第21話 ドラゴンとの共存

 精霊の作った空間では、本物のブラックが現れる事が出来たのだ。

 ブラックは私達を見て謝るのだが、私は消滅していない事がわかって安心したのだ。

 だが、この空間は一時的なものであり、ずっとこの中にいる事は出来ないのは誰もがわかっていた。


「ここも長くはもちません。

 ブラック、考えがあるなら言ってください。」


 精霊がそう言うと、みんながブラックに注目したのだ。


「実はドラゴンを消滅させる事が難しかったので、仕方なく共存関係を受け入れたのです。

 だが、どうも私の核を包むようにドラゴンの魂が存在するようなので、私が表に出る事が出来ないのです。

 ここでは精霊のおかげで、ドラゴンの力が発揮されないようになっているので、私は出て来る事が出来たのですがね。

 内側からドラゴンのエネルギーを抑えることしか出来なかったので、なかなか上手くいかなくて。

 心配させてすまないね。」


「では、やはり消滅や封印は難しいのだろうか?」


 アクアは悔しそうに言ったのだ。


「一つ気付いた事があるのです。

 このドラゴンは今までとは違い、意志を持ちこの世界に興味を持っているようです。

 それも、ワガママな子供のような・・・

 そうであれば、どうにかなるかもしれません。

 まずは、我々の国に連れて行ってほしいのです。」


「ブラック、そんな簡単には無理じゃ無いか?

 それにこの会話は聞かれてるんじゃないの?」


 スピネルがため息混じりに言うと笑いながらブラックが言ったのだ。


「大丈夫。

 今は私が優位になっているので、聞こえないはずですよ。

 スピネル、魔人の王として迎えると言えばいいのだよ。

 このドラゴンは私に一緒にこの世界に君臨しようと言ってきたのだよ。

 きっとおだてれば、気分良く行くと思うよ。

 それに、向こうに行けば、頼りになる仲間が沢山いるではないか?

 きっと上手くいくよ。

 そしてアクア、君には大事な仕事をお願いするよ。

 一部の封印されたエネルギーは絶対に渡してはいけない。

 それを持って姿を隠してくれ。」


「隠れるってどこに?

 どこに行けば見つからないだろう。」


「私がなんとかしますよ。」


 精霊はそう言って、ブラックを見たのだ。

 ブラックは精霊に頷くと私のところに来たのだ。


「舞、あの薬を持ってきましたか?」


 私は黙って頷いてブラックを見つめたのだ。


「良かった。

 それを使う事が1番の効果的な攻撃です。

 もしもの時は躊躇せず、使ってください。」


「でも、闇の薬を使えば、ブラックまで消滅しかねないのよ。」


「それは覚悟の上です。

 私がいなくなっても、ドラゴンも消滅すれば問題ありません。

 魔人の国も私がいなくてもみんながいますから安心です。」


 そう言って微笑んだのだ。

 そんな事言われても、全く納得がいかなかった。

 

「そろそろこの空間も消滅します。

 では、この後すぐにアクアと共にここから移動します。

 皆さん気をつけてください。」


 精霊がそう言うとブラックは最後に私の耳元で話したのだ。


「舞、いつでも私に会いたいと思ってほしい。

 私もそう思っているから。」


 そう言って私から離れると、ブラックの動きが止まったのだ。

 そして周りの風景も元の草原に変わり、静かで心地よい風が流れている場所に戻ったのだ。


 しかしブラックが再度動き出すかと思うと、左手を掲げて辺り一帯を炎で焼き払ったのだ。

 その顔は怒りに溢れていたのだ。

 ブラックとドラゴンが入れ替わったのだ。

 すぐにスピネルがドームを作り、私たちは炎に巻き込まれる事はなかった。


「小賢しい真似をしおって。

 何を企んでいる。」


 ブラックの姿のドラゴンは怒鳴り始めたのだ。


「まあ、話を聞いてください。

 魔人の王と話をし、今はあなたと共存関係と聞きました。

 このまま、魔人の王として迎えよとの指示を頂いたのです。

 今から魔人の国にお連れしますので、お気持ちを鎮められるように。」


 スピネルはそう言い跪いたので、私達も同じ態度にする事にした。


「ほう、魔人の国とはこことは違う場所なのか? 

 ・・・我を陥れるつもりか?

 まあ、我に攻撃すると言う事は、お前達の王に攻撃する事と同じであるのはわかっているだろうが。」


 そう言って辺りを見回して言ったのだ。


「あのドラゴンの民はどこに行ったのだ。」


「それが、王より共存の話を聞いた途端納得できないと逃走してしまったのです。

 捜索するように指示を頂いておりますので、見つかるのは時間の問題かと。」


 スピネルがスラスラと状況に合わせた言葉が出て来ることをすごいと思った。

 私だったらすぐにボロが出てしまうだろう。


「なるほど。

 代々自分達の種族が封印してきた者が、自分の王になるのが許せないのだろうな。

 捕まえたら、必ず我の元に連れて来るのだぞ。」


 先程と違い自分の残りのエネルギーへの執着よりも、魔人の国への興味の方が強かったようで、アクアの事はそれ以上追求しなかった。

 確かにブラックが言った通り、子供のように思えてきたのだ。


「では、案内するのだ。」


 そのドラゴンはスピネルに向かいそう言うと、スピネルは私達みんなを連れて、魔人の国に繋がる洞窟の入り口まで一瞬で移動したのだ。

 そして、スピネルは私とシウン大将にここまで良いと話し、ドラゴンとスピネルはトンネルの中を歩き出そうとしたのだ。

 私も一緒にと思ったが、今ドラゴンの機嫌を損ねるのは問題であったし、私が持つ薬が切り札になるのなら、まだ無理な行動はするべきでないと思ったのだ。


 だが、ドラゴンが洞窟に向かおうとした時、私に向かって言ったのだ。


「おい、そこの娘。

 お前は弱い人間でありながら、なぜ魔人達と一緒にいたのだ。

 なんの武器も持たず、横の剣を持つ者とは違うであろう。」


 確かに、なんの力もない私があの場にいた事は違和感しかないのかもしれない。

 私はとっさに嘘をついたのだ。


「私はこちらの国にいる間、ブラック様のお世話をしておりました。

 その為あの場に居ただけなのですが。」


 何だか無理がある設定ではあったが、それしか思いつかなかったのだ。

 すると、あまり疑問にも思わずドラゴンは私に言ったのだ。


「そうか、ではこの後は私の世話をする事を許す。

 一緒に来るのだ。」


 スピネルとシウン大将の顔を見た後、私は心からそのドラゴンに伝えたのだ。


「一生懸命、お世話をさせていただきます。」

 

 そう言って私は頭を下げたのだ。

 そしてドラゴンは興味深そうに洞窟の中を覗き、前に進んだのだ。

 スピネルを見ると少し不安げな顔をしていたが、私は笑顔で返したのだ。


 ブラックが言ったように、きっと上手く行く。

 私の不安な気持ちは一切無くなったのだ。

 ブラックの側にいることが出来るのであれば、絶対に何とかなるはず。

 こんな時でも、楽天的な私であったのだ。

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