第36話 一時撤退
キラーラビットが残っていないのを確認するため、おじさんは広い空間を見渡している。
まるで嫁の掃除具合を確認する姑のように。
端から端まで、隅々まで、くまなく確認している。
そこまで見なくても、いないのは分るでしょ。
「……全滅したみたいだな」
「全滅させたよ」
安心したおじさんは俺に近づいて来る。
戦いに緊張していたのか、息を切らせているおじさん。
戦っていた俺より息が上がってるってどういうこと?
「今回も楽に倒せたな」
「うん。どの階層まで行けるか分からないけど、でもまだまだ余裕はあるよ」
「余裕ね……お前のその力が羨ましいよ、コノヤロー」
おじさんは俺にそう言うが、恨みったらしいことは全くない。
むしろ応援してくれているかのようだ。
「あ、どれぐらいステータスは上昇した? そこそこ強くなったんじゃないか?」
「どうだろうね……ちょっと待ってよ」
俺はおじさんとステータスを確認することにした。
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ジャスティスイグナイト2号
エーテル 1010 力 777
防御 766 体力 763
素早さ 782 魔力 757
アーム
パワー 18 ガード 17
スピード 21 マジック 15
アーツ
イグナイトスパイク 8 イグナイトレーザー 8
イグナイトブレードキック 8
スキル
エーテルマスター スピードⅤ
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「うむ。ほどよく成長しとるみたいだな」
「成長してるのをこうやって数字化されるのは楽しいね。強くなってるって実感が湧くし」
「そうだな。でも、お前の強さは数字以上だ。だからもっと喜んでもいいんだぞ」
「それはやめておくよ。喜び過ぎて調子に乗るのもよくないしね」
「……お前にしておいて良かったよ」
「何がさ?」
おじさんは俺の肩に手を置いて言う。
「お前、俺がその力を手に入れてたら調子乗りまくって、その内誰かに叩かれるぐらいになっていただろう。うん。炎上必須。そんな結末、俺は求めていないからな」
「だったら調子に乗らなかったらいいだけじゃないか」
「それが出来たら苦労しねえっつうの!」
まぁ、調子に乗りすぎる悪い部分もあるからな……
「で、この後はどうする? 先に進む? それとも帰る?」
「そうだな……今日は撤退するか。もうそろそろいい時間だしな」
「ああ。あまり遅くなったら五十鈴ちゃんに叱られるもんね」
「あいつは関係ねえよ、コノヤロー! ……遅くなったら結希が怖いんだよ」
「怖いって……え、何かされたの?」
おじさんは寒気を覚えたのか、自分の体を抱きしめるように震えながら言う。
「メッセージが来たんだよ……あまり遅くならないようにって……」
「あいつ、そんなこと言ってたんだ……」
「ってことで撤収だ。続きはまた次回ってことで」
「俺は遅くなってもいいんだけどな」
「お前が良くても俺はいくない! 怖いんだよ、あいつは!」
とことん結希のことが苦手なんだな、おじさん。
俺は呆れながら、来た道を戻ることにした。
◇◇◇◇◇◇◇
戦いの疲れも残っていない翌朝。
天気は良好。
俺はあくびをしながら通学路を歩いていた。
いつも通り、皆は『ジャスティスイグナイト』の動画に夢中のようだ。
俺はそんな皆の姿を見てニヤニヤ笑う。
注目されたいわけじゃないけれど。
目立ちたいわけじゃないけれど。
でも、嬉しいんだよな。純粋に。
教室に入ると同じく、動画で騒いでいるクラスメイトたち。
先日は君島が皆に囲まれながら俺の話をしていたが……
今日はすでに蚊帳の外。
皆に注目されなくなっていた。
ワンダーナイツからまたコラボの誘いがあったようだが、今回は見送りとさせてもらった。
もうあんなに取り囲まれて、オープニングやらエンディングやら何回も撮るのは勘弁だ。
おじさんと二人でやっている方が気が楽だし、労力が違う。
彼らと戦うのも悪くないけど、やっぱり俺はおじさんと二人が楽でいい。
後は……純たちとやるのも案外楽しいかな。
まぁそれは、彼女らがアイドルで一緒に行動できるのが楽しいというのもあるのだろうけど。
オープニングを一回撮影するだけで終わるのもいいよな。
授業が始まると、皆は退屈そうに先生の話を聞く。
さっきまでの騒ぎが嘘のよう。
俺も眠気を覚え、ウトウトとしていた。
「なあ、『ジャスティスイグナイト』ってさ、【バトルウォーリア】に出ないのかな?」
「さぁ……でも、あれに参加して勝てると思うか?」
「2号なら問題ないんじゃないか? だってあれだけ強いんだぜ」
前の席の男子二名が何やら会話をしているようだが……
【バトルウォーリア】って、なんだろう?
少し気になるが、しかし如何せん眠気が凄まじい。
今すぐに眠りにつきそうだ。
俺は自分の腕を枕にし、目を閉じる。
【バトルウォーリア】のことは、またおじさんに聞くことにしよう。
それよりも、まずはこの眠気をどうにかしたい。
俺はそのまま眠りについてしまう。
授業も受けないといけないけど、寝るのも大事だよな。
なんて、居眠りを正当化してみたりして。
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