第10話 飛ばされる者。
厳粛なる僧兵総隊長と地位にはあるが、エクルー神官とて人の身。
何の感情もなく、戦闘やその場に身を投じるための訓練に身が入り過ぎ、滾る雄としての熱を持て余すことも少なくない。
縁あって伴侶を得ることができた今では、年齢と経験を重ねたということを考慮しても、自分自身をコントロールできていると思うが、若いうちは同志たちで互いに慰め合ったこともあった。
故に若い僧兵たちが隊内もしくは他の神殿の武門神官と道ならぬ関係になったとしても、一時のことと目を瞑ってきたのである。
しかし──
現在自分の直属にした副総隊長のナダッシュ神官は、当然その実力から取り立てた者ではあるのだが、いささか自分の立場を取り違えている気がしてならなかった。
ハッキリとした証拠は掴めていなかったが、どうも武門神官の間でヒエラルキーを自分の良いように解釈し、力無き者を様々な意味で搾取しているのではないかと疑っている。
それが行き過ぎないように自分の監視下に置くつもりもあっての起用であったが、その取り立てこそが増長を招いてしまったのかもしれない。
いや──実際はもう『かもしれない』という願望など微塵もなく、確実に自分がこの者にも周囲の者にとっても害となる地位と権力を与えてしまったのだと気付いている。
でなければ、この扉に掛けられている紋章が発動するわけはないのだ──『この家に住む者に如何なる害意を持って近付く存在は 如何なるものであれ 我が敷地から飛ばされよ』などというふざけた風魔法の陣が。
今ナダッシュ神官が意気込んで掴んだ取っ手を持ったまま、為す術なく吹っ飛ばされるのを見て、エクルー神官は己の判断違いを悔いた。
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