『小説』

「ねぇ、アルフレッド。僕は幸せ者だよ」


 ソファに座りながら本を読んでいた僕は、目の前を横切ったアルフレッドに向かってそう言った。が、当の本人は眠そうに欠伸をしている。興味が無いといった様子だ。


 けど僕は気にせず話を続けた。


「好きな映画、好きな音楽、好きな小説、好きな絵画。これらを見て、聞いて、読むことが出来る僕は幸せ者だね。ちなみに今、僕が読んでる小説は“夏目漱石”っていう人が書いた──────ん? 何その顔」


 ふとアルフレッドの顔を見たら、何故か真顔だった。さっきまで呑気な顔をしてたのに。何でだ?


 が、僕はこの顔を知っている。アルフレッドがこの顔をする時は“うるさい”という意味だ。これ以上話しを続けたら、パンチが飛んでくる。……仕方ない。この話はまたの機会にしよう。


 読み途中の所で栞を挟み、本を閉じる。すると、アルフレッドの顔が一気に安堵の表情に変わった。分かりやすいヤツめ。


「……あっ! 見て、アルフレッド!」


 読書を強制中断させられて暇になり、この後何をしようかな? と何気なく窓の外を見たら、夜空に雲が一つも無かった。思わずベランダに出て、空を見上げる。アルフレッドもついてきた。


 夜空には、本当に雲が一つも無かった。あるのは沢山の星と大きな満月だけ。こんな美しい夜をまじまじと見たのは何年ぶりだろうか。


「月が綺麗ですね」


 僕の言葉にアルフレッドは首を傾げ、リビングに戻って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る