第20話 大垣純

 大垣純は救急車に運ばれて行き、それに付き添う他のメンバー。

 俺とおじさんはそんな彼女たちを見届けた後、解散をした。


 そして翌日のこと――


「おい! 見たかよ見たかよ! なんだあれは!?」

「いや、ヤバかったよな! あんな化け物初めてだぜ!」


 雲が空を覆っている朝。

 教室へ入ると、また皆が大騒ぎをしていた。

 どうやらクラスメイトたちは動画を見て騒いでいるようだ。


 自席へ着き、隣で動画をみている集団の携帯を盗み見する。

 するとそれは――また俺の戦っている動画だった。


 昨日、ドラゴンと戦った動画だ。

 まさかおじさん、こんなに早く投稿するなんて……

 行動が早いな。


「ドラゴンなんて初めて見たし、それにあの技はなんだ?」

「風系の【アーツ】なんだろうけど……威力が尋常じゃない。【アーツ】に全振りか?」

「いや、全振りにしては基本能力が高すぎるようにも思える。でもダンジョンの侵入は二回目なんだよな? ちょっとこいつに関しては謎が多すぎる……」

「普通に考えて……【ブラックコード】だな」


 皆、鋭いことで。

 いや、少し考えれば【ブラックコード】ってすぐに分るか。

 二回目にしては、強すぎるもんな。

 それは自分でも思う。


「でもどんな【ブラックコード】なんだろう? まさか、あの【アーツ】がそうなのか?」

「その可能性もあるけど……だけどやっぱり基本的なスペックが高いのも気になる。俺は【アーツ】系の【ブラックコード】じゃないと踏んでるね」

「なら、【スキル】か?」

「【アーム】かも知れないよな。しかしどれにしても、強すぎるってことだけは間違いないよ」


 正解は【スキル】なんだけどね。

 でも俺は言わない。

 俺だってバレたくないから。


 そんな議論するクラスメイトたちに向かって、何やら皆に語るように大声で話す男が一人。

 君島だ。

 君島が皆の注目を集めようと必死なのか、自分の動画を開いて、誰に言うでもなく声を出していた。


「あー、昨日の俺、すげーわ! まさかオークを倒しちまうなんてな! すげーわ、俺!」

「『ジャスティスイグナイト』……もしかしたら、こいつ、ダンジョンを制覇しちまうかもしれないな」

「それ、あり得るよな! これまでの歴代の【ウォーリア】と比べても強さが段違いだし」

「…………」


 誰も話を聞いてくれず、君島は涙目で俯いていた。

 彼は何も悪くないのに一人傷ついて。

 俺は密かに心の中で君島に謝るのであった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 放課後。

 俺はとある病院へと向かった。

 大きな総合病院で、エレベーターに乗り、九階へと移動する。

 エレベーターを降りたところにジュースの自動販売機があり、右に曲がるとすぐ左手にスタッフルームで、正面には多目的ホール。

 多目的ホールを中心に、左右に病室が並んでいる。

 そこを左に曲がり一つ目の病室。

 そこは個室となっており、病室に飾られている名前を確認してノックする。


「は、はい……」

「失礼します」


 オドオドした声。

 俺は怪訝に思いながら中へと入って行く。

 

 大きめの病室で、そこにいたのは――大垣純。

 怪我自体は大したことなかったようだが、念のために入院したと聞いていた。

 ちなみに、教えてくれたのは米原葵と向日葵。

 彼女たちと連絡先を交換し、彼女の状況を教えてもらったというわけだ。


「え、あの……え? どなたですか?」

「えっと……『ジャスティスイグナイト』って言ったら分かる? 『バトルキャット」 のレッドさん」

「あ……2号さん……ですか」

「はい。2号さんです」


 可愛らしい顔をした大垣純のキョトンとした顔。

 なんというか……不自然?

 いや、ダンジョンで少し会話した程度だけど、あの時の彼女とは大違い。

 テレビに出ている時はもっと元気一杯だし、ダンジョンにいる時はクールだった。

 なのに今目の前にいる大垣純は、こちらと視線を合わすこともできない、人見知りの女の子のようにしか見えない。

 まるでおじさんだ。

 まぁ、会話が出来る分だけおじさんよりマシかもしれないけど。


「えー……あ、その、えっと……あの時はありがとうございます。助けていただいて……」

「いや、君を守ることができなかった。ごめん。怪我をさせちゃったみたいだしね」


 大垣純は頭に包帯を巻いている。

 見ているだけでも痛々しく、もう少しうまく立ち回れなかったものかと後悔が押し寄せて来た。


「あ、そ、そんな顔しないでください。こうして生きてること……皆が生きてるのは2号さんのおかげなんですから」

「そうかな……そうだといいな」


 怪我をさせてしまったが助けることができたのだろうか。

 自分自身に自信はないが、でもそう言ってもらえると少しだけ心が軽くなる。


「あんな化け物、誰も相手になんてできませんよ。でも2号さんは戦ってくれた。皆を助けるために倒してくれた。だから2号さんのおかげです」


 アイドルらしからぬ、ぎこちない笑顔を浮かべて彼女はそう言ってくれた。


「拓斗」

「え?」

「俺の名前。臨海拓斗って言うんだ。良かったら俺のことは、拓斗って呼んでくれ」

「拓斗くん……じ、じゃあ私のことは純って呼んでください。あ、私の名前は大垣純といいまして……」

「知ってるよ。有名だからね」

「あ、そうですか……あはは」


 テレビや動画で見る時とはやはり全くの別人のようだ。

 彼女は本当にあの大垣純なのか。

 そう首を傾げるほどであった。

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