第32話 四階層

 月曜日はおじさんと純たちの訓練に付き合い、二階層と三階層を冒険した。


 そして翌日の火曜日。

 この日は四階層へ突入する予定。


 いつも通り魔法陣に乗り、ダンジョン内部へと移動する。


「ここで出現するのは狼型モンスターのシルバーウルフと、幽霊みたいなモンスター、ファントムだ」

「シルバーウルフとファントム……あれがシルバーウルフだね」


 シルバーウルフ。

 見た目は完全に狼。

 全身銀色のそれは数多く存在し、そこら中を徘徊している。

 大きさは全長で人間よりも大きいようだ。

 普通の人なら、あれに襲われたら一たまりもない。

 一応俺も気をつけるとしよう。


「でも、この階層はモンスターが二匹いるんだね」

「おう。でも正確に言えば、この階層からは。だぞ。五階層も六階層も二匹いるみたいだからな」

「そうなんだ……でも、新しいモンスターと戦えるのは楽しいね。さらに強くなるための訓練みたいでさ」

「そんな風に楽しんでるのはお前だけだ。俺は恐怖で震えあがってるぜ、コノヤロー」


 確かにおじさんは自分で言う通り、足元を振るわせているようだった。

 昨日みっちり訓練をしたおかげで、おじさんもある程度は強くなったと思うんだけどな。

 でも油断は禁物。

 本来ならもっと時間をかけるところだろうけど、今は俺が先に進むことを優先している。

 おじさんは守りつつ、安全に先へ向かうんだ。


「おじさんの攻撃はどれぐらい通用するかな?」

「ふ……まかせろ。俺の新兵器を見せてやる!」


 おじさんは大袈裟なポーズを取りながら、大声で叫ぶ。


「プログラム! ジャスティスマシンガンッンンンン!!」


 おじさんの手の中に黒いマシンガンが姿を現せる。

 長さはおじさんの彼の腕程。

 見た目は軽そうで、おじさんもそれを軽々と振り回す。


「ジャスティス! マシンガン!!」


 無数の弾丸を瞬時に吐き出すマシンガン。

 おじさんの弾丸を食らうシルバーウルフ。

 だがしかし、その攻撃でシルバーウルフを仕留めることは不可能であった。

 それなりに効果はあり、血を噴き出すモンスターであったが、怪我などおかまいなしにこちらへと向かって来る。


「あれ? 死んでない? 効いてない? 俺には勝てない!?」

「そんなことないよ。まだまだこれからでしょ!」


 俺はガンソードを手に取り、向かって来るシルバーウルフを切断する。

 

「うん。俺なら一撃で倒せるみたいだ」

「お前のことは心配してねー! 問題は俺だ! 俺が勝てるか……お前についていけるかが問題なんだよ!」


 他のシルバーウルフたちが、俺たちを視認して走り出す。


「何があっても俺が守るよ。おじさんは大事な家族だからね」

「大事なら結希にも言い聞かせとけ! もっと丁重に俺を扱えってな!」


 おじさんは先日の扱いを気にしているようだった。

 俺は射撃でシルバーウルフを倒しながら苦笑いする。


「それは直接交渉してよ。おじさんのことに関しては、俺が言っても言うこと聞かないんだよ、結希」

「タクの言うこと聞かなかったら、俺の言うことなんて余計聞くわけねえだろ! 怖いんだよ、あの子は! 苦手なんです!」


 おじさんもマシンガンでシルバーウルフに対抗する。

 一人では倒せないが、しかし俺がサポートをすることによって、敵が大量に死んでいく。

 うん。この調子なら、おじさんもまた強くなれそうだ。

 自分を強化しつつおじさんも強くなる。

 先に進むために、おじさんにも最低限強くなってもらわないと困るからな。


 ゲームでだった、仲間のレベルが低かったらすぐに死んでしまう。

 現実で死んだら生き返ることなんてできやしないんだから、生き延びるために強くなるんだ。


「あ、あれがファントムか」

「みたいだな……あれは直接攻撃は通用しないみたいだから気をつけろ」


 ファントム――半透明で見た目は人間のようにも見える、まさに幽霊のようなモンスター

 おぞましさはあるが、しかし強そうには見えない。

 しかし直接攻撃が通用しないって……やはり見た目通り、触れることが無理ってことかな。


「直接攻撃が無理なら、何が通用する?」

「銃ならいけるはずだ。これは【エーテル】の弾丸だからな」

「なるほど。【エーテル】を使用したら倒せるのか」

「……タク。どうするつもりだ?」


 俺はファントムに向かって走り出す。

 おじさんが一瞬俺を止めようとしたが、だが俺はすでに走り出した後。


 直接攻撃は通用しないと言っているが……だが一度試しておきたいことがある。

 もし、ここで直接攻撃が効いたならば、これから先に現る同じ類のモンスター相手でも、通用するってことだから。

 その確認のため、俺はファントムに接近する。


 そしてガンソードを相手の腹部に強引に突き刺す。


「どうだ?」


 刺した感覚はない。

 だが、俺のガンソードは【エーテル】に包まれている。

 それは【エーテルマスター】の能力からくるもので――俺の攻撃には自動的に【エーテル】が付与されているような状態なのだ。


 そして俺の考えていたことは的中。

 【エーテル】をまとっている俺の攻撃なら十分通用するみたいだ。

 俺の一撃に四散するファントム。


 おじさんはファントムを倒してしまった俺を見て、呆然としている。


「お前は……どこまで規格外なんだよ、コノヤロー……」

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