第7話 洗われる者。
ふぇぇぇ…ぇぇぇぇ……
弱々しい泣き声が洗濯室から洩れながら、同時にバシャバシャと水の跳ねる音もする。
本来なら共同で使う浴室があるのだが、さすがに下半身が汚れた少年を湯船につけるのは好ましくないと、聖堂や居室にかかる大きな布類を纏めて洗うための
「……ったく。こんなトリガラみてぇなガキを餌食にしようなんざ、ガイアーラス王国辺境治安を任される聖ガイ・トゥーオン神殿僧兵隊の名が泣くぜ、まったく……」
「まあ…総隊長であられるエクルー様が戻られたら、規律も元に戻るだろう」
『洗濯を教える』といったものの、けっきょく少年と助けた神官の汚れ物を洗っているのは、『少年の師匠』に認定と任命されてしまったバルトバーシュであり、恐怖から安堵への直下で泣き止まない少年を洗っているのはその助けた神官であるマクロメイだった。
ふたりはともに神殿内の魔術部門で双肩を並べるが、バルトバーシュは学問専門、そしてマクロメイは攻撃や防御など武術に使える魔術を研究している。
特に風魔法の特性が生まれつきあるマクロメイは魔術式を組まずとも、風魔法で盾を作ったり、先ほど僧兵副隊長をぶっ飛ばしたように自分の手の延長のような形で触れずに敵を殴り倒すことも可能なのだが、それでは他の者には使えないため、自分の魔法を術化できないかというのがテーマなのだ。
「いや……それにしても……」
確かに細すぎる身体ではあったが、少年の筋肉は案外しっかりしており、普通の家庭料理を普通量食べれば僧兵としてもかなりいい感じになりそうではある。
魔力がほとんど感じられないのが気になるが──
「あのバカどもの餌食にするには惜しい……案外バケそうな感じがするんだが」
「うむ……生命維持に必要な分だけ摂取するような……かと言って、走ったり飛んだりといった身体能力は同じ年頃の子供に劣るどころか新人よりも高いようだ」
「……『ようだ』?」
「実際この子を皆の中に連れて行くと、僧兵たちの気に押されるのか全く動こうとしない。生活魔術しか使えないような大人しい連中の側には行くのだがね……少しでも敵意や暴力が振るわれそうになると、すぐ私のもとに帰ってくるのだ」
「それじゃあ……訓練なんて」
「『殺気』のようなものを感じたとたんに逃げてしまうのでは、体術も魔術も教えようがない」
「な、なるほど……」
だがここにただ置いておくわけにもいかないから、いずれはこの少年を受け入れてくれる一般家庭を探さねばならないが──道は険しいと言わざるを得なかった。
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