第20話 偽物

 アクア達はブラックがこちらに歩いてくるのを黙って見ていたが、私に後ろに下がるようにと指示したのだ。


「舞、残念だけど今のブラックは我らが知るブラックでは無いぞ。

 すぐにさがって。」


 アクアとスピネルは私の前に立ち、ブラックの姿をした者を睨んだのだ。

 

「これはこれは、何でそんな顔をするのだ?

 お前達の主人ではないか?」


 不敵な笑いをして左手をこちらに向けると、炎の波とも言えるものをこちらに放出したのだ。

 素早くスピネルが炎を操作し、その波が到達する前に消滅させたのだ。

 その者の姿はブラックではあるが、そのオーラ、その話し方、仕草、全てがブラックではない事が明らかであった。

 

 ブラックはあのドラゴンに負けてしまったのだろうか。

 私は不安でたまらなかった。


「お前が魔人の王ではない事くらいわかっている。

 ふざけるのはいい加減にしろ。」


 スピネルはそう言って、その者をドームを作って隔離したのだ。

 そしてドームの中を炎で埋め尽くしたのだが、その者は顔色を変えるどころか笑って左手を上げたのだ。

 そして指をパチンと鳴らすとドームの中の炎は一瞬で消え、ドームも消滅したのだ。

 この者に炎が全く効かない事は明らかであった。

 さらに、スピネルのような炎の使い手でもあったのだ。


 シウン大将は持っていた剣を振り回し、氷の刃をその者に放ったのだ。

 ドラゴンと氷は相性が悪いはずなので、効果的にも感じたのだが、その者も炎の剣のようなものを生み出し、氷の刃を受け止めたのだ。

 やはりダメージを与える事は出来なかったのだ。


「ほう、人間のくせに面白い物をもっておるな。

 だが、我にはそんな物は効かないのだよ。」

 

 そう言って、氷の刃で出来た道筋さえもその者の放つ炎で消滅したのだった。

 そしてその者はアクアを見て言ったのだ。


「ドラゴンの民だな。

 私の残りのエネルギーを返してもらおうではないか。

 それがあれば、完全体なのだ。

 そうすれば、この魔人に抑えられる事は無くなるだろう。」


「やっぱりそうか。

 確かに強いが、かつてのドラゴンは破壊的な力を持っていたと聞いていた。

 今のお前はそこまでとは思えない。

 ブラックが抑えていたのだな。

 全くブラックの気配を感じられないのが不思議なのだが・・・。

 まあ、勝機はまだあるな。

 残りのエネルギーは封印した。

 渡すわけにはいかない。」


「・・・余計なことを言ってしまったな。

 なるほど。

 では我を倒すがいい。

 お前達の慕う魔人の王も倒す事になるかもしれないぞ。

 それで良いのか。」


 やはりブラックとドラゴンは共存しているようだ。

 だがなぜ、ブラックの気配が消えているのだろう。

 ドラゴンの力を抑える事に専念する事で、表にはドラゴンしか現れないのか。

 ドラゴンの勝手にさせている事が不思議だったのだ。

 それとも、・・・抑えきれていないのか。

 どちらにしろ、理由がわからない事にはアクアに使った薬は使えないのだ。

 かと言って、このままだと被害が出てしまう。

 それにもしアクアの封印したエネルギーが渡ってしまったら、どうすることもできないのだ。

 

 その時、私の胸ポケットにいる精霊が話しかけてきたのだ。


「シウン殿は私の種をまだ持っていますか?」

 

「ここにありますが。」


 シウン大将は手の中にある、先程受け取った種を見せたのだ。


「では、スピネル、私達を洞窟の外の草原に連れて行ってくれますか?」


 スピネルは黙って頷き、みんなを連れて一瞬で洞窟の外の草原の中に移動したのだ。

 外は穏やかな風が流れる静かな場所が広がっていた。

予想通り、私たちが移動すると同じ場所にブラックの姿をする者も追いかけてきたのだ。

 

「逃げても無駄だ。

 そのエネルギーは必ず戴くからな。」


 その者がそう言って私達に近づいてきた途端、草原が大きく揺れ始め木々がうねりだしたのだ。

 そしてシウン大将の持っていた種からは大きな枝や蔓が出て来てあっという間に私達を囲み、その内側は別の空間へと変わったのだ。

 森の精霊が異空間を作ったのだ。


「面白いな。

 こんな事が出来る者が魔人にはいるのか?

 やはり、ただこの世界を炎で埋め尽くすよりも興味深いことがあるな。」


 その者は、あっという間に別の空間が作られた事に驚いてはいたが、楽しんでいるように見えたのだ。


「私は魔人ではないですよ。」


 そう言いながら、私のポケットから青い光と共に精霊が現れたのだ。

 この空間では元の姿でいられるようなのだ。


「この空間では、あなたの力は無意味です。

 私が支配する場所ですから。

 今ならブラック、あなたも出て来れるはずですよね。」


 そう精霊が言うと、その者は苦しそうな表情をして座り込んだのだ。

 そして少しして立ち上がり、私達に声をかけたのだ。


「すまない、どうも上手くいかなかったようだ。」

 

 そう言って、私達を見つめたのだ。

 その者のオーラ、声、仕草全てが私の知っているブラックであったのだ。

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