第8話 閉じ込められる者。

だがそんなことを悩む暇は1ヶ月と持たず、少年はバルトバーシュだけでなく、マクロメイと共に聖ガイ・トゥーオン神殿が所有する土地の森のさらに端にある打ち捨てられた廃屋に追いやられた。

理由は『名無しの滞在者が用もないのに立ち入り禁止の場所に入り込んだのを咎めた僧兵副隊長に対して暴行に及び、魔術神官マクロメイがそれに便乗して己の風魔法の威力を知らしめるためだけに発動に及んだ。同所にいた魔術神官バルトバーシュは指導すべき滞在者を咎めねばならないところを傍観し、さらに神官マクロメイまでもが騒動に加わることを黙認した連帯責任を取り、ふたりを監督するために共に離れに謹慎する』というものである。

「物は言い様だな」

「まったくもって、その通り……まさかエクルー様が書状だけを見て、額面通りに受け取って本館から追い出されるとは思わなかったが」

「クククッ……そのせいで、この子を手篭めにしようと企んでいたバカ僧兵どもは、目の前で神の手にかっ攫われるのを指を咥えて見てるしかなかったってのはお笑いぐささ。あいつら、お前の手からこの子を取り上げて『奉仕』させようとしていたらしいぞ」

マクロメイが何故そのようなことを知っているのかとは聞かず、バルトバーシュは呆れたという表情で頭を振った。

この男が地獄耳なのは見習いの頃から周知だし、僧兵たちが己の欲望を満たそうと奸計を計ったことも間違いないと思う。

その当てが外れたのはまさしく神の采配とも言えるが、そもそもこの子がこの教会に現れなければ起きなかった騒動とも言える。

「全くもって、不思議な子であるよ、お前は」

「おまー?」

ようやく片言ではあるが、人語の発音を覚え始めた少年は、師匠の最後の発音だけを真似して笑った。

それは自分を守ってくれる『両親のような者』とだけ、彼らだけがこの場所にあると理解しているからかもしれない。


名前の無い少年が何故か『家』から離れ、『聖ガイ・トゥーオン神殿』に現れてから3ヶ月が過ぎていた。


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