005 婚約いたしました
王妃様の主宰したお茶会から二週間後、わたくしのもとに、二通の婚約申し込みの書簡が届きました。
それは、トロレイヴ様とハレック様からの婚約の申し込みの書簡です。
婚約を申し込むとお茶会では言われましたが、こんなにも早くに申し込まれるとは思ってもいなくて、お父様から話を聞いた私はおろおろと、二通の書簡を手にして顔を真っ赤にさせてしまいました。
「お父様、わたくし、どうすればいいのでしょうか?」
「どう、とは?」
「わたくしは、トロレイヴ様もハレック様も好いております。出来ればお二人と婚約をしたいぐらいなのです」
「すればいいではないか」
「は?」
お父様の執務室で、思わず首を傾げてしまいます。
いったい何を言っているのでしょうか、一人に対して婚約者は一人というのが常識なのではないのでしょうか?
「ああ、まだそこまでの教育はしていなかったのか? 侯爵家は二人まで、公爵家は三人まで、大公家は四人まで、国王もしくは王太子は五人まで伴侶を娶ることが出来るのだ」
なんですか、そのご都合主義。
でもまあ、血筋を残すという意味では、必要な事なのかもしれませんわね。
「では、わたくしはトロレイヴ様とハレック様のお二人を婚約者にすることが出来るのですね」
「ああ、まあ、どちらかを正室とする必要はあるがな」
「そうなのですか」
やはり、同じ伴侶と言っても序列はあるのですね。トロレイヴ様とハレック様のどちらを正室にするかなんて決められませんわ。
「それで、グリニャックはトロレイヴ殿とハレック殿を婚約者にしたいのだな」
「ええ」
お二人の愛を守るために、わたくしは身を張って防波堤になりますわ!
「では、そのように両家に返事を出しておこう。ちょうど二週間後にはグリニャックとプリエマの誕生日パーティーがある。そこで婚約の発表もしようじゃないか」
「まあ、気が早いのではありませんか?」
わたくしの言葉に、お父様は「そんなことはない」と言って、早速紙にペンを走らせます。
……これで、本当にトロレイヴ様とハレック様の婚約者になりますのね、わたくし。
うふふ、間近でお二人の愛を観察できる立場に堂々となることが出来ましたわ。なんという幸福なのでしょうか。
でも難しいですわね。お二人の仲を邪魔しないようにしつつも、円滑な婚約を続けていると周囲には思い込ませないといけませんものね。そうしなければ、いちゃもんを付けてくる輩が必ずいますわ。
プリエマとか、プリエマとか、プリエマが。
あら、文句をつけて来そうなのがプリエマ以外に思いつきませんわね。
まあ、わたくしに悪役令嬢を望んでくるような子ですもの、何をしでかすかわかりませんものねえ。
そうそう、王妃様主催のお茶会であったことをお母様にご報告いたしましたら、お母様は、それはもうこれでもかというほど美しい硬質な微笑みを浮かべて、プリエマを連れてどこかに行ってしまいましたのよ。
あれは、確実にお仕置き&お茶会のマナーを徹底的に仕込まれますわよね。
プリエマもこれに懲りて、わたくしに悪役令嬢の役割を求めずに、自分の力でどうにかしてほしいものですわ。
まあ、わたくしが何かしなくても、わたくしの替わりに誰か別のご令嬢がいちゃもんを付けに言ってくれているようなので、そっちはそっちで勝手にやってほしいのですけれどもねえ。
約三十人のキャラクターが攻略対象の乙女ゲームですし、本当にプリエマはウォレイブ様方狙いなのかはわかりませんものねぇ。
けれども、それでしたら、わたくしに対して悪役令嬢の行動を求めてきますでしょうか?
五強以外に関しては、グリニャックは基本的に関わらなかったと思うのですけれども、前世のわたくしが死んだ後になにかアップデートなどがあったのでしょうか?
