『言葉』

「ねぇ、アルフレッド。幸せは……長くは続かないみたい」


 薄暗い部屋。電気はついてない。そしてこの部屋で壁を背にして座り込んでいるのが僕。まるでどっかのドラマのワンシーンみたいだ。きっと売れないだろうね。


 そんな僕の隣に居てくれるのは、アルフレッド。さっきから僕を心配そうにして、潤んだ目で覗き込んでくる。いつもなら、アルフレッドを抱き締めていただろう。けど今は、その気力もない。


「アルフレッド、この世界はくだらないよ。キミもそう思わないかい? ……いや、キミに聞いても無駄だよね。ごめん」


 不思議と涙が目から零れてくる。悲しみとか、怒りとか、そういう感情で泣いてるんじゃない。ただただ虚しかった。この涙も、どうせ意味なんか無い。


「……キミはもう、大人だ。出会った時は子供だったけど、今のキミは大人だ。だから、もし僕がいなくなっても大丈夫だよね? アルフレッド」


 震える手でアルフレッドの頬を触った。正直、手の感覚があまりなくて触り心地がよく分からなかった。せっかくのアルフレッドの気持ち良いほっぺたが……。


 そんな事を思っていた刹那──────


「っ!?」


 アルフレッドが声を上げた。か細い声で─────けどその声はだんだん大きくなり、泣き声のようなものに変わった。


 驚いた。アルフレッドは、普段声をあまり出さない。そのアルフレッドが今、大きく口を開けて泣き声を上げてる。こんな事は初めてだ。まるで、僕が言った言葉を理解して泣いてるみたいだ。


 そんなアルフレッドを僕は抱き締め、笑った。


「馬鹿だなぁ、アルフレッド。泣いてちゃ何を言ってるのか分からないよ」


 キミが僕と同じだったら、もしくは僕がキミと同じなら。なんてことは、今日で何百回願っただろうね。

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