第二話【対田原総一朗対策】
社会部長は天狗騨のその〝すっとぼけた答え〟に渋い表情をしながら、
「『思うところを自由自在に語ってくれるな』という社命だという事だ。ちなみに、〝内心の自由〟だとか、いつもの反論は受け付けられない」と言い渡した。
続けて左沢政治部長も圧迫を加えてきた。
「俺が『護憲陣営に座っているだけで』と言ったろう! いいか天狗騨、俺達はあくまでASH新聞代表として『朝まで生テレビ』に出るんだからな。当然〝護憲論〟の立場で喋るんだぞ! 間違っても『9条は改正すべき』とか言うんじゃないぞ!」
「解りました。大いに護憲論を吐きましょう」
〝吐く〟という表現に若干の不安を覚えた社会部長は、ひとつ訊いてみた。
「で、こんな時期だが改憲論者に勝てる見込みはあるか?」と。
「いえ、相手は田原総一朗氏でしょう。『朝まで生テレビ』なんですから」と天狗騨が応じた。
「司会者に勝つつもりか?」
「あの人はあの番組の中では司会のように見せてるけど司会じゃないですね。公共放送の司会なら行司役に徹してくれますが『朝まで生テレビ』では司会が論客をやってますからね」
「しかし、田原総一朗氏は改憲論者だったかな?」社会部長が独り言のようにつぶやいた。価値観が同じでは論戦など成立しないのは〝道理〟である。
「とは言え護憲論者だという話しも聞きません。右派・保守派陣営からは左翼だと思われているようですが」と天狗騨が応じる。
「では田原氏とは何者だと考えている?」
「無定見です」
「無定見ってな……」
「どぎつい疑問を人に投げつけその反応を楽しんでいる節がある」
「身も蓋も無いことを。あの歳だし今やこの業界じゃ重鎮扱いなんだぞ」
「彼は手刀の使い手です」突然妙な事を口走り始める天狗騨記者。
「はい?」
「話しが長くなりそうだとこう指先を揃えて何度か上下に振りツッコミ始めるんです。それが手刀のようで。まああまり話しを長くしないのが対田原氏唯一の対応策でしょう」
「大丈夫か?……」
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