、暑い日ですのでわたくし自身も汗をかいてしまうのが難点ですわね。
着替え終わると丁度夕食の時刻になっておりましたので、そのまま食堂に向かいました。
食堂には既にトロレイヴ様とハレック様がおいでになっていて、わたくしは定位置になったお二人の正面の席に座ります。
少し経って、お爺様とお婆様が食堂に入って来て夕食が開始になります。
「グリニャックは、今日はトロレイヴ君とハレック君の修行を見学したんだったな。感想はどうだ?」
「ええ、とても素晴らしかったですわ」
それはもう、夢のような時間を過ごすことが出来ました。
「そうか。それは良かった。グリニャックは明日からまた領地経営の勉強だな」
「わかっておりますわ、お爺様」
夢のような時間を堪能したのですもの、その分わたくしもお勉強を頑張らなくてはなりませんわよね。
「あらあら、グリニャックってば余程今日の出来事が楽しかったのですね。いつもよりも良い笑顔を浮かべているように見えますわ」
「そうでしょうか? けれども確かにとても楽しゅうございました」
そんな感じに、いつも通り楽しく会話を交わしつつ、夕食を食べ終わると、各自部屋に戻っていきます。
わたくしも自室に戻って湯あみをして寝着に着替えて寝室に一人になりますと、今日あったことを反芻して思わず顔が赤くなってしまいました。
はあ、本当にお二人は色気の暴力ですわね。かたやホスト系、かたや儚げ系……。
今思いましたけれども、どちらが攻めなのでしょうか?
これは重要な問題ですわね。主導権がどちらにあるかで、お二人の関係が変わってくるというものですもの。
一見しますとトロレイヴ様の方が攻めですけれど、ハレック様が攻めという可能性も否定できませんわよね。
ああ、悩んでしまいますわ。わたくし、お二人に関してはリバも可能ですのでどちらでも構わないのですけれども。
……ちょっと夜風に当たって頭の熱を冷ましましょうか。
わたくしは寝室からベランダに出ます。夜風が吹いて気持ちがいいですわね。
手すりに手をかけて、月を見上げていると、下の方から話し声が聞こえてきました。
(これはもしや、夜の密会イベント!)
わたくしは思わず手すりから身を乗り出して、下の状況を確認いたしますと、案の定トロレイヴ様とハレック様が一階下のバルコニーに出て、手すりに背を預けて話しているのが見えました。
わたくしの耳が思わずダンボになってしまいます。
「今日はいつも以上に気合がはいちゃった」
「私もだ」
「やっぱり見られていると、気合の入り方も変わってくるよね」
「そうだな、グリニャック様に見られていると思うと、いつもよりも気合が入ってしまうな」
愛し合う姿を見られて気合が入ってしまうのですわね!
「あ、そういえばここ大丈夫? いつもより強くぶっちゃったけど」
「問題ない。お前にやられたぐらいで気にはしないさ」
それは、トロレイヴ様になら傷を付けられていても構わないということですわね!
ああ、トロレイヴ様がハレック様の肩を手で触っておりますわ!
わたくしは思わずさらに身を乗り出してお二人を観察いたします。
って、これ以上身を乗り出したらわたくしが落ちてしまう可能性がありますわね、注意致しませんと。……うーん、ぎりぎりお二人の背中が見える感じですわね。
「それにしても、今日のグリニャック様は可愛らしかったね」
「そうだな、いつも凛としているのに、頬をあんなに赤くして、暑さにやられたんだろうが、色っぽかったな」
「うん」
あ、あら? わたくしの話ですか? そんなことよりもお二人の愛を語り合ってくださいませ!
「ハレックも、気合が入っていたせいか、いつもよりもかっこよかったよ」
「そうか、ありがとう。トロレイヴもいつもにも増して色気があったぞ」
「そうかな?」
そう、そうですわ! そうやってお互いの愛を確認し合ってくださいませ!
「それにしてもハレック強くなったよね。惚れ惚れしちゃった」
「それはこっちのセリフだ。ライバルとして、トロレイヴの強さは誇りに思うぞ」
(キタァァァァァ! 惚れ惚れとか!)