うーん、わかりませんわね。
「グリニャック、どうかしたのか? 何やら難しい顔をしているぞ」
「あ、いえ……。わたくしだけ先に婚約者を決めてしまっては、プリエマが拗ねてしまうのではないかと思いまして」
わたくしが、なるべく当たり障りがないように申しますと、お父様は「ふむ」と少し考えるようなしぐさをなさいました。
あら、適当に申しましたけれどもお父様を悩ませてしまいましたわね。
どういたしましょうか?
「まあ、確かに今までグリニャックとプリエマは何をするにも一緒だったからな。しかし、ここ半年ほどはほとんど別行動をしているし、問題はないだろう」
「それもそうですわね」
プリエマはウォレイブ様達とのお茶会に忙しく、わたくしは女公爵になるための勉強に忙しかったですものね。
この半年、一緒に行動した記憶はほとんどございませんわ。
「誕生日パーティーの前に、相手方のご両親を含めて一度挨拶をしよう、出来るだけ早めにセッティングをすることにするが、希望の日にちなどはあるか?」
「いいえ、お父様にお任せいたしますわ」
わたくしはそう言って、にっこりと微笑みました。
あれから一週間後、早速と言わんばかりに、三家の親を含めての顔合わせが我が家の応接室で行われました。
本来ならばプリエマもいるべきなのですが、丁度よくというかなんと言いますか、今日も今日とて、ウォレイブ様からお茶会の招待を受けておりまして、そちらに行ってしまっております。
後で、自分だけのけ者にされたと騒ぎださなければいいのですけれども、どうでしょうか?
まあ、そんなことよりも、今わたくしの目の前にはトロレイヴ様とハレック様、そしてそれぞれのご両親が揃っていらっしゃいます。
美形家族! 眼福ですわ。
婚約の段取りなどは、親が淡々と進めて行きますので、子供のわたくし達と言えば、それを只見聞きしているだけの状態でございますわ。
「グリニャック、トロレイヴ殿、ハレック殿。この書類にそれぞれサインと血の拇印を」
「はい、お父様」
血の拇印とか、婚約の契約書なのになんだか物騒ですわね。
まあ、通常でしたらただサインをして拇印を押せばいいのですが、わたくしは女公爵としての教育を受けている癖からか、婚約の契約書の内容を熟読してしまいます。
特に問題はなさそうと申しますか、幾分わたくしに有利な契約内容ですわね。
まあ、家格からしてこうなるのは自明の理なのかもしれませんけれども、わたくしの気が変わったらいつでも婚約破棄が出来る、トロレイヴ様、ハレック様からの婚約破棄は認められないというのは、やりすぎなのではないでしょうか?
わたくしがお二人を嫌いになるはずがございませんので、この婚約は絶対に破棄されることはありませんわね。
「トロレイヴ様、ハレック様。この契約内容で本当によろしいのですか? わたくしに随分と有利な内容になっておりますけれども」
「かまわないよ。それにほら、ここに婚約者になる分、将来王立学園に通う際の学費や諸経費は公爵家持ちってあるじゃないか。正直、こちらの家としては助かるよ」
「そうだな、恥ずかしながら、私達の家は跡取りである兄にそれぞれ金をかけているため、次男の私達にまで割く金銭はそれほどないからな」
「そうですか? だったらよろしいのですけれども」
わたくしの心配をよそに、お二人はさっさとサインと血の拇印を契約書になさいました。
わたくしも、それぞれの契約書にサインをして、差し出されたピンで親指を指して血を出すと、その血で拇印を押します。
……このピン、トロレイヴ様とハレック様もお使いになったのですわよね。
つまり、お二人はピンを通して血で繋がったということでしょうか!
ああ、使ってしまってからなんですが、私などがそんな神聖なものを使ってよかったのでしょうか?
ま、まあ。今回は不可抗力ですわよね。
このピン、わたくしが頂いてもいいでしょうか? お二人の血が付いたものですし、宝箱にいれて保存しておきたいですわ。
「グリニャック。この瞬間から、三人は婚約者となる」
「はい、お父様」
「では、今後はトロレイヴ君、ハレック君と呼ばせてもらいたいのだが、構わないかな」
「「構いません」」
まあ、息ぴったりですわね。
「二週間後のグリニャックとプリエマの誕生日パーティーで、婚約の発表をすることになるが、それまで、今後の三人の在り方について、じっくりと話し合うといいだろう」
「わかりましたわ」
わたくし達が揃って頷きますと、各家の両親は満足したように微笑んで、席を立ちました。
なんでしょうか?
