第38話 バトルウォーリア
「よく来たなタク。待ってたぞ」
「ごめんね。少し遅くなって」
「まぁそれはいい……だが、それはどういうことだ!?」
おじさんに呼び出された俺は、彼の家に来ていた。
そしておじさんは俺の後ろに立つ、純を指差して叫ぶ。
「大垣純だよ。ほら、『バトルキャット』のリーダーの」
「お、大垣純です! よろしくお願いします……」
「お、おなしゃす……」
緊張しまくりの二人。
人見知り同士で会話なんて成立するわけもなく、ただ無言が続く。
「ち、ちょっと来い、タク」
「何だよ?」
おじさんに肩を組まれ、おじさんの部屋からリビングへと連れ出される。
「お前、女の子を連れて来るんじゃないよ! 緊張するだろ!」
「男だったらいいの?」
「男でも不可!」
「どっちにしてもダメなんじゃないか」
「ダメに決まってるだろ。俺が人と接するの苦手だって分かってるよな?」
俺は苦笑いしながら話を続ける。
「分かってるよ。でも、いきなり呼び出したのはおじさんの方だよ」
「でもそれでも、勝手に家にあげるとはどういうことだ!?」
「あげてくれたのは五十鈴ちゃん。彼女がいいって言ったんだよ」
「そう。私が良いっていったの」
玄関の横にある五十鈴ちゃんの部屋。
彼女はそちらの方からリビングへとやって来る。
「お前な……勝手に人いれてんじゃねえよ。いつも知らない人を家に入れてはいけませんって言ってるだろうが、このヤロ^」
「だってアイドルだよ? 皆が知ってる大垣純ちゃんだよ? 他人だけど、知り合いみたいなものじゃない?」
「知り合いじゃないね! だったらお前、総理大臣だって知り合いになるだろ! そんな偉い人間、俺は知らねえよ!」
「あ、あの……迷惑でしたら帰りますけど……」
「…………」
純は申し訳なさそうにおじさんの部屋から顔を出す。
おじさんはおじさんで顔を引きつらせて、窓の方を見ているだけ。
「迷惑とは思ってないよ。この人、人見知りでどう接すればいいか分からないだけだから」
「そうそう。だから気にしないで、純ちゃん。あ、良かったらサインくれませんか? 私、純ちゃんのこと好きなんです」
「あ、え、はい……」
五十鈴ちゃんはどこに用意していたのか、持っていたサイン色紙を純に手渡しサインをねだる。
純も少し戸惑いつつも、手慣れた様子でサインを書く。
「わぁ……早くて綺麗」
「サ、サインは書くこと多いから……」
サインを受け取った五十鈴ちゃんは飛んで喜び、「ありがとう」と純に伝えて自室へと戻って行く。
それを見ていたおじさんは俺にドクターペッパーをふわりと投げてくる。
俺はそれを受け取り、口を開けて飲む。
「五十鈴ちゃんが言ってた通り、気にしなくていいから。俺は純に慣れて、おじさんの人見知りも治ればいいと思ってるし」
「つ、ついでに私の人見知りも治ればいいんですが……」
やや青い顔で純が俺を見上げる。
助けてくれ。そんな風にも見えるし、頑張ると言っているようにも見える。
おじさんはコーヒーを二つ淹れ、一つを無言で純に渡す。
「あ、ありがとうございます」
「お……
「おで終わり?」
「……おふ」
噛んだ。
おうって二文字だけのはずなのに噛んだ。
おじさんはそのまままた自室へと戻り、パソコンがある机の前に座る。
「まぁその女のことは置いておいてだ……タク。一応聞くが、【バトルウォーリア】って知ってるよな?」
「丁度おじさんに聞こうと思ってたところなんだよ。その【バトルウォーリア】ってなんなの? クラスメイトがその話をしてたんだけど、全く知らなくてさ」
おじさんはため息をつく。
純も「知らないの?」みたいな顔をして俺を見ていた。
悪かったね。知らなくて。
「【バトルウォーリア】ってのは、分かりやすく言えば、【ウォーリア】の格闘大会みたいなもんだ。【ウォーリア】同士が戦い合い、そして頂点を目指す。それが【バトルウォーリア】だ」
「そんなのがあるんだね……学校でもさ、『ジャスティスイグナイト』がそれに出ないかなんて話をしてたんだよ」
「それだよそれ」
「どれ? どれのこと?」
おじさんはコーヒーを飲み、一度気を落ち着かせる。
落ち着かせたと思ったら、目を見開いて話し出した。
「その【バトルウォーリア】に参加しないかって、誘いがあったんだよ、『ジャスティスイグナイト』に! これは事件だよ……これは一つのターニングポイントだよ! 」
「そんなに騒ぐほどのこと?」
「た、拓斗くん……【バトルウォーリア】は凄いんですよ。日本大会から世界大会まであって……その頂点に立つ者は、ハリウッドのスターたちよりも名誉とお金を貰えるって言われてるんです。日本で活躍している人気俳優や動画配信者、その全てを一気に飛び越えるチャンスなんですよ」
「え? そんなに凄いの?」
純が興奮気味に俺に説明し、俺は困惑していた。
有名になってきたという自覚はあるが……でもそこまで話が大きくなるのかという不安と興奮。
何もデメリットがなければ参加した。
俺はそう考えていた。
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