これはもう完全にご褒美腐イベントですわね。
「お互いにグリニャック様を守るための双翼になるって誓ったもんね」
「そうだな、あの時の誓いは今も胸に残っているさ」
ん? わたくしを守る双翼? イベント内容変わっていませんか? バグでしょうか?
うーん、多少の違いはありますけれども、ともかく、お二人は共にあることを誓い合った仲なのですわね。
……ああ、ゲームだったら懐古イベントが起きてその時のシーンを見ることが出来ますのに、現実世界ではそれがないのが口惜しいですわ。
「それにしても、今夜は月が綺麗だねっ……て、グリニャック様!?」
「え!?」
あ、あら。見つかってしまいましたわ。
不意打ちで振り向いて空を見上げるのは無しですわよ、トロレイヴ様。
「ご、ご機嫌よう、お二人とも」
「危ないよ、グリニャック様!」
「そうだぞ、早く手すりから離れるんだ」
「え、ええ。そうしますわ」
わたくしは渋々手すりから身を離します。
はあ、それにしても折角の腐イベントでしたのに、強制中断された感じで物足りないですわね。
…………わたくしは手すりから身を離した状態で、聞き耳を立てます。
「びっくりしたね。まさかグリニャック様が身を乗り出しているなんて」
「ああ。今日の月は特に美しいからな、思わず手に入れようとしてしまったのかもしれないな」
「あはは、なにそれロマンチック。でも、今日は本当に月が綺麗だもんね。確かに、グリニャック様が手に入れようとしてしまったのかも」
「……トロレイヴの瞳の色に似ているな」
「え?」
「今日の月の色だ。よく似ている」
「そうかな?」
「ああ」
きゃぁぁぁ、なんて素晴らしい会話なのでしょうか。これぞ求めていた会話内容ですわ!
甘い! 甘いですわ!
ああもう、今日はいい夢が見る事が出来そうですわね。
「私は、好きだな」
「え?」
「トロレイヴの瞳の色が好きだ」
「そうかい? 僕もハレックの瞳の色、好きだよ」
告白!? 告白ですの!?
こんなところでまさかの告白シーンを聞くことが出来るとは思いませんでしたわ。お二人は自分の気持ちに気が付いていたのですわね。
ああ、ここからお二人の、真の愛の物語が始まるのですわね。わたくしはその生き証人ですわ。
「でも、一番好きなのはグリニャック様の瞳だけどね」
「それは言えてるな」
ん? わたくしの事等どうでもいいので、お二人で告白の続きをしてくださいませ。
「僕、幸せだなあ。グリニャック様の婚約者になれて。夢が叶ったんだ」
「そうだな。まさか婚約者に二人でなれるとは思わなかったな」
「本当に、僕はハレックと対決する覚悟はあったんだけどな」
「私もだ。でも、どちらがグリニャック様の正室になるかと言う件は決着がついていないからな。まだまだ勝負は尽きないさ」
「あはは、そうだね。負けないよ」
「それはこっちのセリフだ」
ああ、今後もお二人は絡み合うという宣言ですわね、わかりますわ。
今日は本当に、なんというご褒美デーなのでしょうか。透け肌イベントやこんな愛の語りイベントに遭遇できるなんて、神様に感謝しなければいけませんわね。
……そういえば、神様と言えば、アーティファクトの発動を王都に帰ったらしなければいけないのでしたわね。
はあ、面倒くさいですわ。
プリエマの器が足りてないということですが、そのせいでわたくしにとばっちりが来るなんて、なんていう事なのでしょうか。
まあ確かに、戦争が起きてしまっては、トロレイヴ様とハレック様が徴兵されて危険な目にあってしまうかもしれませんものね。
んー、王都に戻ったらやることが山積みですわね。
と、言いますか。アーティファクトを起動してからの方が大変そうですわよね。
聖女扱いとか、本当に勘弁してほしいですわ。
「あ、ハレック。葉っぱが髪に着いてるよ」
「え? 取ってくれるか?」
「もちろんだよ。身だしなみには気を付けないといけないからね」
「そうだな」
(っっっ! 見たい!)
目の前で見たいですわ! お約束の展開というものですわよね。
髪の毛に着いた葉っぱを取るとか、もう萌えですわ。
ああ、どうしてあの時見つかってしまったのでしょうか! あの瞬間だけ身を隠していれば、生で見ることが出来ましたのに!