「あとは、三人で話し合いなさい。正室をどちらにするかも含めてな」
そう言って、各家の両親は別に話があると言って応接室を出て行きました。
わたくしとトロレイヴ様、ハレック様は話しについていけず、呆然と出ていくそれぞれの両親を見送ってから、気まずげに視線を交わしました。
なんだか、こうして改めて三人きりにされるのも恥ずかしいですわね。
……え、でも待ってくださいませ。
今トロレイヴ様とハレック様は隣同士に仲良く並んでいる状態で、わたくしはそれを真正面から観察できる状態ですわ。
こ、これはお二人の甘い空気を鑑賞する絶好の機会なのではないでしょうか。
「あ、あの。その……わたくしにはお二人のどちらかを正室に選ぶなんて出来ませんの。それで……お二人で相談して決めていただければと思うのですが、如何でしょうか?」
ぜひ、わたくしの目の前で二人の話が盛り上がることを期待してそう言いますと、二人は顔を合わせて肩を竦めました。
肩を竦める動作もシンクロしておりますわ!やはり心が通い合っているのですわね。
「僕たちが決めちゃっていいのかい?」
「ええ、わたくしには決められそうにありませんもの」
「それは、私達の事を同じぐらいに想ってくれていると考えていいのだろうか?」
「はい、わたくしはお二人が(絡んでいるのを見るのが)大好きですもの」
わたくしは心の底からの本心を、笑み付きで伝えますと、トロレイヴ様とハレック様の顔に朱がさしました。
あ、あら。心の声が聞こえてしまったのでしょうか。わたくしもまだまだですわね。
今後はお母様にもっと厳しく淑女としての教育を施してもらわなくてはいけませんわね。
わたくしは思わずと言った感じに両手で両頬を包んで、赤くなりそうな頬を隠します。
それにしても、一週間ぶりにお二人にお会いしますが、やはり可愛らしいですし、麗しいですわね。
このお二人の婚約者にわたくしがなれただなんて、今更ながらに実感がわいてくると同時に、嬉しさで顔がにやけてしまいそうですわ。
これで、わたくしと婚約をしている限り、お二人の仲を邪魔する令嬢は出てきませんわね。
わたくしは、一人でも多くの腐女子仲間を増やすべく、布教を欠かさないように致しましょう。
「そうだ、誕生日パーティーが婚約披露の場になるのなら、三人でお揃いの何かを身に着けておいたほうが良いかもしれないね」
お揃い! お二人がお揃いの物を身につけるのですか! それはぜひとも拝見したいですわ!
何がいいでしょうか、ネクタイピン? それともピアスがいいでしょうか? ああ、どんなデザインの物がいいでしょうか? 発注の事も考えますと、今日中にデザインなどを決めなくてはいけませんわよね。
「金と銀を使ったデザインのピアスなどどうでしょうか? お互いの色を纏うというのは素晴らしいことだと思いますのよ」
「ああ、サファイアを金銀で囲むようなデザインのピアスなんかいいかもしれないな」
「そうだね。でも今から発注して間に合うかな?」
「なんとしてでも、間に合わせますわ!」
わたくしは、力拳を握ってお二人に言いますと、お二人は「流石公爵家」と揃って仰いました。
ああ、この所々でのシンクロぶり、たまりませんわね!
そうですわ、お二人のパーティー用の衣装もご用意しなければなりませんわね。どのようなデザインがいいでしょうか?
なんといっても、公式が認める一対の存在ですし、対になるようなデザインがいいでしょうか?
