『食事』

「ねぇ、アルフレッド。幸せって何なんだろうね」


 アルフレッドがご飯を食べてる。僕はその様子を眺めてる。何故なら、アルフレッドはよくご飯をこぼすから。……ああ! またこぼした! まぁ、そこが可愛いんだけどね。


 話が逸れた。気を取り直す。僕はもう一度、アルフレッドに言ってみた。


「ねぇ、アルフレッド。幸せって何なんだろうね」


 と。

 が、アルフレッドからの返答はない。一心不乱に目の前のご飯に食い付いている。だから僕も気にせず話を続けた。


「だってさ、考えてみてよ。僕達には、こんな素敵な家がある。映画も音楽も絵画も小説もある。そして、一日三度の食事もある。更には寝床まで。こんな幸福なことはないよ。……でも、それでも分からない時があるんだ」


 カラン、と食器の音がする。見れば、アルフレッドが完食していた。アルフレッドの褐色の純粋な目が僕をじっと見つめている。


 アルフレッドが僕に何を言いたいかは分かっていた。けど、僕の気持ちは抑えられなかった。気づけば、口から次々に言葉が溢れ出てった。


「幸せなはずなんだ……!幸せじゃなきゃいけないんだ! だって、恵まれてるから! 不満なんかあっちゃいけないんだ! けど……! どうしても、あの子達が羨ましいって思っちゃうんだ! って何なんだよ……!」


 頭が痛い。心臓もうるさい。呼吸が乱れる。僕自身も、何でこんな事考えてるのか分からなかった。


 けど今は、アルフレッドがテーブルの上にあるお皿を落とそうとしてる事の方が重大だった。

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