第26話 コラボ
「おお、こっちだこっち!」
「しかし本当にジャスティスイグナイトとのコラボを決まるなんて……やるな、ワンダーナイツ!」
「へ、へへへ……たまたまだよ、たまたま」
ダンジョンに続く道の前で、武装した【ウォーリア】の集団がいた。
数は全部で16人。
その中に君島こと、ワンダーナイツの姿もあった。
ワンダーナイツは茶色の皮の鎧を身に包み、そして額当てをつけており、身軽そうな恰好をしている。
武器は双剣。
双剣を背中に背負っているのが分る。
俺はそんな君島たちがいる場所を通り過ぎ、そしてトイレで【ギアプログラム】を起動し、ジャスティスイグナイト2号の姿へ変身する。
「おまたせ」
俺がワンダーナイツたちに声をかけると、静けさが訪れる。
さっきまで暑苦しいぐらいうるさかったのに、今は凍り付いてしまったかのように何も喋らない。
もしかして……来ない方が良かった?
と思っていたら、一人の男が騒ぎ出す。
「ジ、ジャスティスイグナイト! お、俺、ファンです! まだ数回しか戦ってないのにあんな強いんすか?」
「俺も俺も! マジでファンなんすよ! 動画見た瞬間、痺れて痺れて! 一回見てからマジ惚れっす!」
俺のことを一斉に囲む【ウォーリア】たち。
ワンダーナイツもこちらに来たそうにしているが……しかし、皆の勢いに押され、輪の外でオロオロしている。
俺は皆を掻き分けて、ワンダーナイツの前に立つ。
「よろしく、ワンダーナイツ」
「に、2号さん! よろしくお願いします!」
綺麗なお辞儀を見せるワンダーナイツ。
「コ、コラボしてくれたこと、感謝してます! でも、なんで俺の話受けてくれたんですか?」
だってあのままじゃお前、学校で嘘つき呼ばわりされるじゃないか。
何でコラボをするなんて話になったのかは知らないけど、最近の君島は切ないものがあったからな……
原因が俺だし、少しぐらいフォローしてあげないと。
ちなみにおじさんは来ていない。
ただでさえ人見知りなのに、大勢とコラボなんてもってのほかとのこと。
「えっとね……実は君のことを知っている人が知り合いにいるんだよ」
「は、はぁ……」
嘘じゃない。
クラスメイトは知り合いだから。
だから君島を知っている知り合いがいるのは嘘じゃないのだ。
「それで君が、学校で俺とコラボするって言いふらしてたって言ってたのを聞いたんだよ」
「ち、違うんです! あれは違うんですよ! コラボを打診したって話をしただけなんですけど……クラスメイトが勘違いして盛り上がりすぎて……それで引くに引けなくなってしまって……って、情けないですよね」
そういうことだったのか。
嘘をついたつもりじゃなかったけど、皆が勘違いして大騒ぎしただけ。
それだけのことだったんだな。
「嘘じゃなくなったからもういいじゃないか」
「あ、ありがとうございます! 本当に助かりました」
ワンダーナイツ……君島は涙を浮かべて俺を見ている。
喜んでくれてるなら、それでよしだ。
「あの、じゃあオープニング撮らせてもらってもいいですか?」
「え? ああ……」
ワンダーナイツは涙を拭き、そして近くにいた仲間であろう男性にこくりと頷く。
するとその男性が携帯をこちらに向ける。
「どうもー! ワンワン、ワンダーナイツだワン! 今日もやって来ましたよ、ダンジョン! そして今日は何と……大型コラボ!」
「「「いえーいぃいいいいいい!!!」」」
その場にいた【ウォーリア】たちが、まるでパーティーが始まったかのように騒ぎ出す。
「今日は高校生コラボ! 戦う高校生でコラボしてるんだけどさ……実は超大物ゲストまで来てくれてるんだ!」
「おいおい、超大物ゲストって誰だよ? 俺のことか?」
「お前じゃねえよ、『ファイヤーソニック』!」
全身赤いスパッツのような物で身を包んでいる男がワンダーナイツに突っ込みを入れられ、周囲は大爆笑。
俺は一人、ノリについて行けず呆然とするばかり。
例えるなら、陽キャの中に陰キャが一人混じってしまったような……そんな境遇だ。
「で、実際のところ誰なの? 紹介しちゃってよ!」
「おお! 今日の超大型ゲスト――『ジャスティスイグナイト2号』! よろしくお願いします、2号さん!」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「うおおおおおお! 本物のジャスティスイグナイトさんだよ! えええっ!? こんなことある!?」
「すげーすげー! 神! 神降臨!」
俺は皆に囲まれ中央に位置していたが、意識的には遥か彼方。
動画を回されても、気の利いたこと言えないし、少し上がり気味。
君島を救ってあげようと来たのだが、今更ながら後悔し始めていた。
「じゃあ今日は張り切って行きたいと思いまーす!」
「はい、オッケー」
「あ、2号さん、ありがとうございました」
「あ、ああ……」
ようやくオープニング撮影から解放される。
俺は胸を撫でおろし、安堵のため息をついた。
だがしかし、終わりではなかった。
終わりどころか、これは始まりであったのだ。
「あ、次は自分のオープニングお願いします」
「へ?」
「その次は俺お願いしますね」
「じゃあその後に私のお願いします」
「…………」
オープニング撮影はまだまだ続くようだ。
と言うか、これでオープニングだったら、残りの撮影はどれだけあるんだよ。
俺はこの後のことを考え、戦慄した。
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