「お二人がパーティーに着てくる衣装は、是非とも私にご用意させてくださいませ」
「そんな、普通は逆なんじゃないかな?」
「まあいいじゃないか。グリニャック様の衣装は私達で用意して、グリニャック様に私達の衣装を用意してもらうということで」
「それだと、グリニャック様の負担が増えちゃうんじゃないかな?」
「そんなことはありませんわ! お二人の衣装を考えるだけで楽しくてたまりませんもの!」
わたくしは力を込めてそう言います。本心からそう思っているのですから、しかたがありませんわよね。
「グリニャック様にはどんな衣装がいいと思う?ハレック」
「シンプルなデザインがいいだろうな。あまりゴテゴテと飾り付けるのは、グリニャック様に関しては野暮に見えてくると思う」
「あ、やっぱりそう思う? 僕もそう思っていたんだ。それで色なんだけど、白がいいと思わないかい?」
「いいな、婚約発表に相応しい色だ」
ああ! 推しが二人、わたくしの目の前で話が盛り上がっておりますわ!
うふふ。たまりませんわ。
わたくしは思わず涎が垂れそうになるのを、紅茶を飲んで涎ごと呑み込んでやり過ごします。
「あ、でもワンポイントに肩口にフリルを付けるっていうのはどうだい?」
「それなら、裾にもフリルを飾り付けるのがいいだろう。グリニャック様の可憐さが引き立つに違いない」
「それいいね!」
本当にお二人が楽しそうで何よりですわ。これも無事に婚約出来たおかげですわね。
今後、婚約者という煩わしいものに惑わされずに、お二人は愛を深め合っていくのですわ。わたくしも、お二人の仲を邪魔しない様に、けれども応援しなくてはいけませんわね。
それにしてもフリルですか。お二人の衣装にもフリルを使ったものにするというのもいいかもしれませんわね。
まだ子供なのですし、きっと似合いますわ。
はっ! そうですわ、記憶術やスマホはありませんが、絵師に絵を依頼するということは出来ますわね。なんで忘れていたのでしょうか。
誕生日パーティーに絵師も呼んで、思い出を絵に残していただきましょう。
お二人の麗しさを余すことなく、絵に残していただかなくてはいけませんわね。
もちろん出来上がった絵はわたくしの宝物として、大切に保存させていただきますわ。
そうそう、絵と言えば、この世界にはやはり漫画はありませんので小説を書こうと努力しているのですが、わたくしの文才では、お二人の麗しさの十分の一も伝えることが出来そうにありませんので、やはり皆様に直接見ていただくのが一番だと結論付けましたわ。
そんな事を考えているわたくしをよそに、トロレイヴ様とハレック様は、顔を寄せ合わせて侍従に用意させた紙に、わたくしのドレスのデザインを描いて行きます。
六歳とは思えないほど、絵がうまいですわね。
まあ、ざっくりとしたもので、詳しいデザインは、デザイナーと打ち合わせをしなければなりませんけれども。
「トロレイヴ様、ハレック様。ドレスのデザインをちゃんとするのには、デザイナーと綿密な打ち合わせが必要になると思いますけれども、伝手はございまして?」
「ん? まだ駆け出しのデザイナーだけど、腕のいいデザイナーを知っているから問題はないよ」
「ああ、まだ高位貴族の方々には知られていないのかもしれないな」
「そうなのですか」
差し出がましいことを言って、お二人の会話の邪魔をしてしまいましたわね。反省しなくてはいけませんわ。
「任せてよね。グリニャック様にぴったりな可憐なドレスにしてみせるよ」
「ああ、私たち二人で、グリニャック様に恥をかかせないよう、誠心誠意ドレスを仕立てて見せよう」
二人で! 二人で、ですか! 共同作業というものですわね。
はっ! もしかして初めての共同作業でしょうか!? なんて素敵なのでしょうか!
