第39話 バトルウォーリア参加

「でも、まだ四階層を攻略してるぐらいなのに、【バトルウォーリア】から誘いがあるなんて……拓斗くん、凄いです!」


 いつもと違い、興奮した表情で俺を見上げてくる純。

 その可愛さと近さに俺はドギマギする。


「お、俺だけの力じゃないよ。おじさんが俺にあの能力を与えてくれなかったら、こんなことあり得なかったんだ」

「うんうん。試合に勝ってもちゃんと言ってくれよぉ。1号のおかげだって」

「分かってるよ。ちゃんと言うよ」


 おじさんは本当、自己顕示欲が強いよなぁ。


「私、応援してますね」

「ありがとう、純」

「あ、そう言えば……」

「?」


 純は何かを思い出したらしく、ポンと両手を合わせて言う。


「私、【バトルウォーリア】の方から仕事のオファーがあったんですよ」

「オファー?」

「はい。拓斗くんが試合にオファーされたみたいに、試合を盛り上がるゲストの方でオファーが来ました。あ、『バトルキャット』じゃなくて、『大垣純』の方にです」

「なるほどね。じゃあもしかしたら、現地でも会えるかもしれないってことだ」

「はい」


 純は目をキラキラさせて何やら妄想しているようだった。


「拓斗くんと会えるなら、仕事引き受けようかな……」

「……純?」


 純は俺に呼ばれ、ハッとして顔を真っ赤にする。


「な、なんでもありません! なんでもないんです……」

「ど、どうしたんだ……?」

「……お前は鈍感か。そして羨ましいぞ、コノヤロー」

「鈍感って……どういう意味?」

「その意味が分かってねえから鈍感だって言ってるんだよ」


 おじさんが言っている意味はよく分からなかった。

 でも、【バトルウォーリア】という大会に参加できることに高揚し、俺は笑顔を漏らす。


「それでさ、【バトルウォーリア】に参加するとして……どんなルールなの? 勝ち抜き戦?」

「いや。ランキング方式だ。【バトルウォーリア】に参加できる人数は百名。で、誘いが来たお前は、現在百位の選手と戦って勝つことができれば、めでたく【バトルウォーリア】の選手になれるってわけだ」

「ってことは、まだ正式な選手として参加できるわけじゃないんだね」

「で、でも拓斗くんなら大丈夫です。私、信じてますね」


 二人は当然のように言っているけれど、でも俺は一つ気になることがある。

 それは、相手の強さだ。


「百位にいる選手ってさ、どれぐらいの強さなんだろう? もちろん、弱くはないんだよね」

「ああ。【バトルウォーリア】は、実力と人気、それと話題性を兼ね備えた選手が招待される。弱い連中なんて一人もいない。今百位の選手も、十三階層まで到達している奴だからな」

「じ、十三階層って……俺、まだ四階層だよ?」

「だから凄いんですよ! 四階層に到達したばかりの【ウォーリア】で……それに戦い初めてまだ少しじゃないですか」


 純がさっきより興奮している。

 そんなに凄いことなのか……

 まぁ、彼女の言う通り、俺は戦い始めたばかりだし四階層レベルだし。

 そのレベルで声をかけられることがそれだけ異常ってことなのか。


「と、とりあえず喜ばしいことだというのは分かったよ。それでおじさん、俺がその百位の選手と戦って、勝てる可能性は?」

「可能性なんていつだって無限にあるんだよ! 可能性を信じない奴に育てた覚えはないぞ!」

「育てられた記憶はないけど!? ま、まぁ自分のことは……おじさんと自分のことは信じてるつもりだよ」

「なら、勝てると信じろ。確かに俺たちは四階層の中ボスを倒したところだ。でも、これまでの戦績は異常なほど。それに正体不明のドラゴンまで倒してるんだからな。注目を浴びるのは当然だし、それだけのレベルにあるから声をかけられてるんだよ。だからお前は弱くないし、百位程度の奴なんて勝てない相手じゃないと信じる! 信じたい!」


 ちょっと不安そうな顔をしているような気もするけど……

 でも、俺が信じるおじさんがそう言ってるんだ。

 信じよう。 

 その言葉を。


「とにかく、どちらにしても自分の実力を高めておきたいね。明日にでもまたダンジョンに行こうよ」

「分かってる。もっともっとレベルアップして、【バトルウォーリア】のデビュー戦も華々しく勝利を納めるぞ! それがお前の使命! それが俺の願いだ!」

「よーし……じゃあ明日にまたダンジョンに! 今日は早めに帰って体を休めておくよ」

「おう! じゃあまた明日な!」

「うん。バイバイ、おじさん!」


 俺たちは握手を交わす。

 そして笑顔を向け合い、手を放す。


「純、駅まで送るよ」

「あ、ありがとうございます」

「……今大事な時だから、女にうつつを抜かすんじゃねえぞ」

「うつつを抜かすって……純にそんな風に見られてないよ、俺は」

「「…………」」


 おじさんと純は黙ったまま俺を見ていた。

 え、俺何かした? 

 何もしてないよね?

 

 俺は二人の無言が理解できず、首を傾げるばかりであった。

 本当になんなの、一体?

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