第35話 キラーラビット戦

 キラーラビットは左から右から、または上からこちらに向かって飛び掛かって来る。

 そのあまりの数に一瞬怯むも、俺は前に出た。


 横薙ぎに剣を振るい、一度で四匹のキラーラビットを屠る。

 だが敵の数が多い。

 四匹倒したところで、まだまだ敵の動きは止まらない。


「タク! 気を付けろ!」

「大丈夫。相手の動きは見えているよ」


 心配するおじさんを横目に俺は駆ける。

 

「!?」


 こちらの速度に全く反応できないキラーラビット。

 敵もそれなりに速いようだが、俺はもっと速い。

 

 速度を重視したビルド。

 それに【エーテル】もこの階層にいる段階から言えば、圧倒的な数値を誇っている。

 その【エーテル値】を持って強化した俺のステータスだ。

 例え相手が中ボスクラスだとしても、やられる要素はない。


「『イグナイトレーザー』!」


 無数の弾丸が俺の前方から吐き出され、キラーラビットたちは絶命していく。

 俺の攻撃自体に気づいていないやつも多く、何も分からないまま死んでいるようだった。


「な、なんだあの速度は……」

「速いなんてレベルじゃねえぞ……メチャクチャだ」

「それにあの破壊力……キラーラビットってそこそこ硬いはずだよな?」

「あ、ああ……俺が見た動画では、何発も攻撃を与えてようやくってところだったはずだ……」


 俺の戦いを見て、呆然とする【ウォーリア】たち。

 もっと深い階層に潜っている連中なら、キラーラビットぐらいどうと言うことはないだろう。

 でも俺は今回が初めての挑戦。

 なのにこの圧倒的な展開。

 それに驚愕しているようだ。


 俺の『イグナイトレーザー』は半分ほどのキラーラビットを倒したらしく、俺は今回も楽勝の予感に笑みをこぼしていた。

 だが、相手は怯むことなくこちらに接近してくる。

 

 モンスターというのは恐怖心という物がないのだろうか。

 そう思えるほど、敵の動きに迷いがない。


 しかし負ける気はもうしない。

 絶対に勝てる。

 そう確信していた俺は、余裕ながらも気を緩めることなく敵を切り裂いていく。


「……なんだか、俺でも勝てそうな気がしてきたぞ」

「いや、多分まだ無理だろ。あの人が特別すぎるだけなんだ。普通はもっと苦戦するはずなんだよ」

「だよな……俺の知り合いも、キラーラビット相手に死にかけたって言ってたからなぁ」


 いまだに呆然としたまま後方で観戦している人たち。

 こっちのことは別にいいけど、後ろにはモンスターがいることは忘れるな。

 俺の方にばかり気を取られていたら、危ないぞ。


 そんな心配をしていると、悪いことというのは起こるもので――観戦していた人たちが、背後からシルバーウルフに襲われてしまう。


「うわあああ!? モンスター!?」

「油断し過ぎた……くそっ!」


 扉の際にいた人たちが、一気に雪崩れ込んで来る。

 それに合わせたかのように、キラーラビットが皆の方に襲い掛かろうとしていた。


「おじさんには手出ししないのになんで!?」

「騒ぎ過ぎだ、こいつらは!」


 おじさんは襲われないからいいとしても……くそ、なんだか面倒なことになってきたな。

 全部俺の方に向いてくれていたら楽なのに、半分ほどが他の人たちの方へと向かっている。


「た、助けてくれ! 殺される!」


 キラーラビットと戦うにはまだレベルが足りないようで、皆武器を手に取ることなく、固まってしまっていた。


「扉から出て行け! それなら襲われないはずだから!」

「で、でも後ろにもモンスターが!」


 パニック状態となっており、冷静な判断ができなくなっているようだ。

 さっきま彼らもモンスターと普通に戦っていたのに、恐怖が勝ってしまい思考が停止し、戦意を失っている。


「大丈夫……俺ならできるはずだ」


 電光石火。

 稲妻の如く迅さで、俺は【ウォーリア】たちの前まで移動する。

 誰もまだ反応できていない。

 俺はそのまま、全面から向かい来るキラーラビットたちに『イグナイトレーザー』 を放つ。


 吹き飛び、破裂していくキラーラビットたち。

 そこでようやく、皆は俺の行動に気づく。


「い、いつの間に……」

「迅すぎる……全く見えなかった」

「とにかく、今は騒がないで1号の近くまで移動して!」

「は、はい!」


 皆は口をつむぎ、黙ったままおじさんの方へと移動していく。

 そこで青い顔をしながら俺の戦いへ視線を向ける。


 と言っても、残りは十にも満たない程。

 二発目の『イグナイトレーザー』で粗方殲滅してしまった。


 残りのキラーラビットに向けてガンソードで射撃し、撃墜していく。

 時間にしておよそ三十秒といったところか。

 残りを全て倒し、そしておじさんたちの方を向く。


「終わったよ。何もなくて良かったね」

「あ……ありがとうございます」

「す、凄すぎですよ、2号さん……」


 やはり俺の実力に驚いてばかりの人たち。

 もう敵がいなくなったというのに、青い顔のままだった。

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