第34話 キラーラビット
「【エヴォルヴ】……噂ぐらいは聞いたことあるよ。確か、小さな子供を戦士として育てていたとかなんとか……ニュースになってたね」
「ああ。避難殺到で機関は凍結。だが、当時の子供たちがそのまま戦場に出ている。人数は九人。そいつらはチームとして戦っているんだ。そして現在、彼らは自分たちのチーム名を【エヴォルヴ】と呼んでるってわけさ」
「嫌じゃないのかな?」
「自分から志願して訓練を受けていたらしいがな。ま、全員、関係者の子供たちだったらようだけど」
「だったら……選択肢は無かったってこと?」
「当事者じゃないからその辺のことは分かんねえ。でも、頭が固くて自分の野望に忠実な親を前に、断れる子供がいると思うか?」
「…………」
断れないと思う。
俺だって、親の言うことなら聞いていたと思うし。
それに加えて、命令形で言われたら余計に断れないだろう。
まぁ命令だったのかどうかは知らないけれど、でもおじさんの口ぶりからすると、そういう人たちだったんだと俺は考える。
「年齢はタクぐらいだ。機会があれば動画を見とけ。参考にはなるぞ」
「そうだね。でもまずは、目の前の敵を倒すとしようか」
「おう! でもここから先はタクに頼むぜ!」
腰が完全に引けているおじさん。
扉の先にいる中ボスを相手にはできないと判断したのだろう。
どのみち俺一人でやるつもりだったから別にいいけど。
「あ、あの……俺らも入っていいですか?」
動画を撮影したいのだろう。
おそるおそる背後から俺たちにそう聞いて来る男。
おじさんは直接彼らに言えないらしく、俺の耳元で囁く。
俺はおじさんから聞いたことを彼らに伝えることにした。
「ここから先は危険だ。止めておいた方がいい。見学をしたいのなら、扉から先には入らない方が身のためだ」
「わ、分かりました……遠くからなら撮影してもいいですか?」
「ああ。いいよ」
俺は踵を返し、扉を押す。
おじさんが言っていたことが本当なら……
おじさんが言うことだから本当なのだろうけれど。
俺はその事実を確かめるために、開かれた扉の先を視認する。
「……本当に百匹ぐらいいるね」
「だから言っただろ。俺は嘘つかないぞ」
扉の先には、百匹のモンスターが待ち構えていた。
姿は小さなウサギ。
白い毛並みの可愛らしい見た目。
だが手には包丁を持っており、物騒な印象。
奴らはキラーラビット。
強さ自体はファントムたちより少し強いぐらいらしいが、しかしその数が問題のようだ。
百匹の攻撃をかわしつつ、その全てを撃破しなければならない。
それが中々難しく、逃げ出す者も少なくないとのこと。
ここはエリアマスターの部屋とは違い、逃走も可能のようだ。
何故か奴らは扉からは出られないようになっているらしく、扉の向こう側にいれば安全らしい。
だから背後にいる連中は、扉をくぐらない限りは命の危険はないというわけだ。
「じゃあおじさんもここで待っててよ」
「バカ言うな」
「え?」
「一蓮托生。お前が死ぬ時は俺も死ぬ時。俺は弱くてお前は強いが、お前だけ危険な場所にいかせるつもりは毛頭ない!」
おじさんは息を呑みながらも、大きく一歩を踏み出す。
完全に扉の中へと侵入するおじさん。
俺も彼に続いて中へと入る。
「そんなこと言ってくれて嬉しいね。なんだか勇気をもらえるよ」
「勇気をもらってるのはこっちなんだよ、コノヤロー! いつもありがとな。お前のおかげで、心が強くなる気がするよ」
「そのまま体も強くなってくれたらいいんだけど」
「それは無茶な注文だ。貧弱で虚弱でデスクワークによって体はさらに弱化。最近はダンジョンで運動しているけど、それでも俺をこっちの方面で頼るのは止めておけ!」
また偉そうに言うおじさん。
この人らしいちゃこの人らしいな。
身体は強くないけど、でもその頭脳にはいつも助けられている。
「おじさんがいなかったらここまで来ることなんてできなかった。俺も感謝してるよ」
「なら、あいつら早く倒して来てくれ! こんなところで死にたくねえよ!」
泣き出しそうなおじさんに苦笑いする俺。
俺は武器を握り締め、敵に先端を向ける。
「おじさんが死ぬ前に倒して来るよ!」
「俺が気絶する前に決着つけてきてください!」
なんて言いながらもおじさんは携帯をこちらに向けて撮影を開始した。
俺はそれを合図にし、敵へと向かって駆ける。
「まずは一匹!」
接近してキラーラビットを切り裂く。
相手の体は大きくなく、俺の膝下ぐらいまでのサイズしかない。
攻撃はしっかりと効いている。
簡単に敵を真っ二つにし、残り九十九匹に目を向ける。
空間の広さは、平均的な体育館ぐらいだろうか。
その空間に、ビッシリとキラーラビットの姿がある。
キラーラビットは仲間を殺されたことに怒りを覚えたのか、一斉に俺に向かって接近を開始する。
おじさんの方には目も向けていない。
これは好都合だ……このまま俺が全部倒してやる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます