第33話 中ボス

「おい……『ジャスティスイグナイト』の二人だぞ!」

「おいおいマジか……本物じゃねえか」


 モンスターを倒しながら進んでいると、複数人の【ウォーリア】と遭遇した。

 彼らは仲間同士で力を合わせ、敵を倒している最中。

 強さはまずまずと言ったところか。


 そんな彼らは俺たちの姿を見るなり、モンスターを倒してこちらに駆けつけて来る。

 囲まれてしまう俺たち。

 おじさんは人見知りを発動させ、硬直状態だ。


「は、初めまして!」

「はぁ、初めまして……」

「いつも動画見てますよ! あ、もちろん登録もしてますんで」

「俺もです! 最初の動画からファンになりましたよ! いきなり一人でエリアマスター倒しちゃうんだもんな……そんなことできる人なんていませんよ」

「あ、ありがとう……」


 俺たちの周りで騒ぐ【ウォーリア】たち。

 早く先に進みたいんだけどな……


「なあ、今日二人に会ったってことは……1号の戦いも見れるのかな?」


 ギクッとおじさんが身体を震わせる。

 おじさんは……強くはないからなぁ。


「ちょっとそれって凄くない!? 歴史の証人ってことじゃん!」

「うおおおおお! すげーことになりそうだぜ!」


 震えるおじさんと興奮する皆。

 俺はおじさんを見ていられなくなり、顔を逸らしながら小声で言う。


「あの、先に進みたいんで失礼します」

「先に進むんですか! もちろん、お供しますよ!」


 お供なんてしなくていいですから。

 そう思うが、しかし皆は俺たちの後ろをついてくる。

 なんだこれ。大名行列か。


「タク……お腹が痛くなってきちまってぜ」

「おじさん……」


 おじさんはお腹を押さえながら俯いている。

 自業自得なんだけど、でもフォローぐらいはしてやらないと。

 

「俺が一緒に戦うから、いいところ見せなよ。それならある程度恰好もつくでしょ」

「……すまねえ! ありがとうございます!」


 戦い方はさっきと同じ。

 俺とおじさんで同時攻撃。

 おじさんは俺の手加減のおかげで瀕死の敵を一撃で葬っていく。

 

「すげー! この階層のモンスターも軽々倒してるぞ!」

「2号は強いって分かってたけど……1号もやっぱり強い!」

「2号より強いってのは本当なんだな!」


 おじさんが渇いた笑い声を出しながら射撃を続ける。

 バレるの怖いんだろうな……

 気持ちは分るよ。

 嘘ってバレないかどうか考えるのが一番辛いところだもんね。


 シルバーウルフもファントムも、俺たちの連撃に沈み続ける。

 その様子を後方から撮影する【ウォーリア】たち。

 戦う気はもう無いんだね。


「俺ら……もとい、タクの強さに痺れてんだろ」

「痺れるのはいいけど、思考ぐらいはまともに動かしてほしいところだね」

「足の先から頭のてっぺんまで痺れちまってるんだよ」

「それなら外でやってほしいね。一応ここは、危ない戦場なんだから」


 俺は呆れながらモンスターを倒す。

 皆緊張感が無さ過ぎる。

 まぁ俺が簡単に敵を倒しているというのもあるんだろうけど……

 でももう少し、危機感ってものを持った方がいいんじゃないかな。


「危ないのは確かだな。俺もいつも危険を感じてるぜ……お前がいても怖いものは怖いしな」


 ブルッと体を震わせるおじさん。


「で、さらに危ない扉が目の前に……」

「……本当だ」


 また扉が見える。

 どうやらあそこがエリアマスターの部屋だな。


「次はどんなエリアマスターなんだろうね?」

「多分、あそこはエリアマスターの部屋じゃないぞ」

「あれ? 違うの?」

「違う。大間違いってわけじゃないが違う。そうだな……こしあんとつぶあんぐらいの違いだ」

「その譬え、よく分かんないんだけど……」

「要するに、見た目はあまり変わらないが、中を確認したら別物ってことだ」

「えっと……要するに、あの扉の先にいるのは、エリアマスターと別の存在ってこと?」

「そういうこと。大正解。だが、何も商品はやらんがな!」


 いや、いらないし。


 モンスターを倒しながら扉の前に立つ。

 俺たちの後ろには相変わらず【ウォーリア】の面々がいる。


「で、中には何があるの?」

「そうだな……いわゆる、中ボスってところだな」

「中ボス……これまでそんなのいなかったのに、突然だね」

「奥に進めばそういうこともあるだろ。と言うか、ここはまだ四階層だからな。先はまだまだ長いんだぞ。中ボスぐらいで驚くことなかれ!」

「驚いてはないけどさ……そう言えば、このダンジョンはどこまで続いているか分からないって言われているけれど、現在はどこまで到達できてるの?」


 あまりダンジョン事情を知らない俺。

 逆に専門家といえるほど詳しいおじさんに訊ねてみた。


「現段階で、十五階層まで到達している者がいる」

「十五階か……」

「そこで終わりかも知れないし、まだ先はあるかも知れない。だがやはり十五階層辺りは化け物ばかりみたいでな。最強の【ウォーリア】たちの実力を持ってしても、苦戦を強いられているらしいぞ」

「最強の【ウォーリア】……一体どんな人たちなんだろう」


 おじさんは腕を組みながら答えてくれる。


「最強の【ウォーリア】を育てるために作られた機関……【エヴォルヴ】の関係者だ」

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