お二人の初めての共同作業で作ったドレスを着ることが出来るなんて、わたくしはなんて果報者なのでしょうか。
出来上がったドレスも一生の宝物にしなければなりませんわね。
はあ、それにしてもやはりお二人が目の前で話し合っているのを見るのは、なんと申しますか眼福ですわね。
ああ、そんなに顔を近づけて話していらっしゃるだなんて! い、今にも頬が触れ合ってしまいそうな距離ですわ。
見ているこちらが思わず頬が赤くなってしまいそうですわ。
この光景をわたくしが独り占めしていいのか、思わず悩んでしまいますわね。
でも、他に人がいたら、折角のお二人の会話を邪魔してしまうかもしれませんし、これはこれでいいのかもしれませんわ。
お二人がどれほど仲が良いのかに関しては、わたくしが頑張って他の皆様にお伝えすればいいだけですしね。
そんな感じに、夢のような時間は過ぎていき、各家の両親が戻ってきたところで、その場はお開きになりました。
ああ、本当に夢のような時間でしたわ。
「お母様、わたくしは明日早速お二人がパーティーに着てくる衣装と、揃いのデザインのピアスを発注する為デザイナーを呼びたいのですが、よろしいでしょうか?」
「あら、グリニャックがトロレイヴ様とハレック様の衣装を用意するのですか?」
「ええ、お二人はわたくしのドレスを用意してくださるとのことですわ。けれども、お揃いのピアスの準備までとなりますと、やはりわたくしがしたほうが良いかと思いまして」
「そうですか、グリニャックがそれでいいのでしたら、そのようになさいませ」
「はい、お母様」
わたくしは、お母様の許可を得て、お母様御用達のデザイナーを早速翌日呼び出しました。
このデザイナーはお母様が昔から贔屓にしているデザイナーで、スタイル抜群の、モデルのような美人のデザイナー、リザベットさんでいらっしゃいます。
「ご機嫌よう、グリニャック様。今日はわたくしに用事があるとお聞きしましたが、新しいドレスをご所望でしょうか?」
「いいえ、わたくし用のドレスではございませんの。わたくしの婚約者になった、トロレイヴ様とハレック様用の衣装と、揃いのピアスの発注を行いたいのですわ」
「まあ! ご婚約為されたのですか。おめでとうございます」
「ありがとうございます。それで、衣装の方なのですが、昨晩いくつかデザインを考えてみましたので、どれがいいか一緒に決めていただけますでしょうか?」
「もちろんでございます。グリニャック様のご婚約者様のお顔を存じていればいいのですが、生憎存じ上げませんので、イメージをお伝えいただけますか?」
「もちろんですわ!」
わたくしは、嬉々としてお二人がいかに素晴らしいか、美しいか、麗しいかを朗々と語ります。
リザベットさんはその話を真剣に聞きながら、どんどんとイメージ図を描いて行きます。
わたくしが話し終えたころ、リザベットさんは一枚の絵をわたくしの前に差し出していらっしゃいました。
「グリニャック様のご婚約者の方々はこのような感じでしょうか?」
「そうですわね。もっと幼さが残る感じですけれども、おおむねそのような感じですわ」
「なるほど、幼さが残る感じですね」
リザベットさんはそう言って絵を修正していきます。
だんだんとお二人に絵が近づいてきました。
まあ、絵師ではないのでそっくりとまではいきませんけれども、中々にいい線いっているのではないでしょうか。
「では、そうですわね。グリニャック様のお考えになったデザインの中では、これや、こちら等が似合うのではないでしょうか?」
それは、前立ての部分にフリルを使ったもので、今のお二人のかわいらしさを十二分に発揮できるようにデザインしたものでございました。
やはり、プロの目から見てもお二人の麗しさと可愛らしさを表現するには、このようなデザインがいいのですね。
「色は、お二人とも黒で統一するとして、ジャケットの襟もとにはそれぞれ金銀の刺繍を入れるというのはどうでしょうか?」
「それ、いいですわね!」
「グリニャック様のお好きなお花は何でしょうか?」
「そうですわね、薔薇でしょうか」
「では、薔薇の意匠にいたしましょう」
流石はプロです。どんどんと話が進んでいきます。
わたくしが眠いのを我慢して考えたデザイン画に手が加えられていきます。
だんだんと完成に近づいて行くデザイン画を見て、それを着ているお二人を想像するだけで、涎が出そうですわ。
「リザベットさんにも是非わたくしの誕生日パーティーに参加していただきたいのですが、お忙しいですものね」
「そうでございますね。けれども、仮縫いの時にグリニャック様のご婚約者の方々にはお会いできるでしょうし、それで満足でございますよ」
「そうですか? でもそうですわね、仮縫いでお二人に会う必要がございますものね」
「ええ、グリニャック様達は成長期ですし、毎回仕立てる際にはサイズを測らなければなりませんからね」
「そうですわね」
そう、お二人はまだまだ成長期なのですわ! これからもどんどん色気を増していくのは決まっておりますもの。ああ、わたくしってばそんなお二人を前に、理性が保ちますでしょうか?
