第9話

 石川による玲奈への好意は完全に隠すことはなく堂々となっていた。


 朝、教室でスマホをいじっていると。


「好きです、付き合ってください!」


 石川の声が教室に響く。


 皆の視線が玲奈へと集中する。


 はあ、本当だ。

 とてもまずいことになってしまった。

 まさか、ついに人前で告白をするとは。

 こんなの断れるはずがない、断れる空気ではないからだ。

 これだから。

 これだから、俺は群れるのが嫌いだ。

 玲奈が何か悪いことをしたのか?

 いいや、していない。

 なぜ玲奈がこんな思いをしなきゃいけないんだ。


「え〜まじ!?」

「ちょっと、これ朝からすごいことになってない!?」


 周りはざわざわと盛り上がる。


 もう完全に告白を断ることができない状態になってしまった。


「ほら、那月ちゃん。付き合っちゃいなよっ!」

「う、うん……」


 俺に何かできたら。

 でも、俺は無力だ。

 何もできない、だって俺はぼっちなのだから。

 ごめん、玲奈……。


 玲奈は困った表情で一瞬こちらを見た。

 目があった。

 

「わかった……」


 作り笑いで。


「よろしくね」


 その日学校中は玲奈と石川の話で盛り上がった。



 放課後──。


 屋上にて。


「ねえ、なんであの時……私を助けてくれなかったの?」


 俺は玲奈に呼ばれてやってきたが、やはり玲奈は怒っていた。


 目は完全に潤っていて泣くのを我慢しているのが見てわかる。


 やめてくれ、そんな顔をしないでくれ。


「……ごめん」

「私、怖い。梓くんも信じれなくなったら私はどうやって生きればいいの!?」

「……ごめん」


 ごめん、ただその一言しか返す言葉がない。


 ああ、本当に俺は何をしているんだ。


「私、梓くんを信じた。きっと、なんとかしてくれるって、だって昨日言ったじゃん。なのに、なのに──こんなんじゃあ、学校にますますいく理由がなくなったよ」


 と、しゃがみ泣き崩れる玲奈。


 見ているだけでも胸に穴が開きそうだ。

 

 やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ。


「私、これからどうすればいいの? ねえ……教えてよ」


 無理だ、俺は無力だ。

 玲奈を助けることなんてできるはずがない。


「ねえ、明日、早速放課後、石川くんに家に来るって言われちゃった……私嫌だよ。梓くん以外に身体を見せるの──」


 取り返しのつかない、とんでもないことをしてしまった。

 

「ごめん」


 なんで俺はこんなにも弱いんだ。

 普段心の中では強がっているのに。


「ごめんじゃ、もうすまないよ……梓くん」


 くそ、こんな俺が嫌いだ。

 

 俺は玲奈を強く抱きしめ。


「本当にごめん。あとで石川のところに行く」

「どうせ口だよね」

「違う、絶対に石川に言う。玲奈と別れるように……言う!」

「じゃあ、指切りしよ」

「うん……」


 玲奈の小指に小指を絡める。


「石川くんって今日サッカーだから……」

「ああ、終わるのは六時頃だよな。それまで待つよ」


 現在時刻は四時過ぎ、約二時間ほど待つことになるが玲奈のためだ。


「信じていいの?」

「ああ、信じてくれ」

「わかった、じゃあさ、ここでエッチしよ♡」

「え?」


 たしかにここは放課後人が来ない場所だけれど、ここでするのは……。


「もう、エッチしないと心が壊れちゃいそう」


 いや、玲奈がそう言っているんだするしかない。


「わかった」


 その後、俺は誰かに見られるという緊張感の中した。


「ねえ、梓くん?」

「ん?」

「お尻でもしてみたい」

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