第41話 マシーンシャーク戦

 俺はマシーンシャークと戦うために、部屋の中心へと移動する。

 足元では何かが動く気配があり、そしてそれこそマシーンシャークなのだろうと悟っていた。

 

「来るぞ、タク!」


 俺の背後の穴から水しぶきが上がり、俺はおじさんの声に振り返る。

 下から何かが飛び出して来ていた。


 それはまさに鮫。

 だが体が機械でできており、開かれた口内も機械仕掛けのようだった。

 生身の部分は一切ない。

 マシーンシャークという名の通り、まさに機械で作られた鮫のようだった。


 奴は俺を食らうために大きく口を開いたようだ。

 水から飛び出し、俺に向かって牙をむく。


「拓斗くん!」

「大丈夫! これぐらいなら避けられる!」


 不意をつかれた部分はあるが、しかし俺の速度を持ってすれば避けることも容易い。

 右手に飛び、俺はマシーンシャークの牙を避ける。

 俺を食い損ねたマシーンシャークは、そのまま別の穴へと飛び込んでしまう。


 そうか。

 どこから出られてどこから戻れるか、完璧に把握しているんだな。

 ヒットアンドアウェイが奴の戦い方か。


「タク! 気を付けろ! そいつの攻撃力は凄まじい! 並みの戦士なら一撃で葬られるほどだ! 事実、そいつに食い殺された【ウォーリア】も少なくない!」

「分かった! 気を付けるよ!」


 おじさんと純は壁際におり、マシーンシャークの攻撃対象からは離れているようだ。

 それは最初に考えた通りだった。

 水の中を動くモンスターが、表に出てきて戦う様子なんて考えられなかったから。

 俺に攻撃が集中するの予定通り。

 でも、次はどうやって倒すかが問題だな。

 

 倒す方法を思案している間もマシーンシャークの攻撃は続く。

 また俺の背後から飛び掛かってくるマシーンシャーク。

 相手の動きは見えなかったが、しかし、神経を集中していたおかげで相手の攻撃を避けることに成功した。


「ど、どうやって倒す……タク?」

「どうにかして捉えないと仕方ないよね……って!?」


 マシーンシャークの攻撃の頻度が上がる。

 避けたと思っていたら、すぐに別の穴から飛び出し、俺の命を狙って来た。

 今度は右手から。

 だが背後よりはマシだ。

 避けるのは先ほどより楽だった。

 が、また背後から飛び出して来るマシーンシャーク。

 これを避けるも、しかしこのままではじり貧だ。

 捉えられたら俺の負け……まぁ恐らくだが。

 喰らってみないことには相手の攻撃力を把握することはできない。

 もしかしたら生き残ることも可能かも知れないし、不可能かも知れない。


 だが、攻撃を食らえば命は無いものと考えよう。

 そう考えておく方が集中力も増す。

 

 攻撃を避けた俺は精神を集中し、心を落ち着かせてマシーンシャークの攻撃を待った。


 背後からの攻撃は反応がどうしても送れる。

 となれば、チャンスは横から攻撃が来た時だ。

 横からの攻撃は反応もしやすい。

 相手が左右どちらからか攻撃をして来た時に反撃を喰らわせる。


 そう判断した俺は、いつでも攻撃できるように、【エーテル】を高めておく。


「来た!」


 攻撃は俺の左手から。

 相手の動きより先に、水しぶきが上がるのが見える。

 マシーンシャークが飛び出して来る――だが、それは奴のフェイントだった。


 水しぶきは上げただけ・・・・・

 本体はそこから飛び上がって来ることはなかった。


 まさか、フェイントを仕掛けて来るとは。

 完全にかかって来るものだと踏んでいた俺は、そちらに意識を集中し過ぎていた。


 そして背後から飛び出すマシーンシャーク。

 これは一本取られた。

 まさか、そんな手を使って来るとは。


「拓斗くん!」


 レッドを演じている純ではなく、純本来の声で叫ぶ彼女。

 俺が今まさに食われようとしているのを心配してくれているのだろう。


 アイドルが心配してくれるなんて……贅沢な話だ。

 そんな風に叫ばれたら、負けるわけにはいかないな。


 俺は全神経を集中し、相手の動きを肌で感じる。

 目で動きを追っていても間に合わない。

 見えないままでもやってやる!


「『イグナイトブレードキック』!!」


 俺はバク転をしながら蹴りを放つ。

 脚からは風の刃が生じ、マシーンシャークが来るであろう方向へと飛んで行く。

 攻撃が当たるかどうかは分からない。

 ただ自分ができることを全力でやる。

 それだけだ。


 バク転したことによって世界が反転している。

 反転した世界で、マシーンシャークの姿が見えた。

 風の刃は、ありがたいことに奴に向かって飛翔している。


 切断。

 盾一文字に斬れるマシーンシャークの体。

 中身まで完全に機械だったようで、奴の真っ二つになった機械の肉体が、俺の左右を通過していく。


 右側の体は水の中へと落ち、左側は床に打ち付けられ、そしてピチピチと生きのいい魚のように飛び跳ねていた。


「た、倒しちまった……結局一撃かよ、コノヤロー!」


 おじさんが携帯をこちらに向けながら駆け寄って来る。

 純も安堵のため息をつき、ゆっくりと俺の方へと近づいて来ていた。


「お疲れ様、拓斗くん」

「ああ、ありがとう、純」


 またクールなレッドの口調に戻っている純。

 こんな純も悪くないけど、やっぱりいつもの純の方がいいなと思う俺であった。

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