第9話 役に立たない者。

最初の頃は月の形、葉の濃さ、神殿の敷地に植えられている花々で曖昧に時の移ろいを感じていただけの少年は、言葉を覚え、数を覚え、知識を蓄え、身体を鍛え、1人で生きる術を2人の師匠であるバルトバーシュとマクロメイから叩き込まれる日々を送った。


それはほぼ廃屋だった家に住まわされて半年。


もうそろそろ反省しただろうと、僧兵総隊長が少年と問題神官2名の憔悴ぶりを確認するためにやってきた。

「な……んだ……ここ、は……」

『家』というよりも厩と物置の上に仮眠できるスペースがあるぐらいだったはずの簡易的なボロ小屋は、増築され立派に4人家族ぐらいは住めるほどの小洒落たログハウスへと変貌していたのである。

「バッ、バカなっ……」

ざわめく僧兵たち。

懲罰された者がどんなに苦境に陥ろうが手助けする者はなく、ほぼ着の身着のままで閉じ込められているはずなのに、このように改築したり、健康を損なわずに暮らしていくことなどできないはずなのだ。

僧兵たちはその役目上、訓練で野営も経験しているが、神殿から必要以外は外出したり自炊などすることもない神官が、役に立たなさそうな子供1人抱えて生きていくなど──

むしろ早々に栄養失調に陥った少年を抱えて神殿本館に戻り、自分では少年を守ることすらできないと、僧兵たちに泣きついてきたところで恩を売り、少年の『保護権』を『譲って』もらうはずだったのだ。

「クッ……」

僧兵副隊長と数名の僧兵が顔を歪めたり青褪めたりするのをチラリと見ながら、総隊長であるエクルー神官はもはや普通の一軒家へと近付いた。

何も考えずに取っ手に手を触れようとし──ピタリと止まる。

「ナダッシュ……ナダッシュ副隊長!」

「はっ、はい?」

ふっと一瞬躊躇い、配下の中でも一際忌々しそうな者を呼びつけた。



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