第47話 乱入

「ハッキリ言っておいてやろう。俺から見れば、さっき倒した男は雑魚にすぎない」

「不意打ちで倒しておいてよく言うよ」

「正々堂々と戦っていたとしても結果は同じ。それを今から証明してやる」


 男は自分の周囲に炎を現出させる。

 その数、四つ。

 巨大な炎が、衛星のように奴の周囲をグルグルと回り出した。


「そおれ、死ね!」


 炎の回転は勢いを増し、そしてその勢いのままこちらに放出される。

 俺の体よりも大きな炎。

 それが高速でこちらに接近してくる。


 俺はこれを素早く回避し、そして奴の側面まで移動した。


『し……神速……』


 俺の動きを見て、マイク岩城がポツリとそんなことを漏らしていた。

 

「今のを避けるか……厄介な奴だ」

「厄介なのはお前の方だよ!」


 膝蹴りを相手の横っ腹に叩き込む。

 ボキボキと骨が折れる感触が膝に伝わって来る。 

 可哀想だとは思うが……でもこれはお前が始めたことだ。


「ぐぅうううううう」


 相手は膝をつき、腹を押さえる。

 俺は奴から距離を取り、動きを見据えていた。


「もうやめろ。お前に勝ち目は無い」

「勝ち目が無い? 何を言っている……まだ俺は全力を出してはいない!」

「全力を出していないのは、俺もだ」


 男は俺を睨む。

 そして膝をついたまま再び炎を現出させた。


 次の炎は先ほどの物とは比べ物にならないぐらいの巨大さ。

 そしてそれは、ドンドン肥大していく。


「終わらせてやる……ここにいる馬鹿どもまとめて殺してやる!」

「に、逃げろー!!」


 観客席の方では大パニックが起きていた。

 観客席を守る防護壁というのが張られているようだが……しかしそれには限界がある。

 男の炎に触れた防護壁に、少しずつヒビが入っていく。


 防護壁とは、半透明なもので……【エーテル】によって形成されているらしい。

 頑丈なはずの防護壁にヒビが入り、奴の火力の高さを物語っている。


『た、退散だ! 逃げろ! でも俺は最後までジャスティスイグナイトを応援するぜ! それが俺の役目だからだ!』


 マイク岩城は、マイクを握ったままその場を動かない。

 実況こそが彼の役目だと言わんばかりの目でこちらを見ている。

 その隣にいる純。

 彼女はしかし、周囲の反応とは対照的に落ち着いた様子だ。


 そして純はマイクを彼から奪い、俺に向かて叫ぶ。


『2号さん! 勝つよね? 私、信じてるから!』

「俺だって信じてるぞ! お前は負けねえってな!」


 純だけではなく、それを聞いていたおじさんも観客席の最前列まで移動してきて、カメラをこちらに向かてそう叫んでいた。

 さらにはおじさんの隣には結希と五十鈴ちゃんまでもがおり、親指を立ててこちらを見ている。


「これは負けられないな」

「負ける運命を前にして何を言っている? 防護壁さえも防げない俺の攻撃。生身の人間が耐えれるとでも思っているのか?」

「それは……やってみないと分からないだろ?」


 俺は深呼吸し、相手の攻撃を迎え撃つことにした。

 相手は一瞬驚くも、しかし肩を震わせて炎をこちらに放つ。


「地球人の分際で……調子に乗るな!!」


 炎はゆっくりと俺の方へと接近してくる。

 だが俺は酷く落ち着いた気持ちで、その炎を待っていた。

 それは確信があったからだ。


 俺ならあれをふせぐことができると。

 そう、俺の能力は【エーテルマスター】。

 敵にどれほどの力があろうと、【エーテル】が俺に応えてくれる。

 

「あの炎を蹴散らす……蹴散らすぞ!」


 俺の体から激しい風が吹き荒れる。

 発生した突風に男が吹き飛び、壁に衝突していた。


「いくぞ……全てを飲み込め! イグナイトストーム!」


 観客席を除く中央の空間。

 その全てを飲み込むほど強大な風が発生する。


 風はゆっくりと炎を飲み込み、周囲に赤い風が舞う。


「バ……バカな……俺の炎を飲み込んだだと?」

「俺は負けない。俺を信じてくれる人がいる。それに自分を信じているんだ。自分を信じる者に、敗北はないと思い知れ」


 そのまま風の力を解放してやると、防護壁が全て砕け散った。

 その風を受けた男は、壁で頭を打ち、気を失う。


「…………」


 相手が動かないのを確認し、俺はホッとためいきをつく。

 すると観客席の方から、ジャスティスイグナイトの姿に変身したおじさんが駆け寄って来る。


「やったな、2号」

「うん……でも、なんでその恰好に?」

「俺が近づいたら身元がバレるだろ?」

「ああ、なるほどね」


 倒れている男を俺たちは視認していた。

 すると会場中から爆発するような大歓声が起き出す。


『まさか、あれほどの奴を倒しちまうなんて……もうこれは、【バトルウォーリア】の出場決定でいいんじゃないか!? なあ皆、そうだろ!?」


 その場にいる者たちが、マイク岩城に応えるように、「うぉおおおおおおっ!}と叫んだ。

 

 思わぬ戦いに発展したけど……まぁ結果的に出場決定となったのならそれでいいか。


 俺は笑みを浮かべる純の方に視線を向ける。

 彼女は俺の視線に気づいたのか、より一層笑みを強め、こちらに視線を返してくれた。

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