常に冷静になれるよう、淑女教育に力を入れなければなりませんわね。
仮縫いはリザベットさんが直接、お二人の家に行くそうなので、わたくしがお二人が実際に衣装を身に纏った姿を見ることが出来るのは、二週間後の誕生日パーティーになりますわね。
ああ、楽しみですわ。きっとかっこかわいいに決まっておりますもの。
会場に集まった令嬢達の目を引くのは必須ですわね!
あ、でも誕生日パーティーには五強の方々も参加なさいますのよね。
……そういえば、プリエマはドレスのデザインについて、今日まで一切話してはいませんけれども、もしかして五強の誰かから、しいて言えばウォレイブ様からプレゼントしていただけるのかもしれませんわね。
そんな感じで二日が経ちました。
今日は、わたくしのもとに、トロレイヴ様とハレック様がご紹介してくださったデザイナーの方がお見えになる予定です。
「初めまして、グリニャック様。アタシはアナトマ、まだまだ駆け出しのデザイナーだけど、腕は確かなつもりよ」
「まあ、貴方が……」
お会いして驚きました。このアナトマ様は、『オラドの秘密』では攻略対象のお一人でいらっしゃって、いわゆるオネエ系のキャラクターでいらっしゃいます。
「本日はよろしくお願いいたします」
「任せてちょうだい、グリニャック様の事を世界一可愛く仕上げて見せるわ」
アナトマさんはそう言って、腰まである青い髪をさらりとはらいました。
なんというか、オネエ系独特の色気のある方ですわね。『オラドの秘密』でも結構人気上位にいらっしゃった方ですわね。
言葉遣いは、公爵令嬢に対してはどうかと思いますが、それもアナトマさんのキャラクターですので、仕方がないのかもしれませんわね。
それに、確かちゃんとする時は、ちゃんと出来ていたように記憶しておりますわ。
アナトマさんは早速と言った感じに持ってきたドレスをわたくしに着せていきます。
サイズはいつ測ったのかと思うほど、わたくしにぴったりでした。目視でわたくしのサイズを測っていたのでしょうか? なんだか恥ずかしいですわね。
「うーん、グリニャック様はちょっと細すぎなんじゃないのかしら? ちゃんと食べているのぉ?」
「ええ、ちゃんと三食と間食を食べておりますわよ?」
「そうなの? まあ、がりがりってわけじゃないし、いいけど、女らしさを出すには、ちょっと肉がついていた方がいいのよん」
「……わたくし、まだ六歳になる前でございますので、女らしさと言われましても」
「あら駄目よ、女は何歳でも女なんだから! 今から考えておくに越したことはないのよ」
「そういうものですか」
「そうよん」
確かにお母様は、胸もお尻も肉付きの良い美女ですものね。その遺伝子を引いておりますので、わたくしもああなれる可能性はございますけれども、そうですわね、トロレイヴ様とハレック様の間に立って恥をかかせないためにも、今から美容に関しても勉強したほうが良いかもしれませんわね。
そう考えているうちに、仮縫いが終わり、アナトマさんは布地を纏めて、仕上げは工房でしてパーティーの前日までには届くように手配すると仰って屋敷を出ていかれました。
はあ、なんだかすごいパワーのある方でしたわね。流石は攻略対象。一味違いますわ。
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