第21話 素の大垣純

「あのさ、純はその……テレビに出てる時とは全然違うんだね」

「あ、ああ……そうですね、はい」


 申し訳なさそうに俯く純。

 別に責めているわけではないんだから、そんな顔しないでくれよ。


「昨日もそうだけど、ほら、レッドとして戦ってる時もまた性格が違うみたいだしさ、どうなってるのかなって気になってるだけなんだよ。怒ってないし責めてもいない。その理由が聞いてみたいだけなんだ」

「えっと……そのですね……」


 純はベッドの上でモジモジしながら話し出す。


「私、重度のあがり症で……あまり人と話をしたりするのが得意じゃないんです」

「うん」

「それで、その……でもアイドルには憧れていて、どうにかしてなりたいって考えていて……いつもアイドルの真似なんてしてたんです。そうしていたらいつの間にか、アイドルになり切れている私がいたんです。なり切っている時なら、アイドルができるって思って……」


 そうか。

 本来の彼女は、今目の前にいる彼女で、アイドルをしている時はアイドルを演じているというわけか。

 でも無理をしているわけではない。

 自分が好きなことだから好きでやっている。

 そんな気持ちが伝わってくるようだ。


「戦いの時もそうです……皆を引っ張る、クールなリーダーを演じて……はい」

「なるほど……あれも演技だったってわけか」

「す、すいません! 偉そうな口ぶりをしてすいません! 演じてないと戦えないし、人と会話するのも苦手なんです!」


 彼女はひたすら謝り続ける。

 人と会話をするのが苦手なうえに、どうもネガティブなところもあるみたいだ。

 普段の『大垣純』の姿からでは考えられない。


「私みたいな人間が拓斗くんにお願い事なんておこがましくて……本当にすいません」

「お願い事? ああ。一緒にダンジョンに行くって話ね」

「はい……私たち仕事があるので、こちらの都合がいい時しかダンジョンに行けなくて……だと言うのに、拓斗くんに攻略を手伝ってくれだなんて……バカですね、私」

「いや、バカじゃアイドルは務まらないでしょ」

「へ?」


 純は可愛らしい顔をキョトンとさせる。


「俺はそう思うよ。ただのバカだったらアイドルなんてできやしない。一瞬売れるぐらいならできるかも知れないけど、中学の時からずっと人気じゃないか。しっかり自分の頭で考えて、自分の心に従って。それだけでバカじゃないって証明になるんじゃないかな?」

「あ……ありがとうございます」


 純と米原姉妹は現在高校一年生。

 俺の一つ下だ。

 そして垂井瑠衣奈は俺の一つ上。

 彼女たちのデビューは純が中学一年生の時。

 人気が出たのはデビュー一年後で、それからずっとトップアイドルとして君臨し続けている。


 想像もつかないほどの努力を積み重ねてきたのだろう。

 楽しいことばかりじゃなく、辛いことも多かったと思う。

 簡単な世界じゃないからこそ、自分で言うように、本当のバカだったら務まらない仕事だ。


 だがそこで俺は疑問を覚える。

 そんな人気者が、なぜダンジョン攻略などを?

 これだけはどれだけ理由を考えても理解ができない。

 あんな危ない目に遭う必要もないだろうに。


「あのさ、なんでダンジョンに侵入を? なんで【ウォーリア】として戦ってるんだい?」

「それは……あのですね」


 俺と目を合わせようとチラリとこちらを見るが……純は顔を逸らして真っ赤に染める。

 可愛いな。

 トップアイドルなんだから当然だけど、でもそのトップアイドルが目の前にいるこの現実。

 まさに夢のようだ。


 俺はドキドキしていることがバレないように、平然を装って彼女の言葉を待った。


「……事務所の方針というか……まぁ自分たちの意思でもあるんですけど……テレビだけじゃなくて、動画の方でも人気者になりたくて……ほら、動画って普通のことをしていても数字が取れないことって多いじゃないですか。他の芸能人の方でも再生されないことも多いし……」


 確かに。

 有名人だからって、動画の世界で通用するわけじゃない。

 有名な分、スタートはそれなりの人が多いけど、でもその後が続かないのが大半だ。


「だから、その……売れるためにはどうしたらいいかってずっと話し合っていて……それで、事務所の人が提案してくれたのが、【ウォーリア】としても有名になればいいんじゃいかって……有名になってから自分たちが『フォーフォレスト』だって公表すれば、きっとこれまで以上に数字も伸びるからチャレンジするのもいいんじゃないかって……そう言われたんです」

「なるほど……でも、危険すぎると思うよ。アイドルが……アイドルは関係ないか。誰が行ってもあの場所は危険だよ」

「分かってます。でも、それでもやりたかったんです。私たちがもしあの世界でも成功できたら、色んな人の勇気を与えられるかなって……だから決断したのは私たちで。だからやり遂げたいんです」


 そう言う純の目はどこまでも真っ直ぐであった。

 トップアイドルとしての顔が、俺の前にあった。

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