第28話 マグマフロッグ

「この先にいるモンスターのことは知ってるか?」

「三階層のエリアマスターですか? 確か……マグマフロッグだったと思います」

「マグマフロッグ……? どんなのだろう」


 名前だけではどんなモンスターなのかイメージがつかない。

 フロッグだから、カエルなんだろうけど……マグマってどういうこと?


「もしかして……マグマフロッグと戦うんですか?」

「え? それってヤバくない? エリアマスターとの戦い撮影できるとか、最高なんだけど」

「いや、まだやるなんて一言も……」


 俺は戦うなんて言ってはいない。

 だが周囲は、まるでスーパースターのコンサートが決まったかのようなテンションで話をする。


「ちょっと、待って! 2号さんのエリアマスター戦、撮影できるとか本当!?」

「え、俺死ぬ……目の前でそんなのやってくれたら死ぬわ」

「充電大丈夫だよな!? いけるよな!? だれかバッテリー持ってない!?」

「…………」


 大騒ぎにも程がある。

 もうやらないなんて言えない空気になってしまっていた。


 まぁ、遅かれ早かれ闘うことにはなるんだろうし、別にいいか。


「……じゃあ行くけど、準備はいい?」

「いけます! 問題ありません!」

「撮影しっかりしておいてくれよ! 最高のバトルが始まるぜ!」


 俺は苦笑いしながら、扉の方に向かう。

 自分らで戦う気はないようだ。

 まだ自分たちでは倒せないと踏んでいるのだろう。

 撮影するのは結構だけど、危なくても知らないよ?

 

 扉の前に到着し、その大きさにワンダーナイツたちは息を呑む。


「マ、マジで行くんですね?」

「マジだよ。マジじゃなくてもいいなら今から引き返すけど?」

「マジでお願いします! 2号さんの最高の瞬間を収めたいので!」

 

 ワンダーナイツが必死な顔で俺にそう訴えかけてくる。

 俺は一つだけため息をつき、そして扉を開いた。


 扉の向こうには、巨大なカエルがいる。

 真っ赤な体。

 全身にあるブツブツが寒気を覚えさせる。

 なんだか気持ち悪いな……

 ゲコゲコ鳴く声に、そして微妙な異臭。

 この場にいるのが嫌になる。


「あれがマグマフロッグか……で、皆はどうする?」

「……見学でお願いします」


 ワンダーナイツは俺の後ろに姿を隠す。

 彼に続き、他の【ウォーリア】たちもマグマフロッグから姿が見えないように俺の後ろに隠れ出した。


「とりあえず、怪我だけしないように気を付けてな」

「は、はい!」


 俺はマグマフロッグと戦うために、迂回しながら奴へと近づいて行く。

 ワンダーナイツたちは壁際に引っ付くようにして、出来る限り敵と距離を取る。


「――来る!」


 一定の距離に近づいたその時、マグマフロッグが動き出した。

 ピョーンと飛び跳ね、距離を一瞬で詰めて来る。

 遠くから見ても大きいと思っていたが……宙から接近して来るマグマフロッグは、まるで巨大な隕石のようにも感じられた。


「ンゲェエエエエ」

「えっ?」


 奴が最接近するのを待ち構えていたが――しかしマグマフロッグは口から赤い液体を吐き出した。

 それは俺を目掛けて一直線に飛んで来る。


 俺はその液体を回避し、現在の距離を保ったまま横に移動する。


 液体は俺がいた場所に飛び散り、そしてグツグツと地面を溶かしていく。

 そうか……奴が吐き出すのはマグマ。

 マグマを吐き出すカエル……だからマグマフロッグか。


「うわあああ!」


 マグマフロッグが着地すると、激しい揺れが起き、ワンダーナイツたちはその衝撃に悲鳴を上げる。

 そしてマグマフロッグは俺ではなく、ワンダーナイツたちを標的に定めたようだ。


「ンゲェエエエ」

 

 吐き出されるマグマ。

 ワンダーナイツたち目掛けて、高速で飛翔する。


「うわああああああああ!?」

「し、死ぬ! こんなところで死にたくないよ!」


 吐き出されたマグマに、反応できず硬直している皆。

 マグマに対処するため、俺は全速力を持ってワンダーナイツたちの前に出る。


「は、迅い……!」

「なんて速度だ……」


 スピードに能力を振っておいて良かった。

 こういう展開があると想定しておいて、本当に良かったよ。


 俺に飛んで来る形となるマグマ。

 直撃は受けたくないな。

 俺は瞬時にこれを吹き飛ばすことに決定した。


「『イグナイトレーザー』!!」


 目の前でマグマと風のエネルギーが衝突する。

 マグマは一瞬で四散し、俺の風がマグマフロッグを襲う。


「ゲボラァアアアアアアア!」


 弾丸とも言える無数の風の光線を受け、マグマフロッグの体に穴が開く。

 俺は止めをさすため、新たなる【アーツ】を発動させる。


「『イグナイトブレードキック』!!」


 風が俺の足に集い、莫大なエネルギーと化す。

 そのまま回し蹴りを放つと、風は巨大な刃となり、マグマフロッグ目掛けて飛翔する。


「ンンゲエエエエ――」


 風の刃はマグマフロッグの体を横一文字に切り裂き、向こう側の壁を切り刻む。

 マグマフロッグは今の一撃で絶命し、二つになった体はゆっくりと消滅していく。


「…………」

「え? どうしたんだ?」


 硬直しているワンダーナイツたち。

 俺が彼らに視線を向けると、パカンと口を開いたままこちらを凝視する。


「い、いや……凄すぎて……」

「強いのは分かってましたけど……ここまでとは思いませんでした」


 彼らの反応に俺はため息をつき、そして全員が無事なことにもう一度安堵のため息をついた。

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