「そろそろ部屋に戻ろうか。明日もあるしね」
「そうだな」
ああ、お二人の語らいはもう終わってしまいますの? もうちょっと続けてくださっても構いませんのよ?
ああ、でもお二人のベランダの扉が閉まる音が聞こえますわ。それぞれのお部屋に戻ってしまったのですわね。
しかたがありませんわ、わたくしも寝室に戻ることにいたしましょうか。
わたくしは寝室に戻ってベッドに横になります。
目を閉じて思い浮かぶのは、今日のお二人の姿ですわ。ああ、思わずまた顔が赤くなってしまいますわね。
……ね、眠れるでしょうか?
わたくしは必死に目を閉じて、眠れるように心を集中させます。
…………ああ、駄目ですわ。どうしてもお二人のあられもない姿が目に浮かんでしまいますわ。
うーん、眠れませんわね。
わたくしはベッドから起き上がり、水を飲むためサイドテーブルに手を伸ばします。
水差しからコップに水を注いで一口飲みますと、少しだけ気持ちが落ち着いたように感じますわ。
本当ならホットミルクでも頂きたいのですが、この時間にリリアーヌやドミニエルを起こすのも悪いですわよね。
二人の代わりに、別の使用人が隣で待機しているとは思いますが、わたくしの好みはリリアーヌとドミニエルが一番理解しておりますので、説明をする必要がないのですよね。
幼子ならともかく、この歳になって、蜂蜜たっぷりのホットミルクが飲みたいなんて言うのは、なんだか恥ずかしいですものね。
仕方がありませんわ。横になって目を閉じていれば、そのうち眠れるでしょう。
そう思って、わたくしはコップをサイドテーブルに戻すと、ベッドに横になって目をつぶりました。
「グリニャックお嬢様、起きていらっしゃいますか?」
「……ん、ええ。起きましたわ」
ほとんど眠れませんでしたわね。煩悩とは恐ろしいものですわ。
「失礼いたします。……グリニャックお嬢様、あまりお眠りになれなかったのですか?」
「ええ、ちょっと寝つきが悪くって」
「然様ですか。ホットミルクを用意いたしますね」
「ありがとう」
リリアーヌは、わたくしが何も言わなくても、自然とわたくしが望むものを提示してくれますわよね。もちろんドミニエルもですけれども。
そういえば、ドミニエルはもう結婚いたしましたけれど、リリアーヌは結婚しなくていいのでしょうか? 恋人とかいないのでしょうか?
ドミニエルにホットミルクを用意するように言って戻って来たリリアーヌをしげしげと見ていますと、きょとり、と私を見返して来ます。
「急な話ですが、リリアーヌには恋人はおりますの?」
「おりますよ」
「え!?」
聞いておいてなんですが、意外ですわ。恋人を作る暇などあったのでしょうか? 毎日わたくしの傍に侍っておりますのに。
「だ、誰なのかしら? わたくしの知っている人?」
「はい。セルジル様でいらっしゃいます」
「え!?」
「旦那様に縁を繋いでいただきまして、グリニャック様が結婚をなさったら、その後に私達も結婚届を出す予定になっております」
「そ、そう」
お父様、妙なところで暗躍なさっておいでですわね。
それにしても、意外ですわ。
一体いつの間に逢瀬を重ねていたのでしょうか?
昼間は二人とも仕事がございますので、夜しか時間はございませんわよね。
まあ、そこは夜だけとはいえ、二人で会う時間を捻出してこその有能さという所でしょうか?
まさかとは思いますが、お父様がセルジルにリリアーヌを紹介したのは、万が一プリエマがセルジルに心を戻した時の対策でしょうか?
今のプリエマを見ている限り、その必要はないと思うのですけれどもね。
そうですわよね、神様も見守っていてくださるようですし、問題ないですわよね。
ちょっと情けない感じの神様ですが、我が国を守護なさっていると言っていましたし、悪いようにはなさいませんでしょう。
もし三年の後期までに、神様の言う器とやらが足りなければ、プリエマに協力しなければなりませんわね。
そうならないようにプリエマには頑張ってもらわなければ。
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