第43話 ヴァイス・ガンナー

 【バトルウォーリア】の出場権を賭けた戦いはとうとう明日という日。

 俺はおじさんと共に、おじさんの家で対戦相手のことをリサーチしていた。


「『魔弾の貴公子』……『ヴァイス・ガンナー』か」


 対戦相手の動画をパソコンで見ていたのだが……おじさんが憎悪感をむき出しにして、その動画が映し出された画面を睨み付けていた。


「こいつ……モテそうでムカつくぜ……タク。こいつは完膚なきまでに叩きのめせ! そして隙あらば顔が元通りにならないぐらい叩き潰せ! ついでにあそこも叩き壊せ!」

「なんでそこまでやる必要が!? おじさん、嫉妬してるでしょ?」

「……してるよ!」


 このヴァイス・ガンナーという【ウォーリア】は顔出しをして戦っているのだが……まぁこれが超がつくほどの美男子。

 芸能界にいても不思議ではないぐらいカッコいい男だ。

 緑色に染めた髪に美形顔。

 戦っている時の恰好は、西部劇に出て来るガンマンのよう。

 シャツにガンベルト、下はジーンズだ。

 

 そんな容姿を持つ彼には、大勢の女性ファンがついているとのこと。

 男女比にして1対9。

 男のファンは少ないらしく、【バトルウォーリア】ではいつも黄色い歓声が上がっている。

 

 このことにおじさんは怒りを覚えているらしく、そして画面の向こうのヴァイス・ガンナーを睨んでいるというわけだ。


「くそ……俺ら……いや、タクの人気だって相当なもんだぞ。大きな顔をしていられるのも、今の内だぞ!」

「いや、まだ俺たち駆け出しなんだから、そこまでファンはついてないだろ? 向こうはトップ百に入る人気者で……まぁ人気に関しては勝てないでしょ」

「いいや。駆け出しだろうがなんだろうが、タクは負けてない! いいか、実力だけではなく、人気でも勝つ気で行くぞ! そして俺にも少しぐらいは人気が流れて来い!」

「だったら、おじさんが活躍見せないと」

「その活躍が出来ないから問題なんだろ!」


 おじさんは活躍する気は毛頭ないらしい。

 俺が同じ立場でもそうするかな?

 ……いや、もう少し頑張ると思うんだけどな。


「まぁ人気の話は置いておいてさ、どうやって倒すか考えようよ」

「……そうだな」


 動画の中でヴァイス・ガンナーがガンベルトから銃を引き抜く。

 

『さぁ、僕の美しさの前に散るがいい。『ワンサウザンド・ハンドガン』』


 ヴァイス・ガンナーの【アーツ】であろう。

 彼の周囲に、数えきれないほどの拳銃が姿を現せる。

 技の名の通り、千丁あるのかもしれない。

 そう思えるほどの、おびただしい数だ。


「凄いね……あれだけの銃を顕在させるなんて、並みの【エーテル】じゃ無理だよね」

「その辺は流石【バトルウォーリア】の選手ってところだな。数いる【ウォーリア】の中のトップ百。実力だけで言えばこいつより上位の奴はいるかもしれんが、だがその力は侮れないものがあるのは確かだ。俺じゃ一瞬でハチの巣だな」


 ヴァイス・ガンナーが手にしている銃に呼応するかのように、宙に浮く拳銃たちが一斉に火を噴く。


 彼が戦ってたモンスターは、その一撃で絶命する。

 

「強いね……隙はないの?」

「接近戦も不得意ってわけじゃないみたいだぞ。ナイフ一本で、RTAチャレンジしてる動画もある」

「RTA?」

「リアルタイムアタック。どれだけボスを早く倒せるか。それを競ってる連中がいるんだよ」

「へー」

「対象は六階層のボス。六階層のボスが、一人で倒せるギリギリのところらしい。ただし、それはナイフだけを使うことが条件でな」


 ナイフ一本で六階層のボスを倒すのか……

 いまいちそれがどの程度のなのかピンとこないが、とにかく警戒はしておこう。

 確かの俺は強い力を手にしたが、だが油断だけは禁物だ。


「でも……腕が鳴るね。怖いって気持ちより、早く戦いって気分の方が勝ってるよ」

「いい傾向だな。その調子で早くこいつの顔面を叩き潰して来い」

「いや、そんなことはしないよ? 結果的にどうなるかは分からないけど、わざわざ相手に重傷を負わせるつもりはないよ」

「重症を負わせるつもりがなくとも、でも戦いになればどうなるか分からんぞ? 治療スキルを所持している奴は常にいるが……命を落とさないなんて保証はない」

「そう……だよね。俺も死ぬ可能性があるんだよね」


 おじさんは俺の言葉を聞いてハッとする。


「タク……止めたければやめとけ。確かに俺は有名になりたいし金持ちにもなりたい。でも、それでお前が死ぬなんてごめんだ」

「いいや、やるよ。さっきも言ったけど、早く戦いたいって気持ちが強いんだよ。人っていつ死ぬか分からないけど、でも俺はこんなところで死ぬつもりはない。だっておじさんと一緒に金持ちになるつもりだしね」

「……お前が死んだら、俺が一緒に死んでやる! 何かあったら、死んだ姉さんに顔向けできないしな! よし、そうと決まれば爆弾を用意して……」

「いや、そんなバカなことしなくていいから。おじさんは俺が勝つことを祈っててよ」

「祈るかよ!」

「え?」


 おじさんは眼鏡をクィッと上げ、そして叫ぶ。


「お前が勝つことを信じてんだよ! 祈りなんて必要あるか!」

「なら、明日は勝って終わりだ。そして【バトルウォーリア】の選手になるよ」

「おう! 期待してるぜ!」

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