第19話 フォーフォレスト

「なんで……大垣純? え? どういうこと?」

「おい、壁が開くぞ!」


 大垣純の姿に戸惑う俺。

 おじさんは逆に強敵がいなくなったことに冷静さを取り戻し、起きている状況を伝えて来る。


 俺たちの逃走経路を防ぐように生じた壁が口を開き、出口への道が現れた。


 倒れている大垣純は頭から血を流している。

 今すぐ死ぬような、そんな失血量ではないけれど、でも意識がないことにイエローとピンクが大慌て。


「ちょっと、起きて! 起きてよ!」

「目を覚まさないってことないよね! お願いだから起きて!」

「……運ぼ」


 グリーンが短くそう言うと、二人は大垣純を運ぶために彼女の頭側と足側に移動する。


「俺が運ぶよ」

「え?」

「あ、ありがとう」


 だが俺が代わりに彼女を運ぶことに。

 とにかく早く安全なところに運んで、早く医者に診てもらわないと。


 俺は大垣純を背負い、大急ぎで出口の方へと走り出す。

 出口はそう遠くない。

 走り出して五分ほどで、魔法陣がある場所へと到着する。


 魔法陣から外へと脱出し、俺は大垣純をその場で下ろし、救急車を要請するため、おじさんに電話を頼んだ。


「あ……ヘルメットがない!」

「バレないようにしないと……どうしよう?」

「顔を見られるとマズいのか? とりあえず、タオルでもかぶせとく?」


 彼女たちがどこからか取り出したタオル。

 寝ている大垣純の顔にそのタオルをかぶせると……まるで死人みたいにしか見えない。


「これはちょっと……」

「マズいよね……」


 しかし、顔を隠す物なんて他にない。

 俺の仮面を渡したところで、これは【ギアプログラム】で作成した物だから、俺から離れた時点で消えてしまう。

 もうタオル意外には他にない。

 見た目は最悪だがこれで行くしかないだろう。


「ありがとう、2号」

「とにかく助かったよ」


 イエローとピンクが突然ヘルメットを外し、その素顔を晒す。


「あ……ああ! 米原葵まいばらあおい米原向日葵まいばらひまわり!」


 『フォーフォレスト』の四人いるメンバーのうちの二人である双子姉妹。


 ベージュ色の髪の二人。

 米原葵は右側でサイドテールを作っており、灰原向日葵は左側でサイドテールを作っている。

 顔は一卵性の双子なので全く同じ。

 目の前にいる二人を、髪型以外で区別をつけることができないほどだ。

 キラキラした目に、薄い唇。

 背は女性としては普通ぐらいで、少し見下ろすぐらいの場所に顔がある。

 胸もまた普通ぐらいで、しかしアイドルらしいスッキリとした体形。

 

「私たちのこと知ってるんだ」

「ありがとう、2号」


 黄色いヘルメットを持っているのが米原葵。

 桃色のヘルメットを持っているのが米原向日葵。

 息がぴったりだと思ってはいたけど……まさか双子で米原姉妹だったとは……


 となると……グリーンは……


 俺はグリーンの方に視線を向ける。

 するとグリーンもまた、彼女らと同じようにヘルメットを外す。


「やっぱり……垂井瑠衣奈たるいるいな


 黒い髪を腰ぐらいまで伸ばしており、眼鏡姿の美人系女子。

 彼女も『フォーフォレスト』のメンバーで、その中では一番背が高い。

 背が高く、腰回りは細く、そしてお尻はでかい。

 完璧なスタイルの持ち主で、少し冷たいその表情と相まって、彼女に踏まれたいというファンが多いとかなんとか。


 しかし……メンバー全員が【ウォーリア】をしていただなんて……

 驚きよりも戸惑いを感じる。

 俺は呆然と彼女たちのことを見ていた。


「ねえ2号も仮面外してよ」

「いいでしょ? 私たちだって外したんだから」

「え、ああ……」


 それはごく自然に。

 彼女たちも当たり前のように言うものだから、俺も普通に外してしまう。


「タク! 何やって……」

「あ」


 仮面を外してから気づいてしまう。

 俺は自分の正体を隠しておこうと考えていたことを。

 皆から賞賛を浴びるのは嬉しいけど、でも私生活に支障がでないように内緒にしておこうとしていたのに。

 迂闊だった。

 何やってんだよ、俺。


「へー。2号ってそんな顔なんて」

「結構好きな顔かも! やっぱり私と付き合って」

「向日葵! 2号は私と付き合うんだよ。だって私を救ってくれた王子様なんだから」

「私にとっても王子様なの! 葵には1号あげるから、2号は諦めて!」

「ええ……1号はいいかな」

「俺なにかやった!? 告白もしてねえのに振られたじゃねえかコノヤロー!」


 おじさんをジト目で見る二人。

 仮面をかぶったままなのだが、どうもお気に召さないようだ。


「葵。向日葵。あなたたちはアイドルなのよ。恋人を作るなんて許されない……」

「黙ってたらバレないって」

「バレなきゃ恋人作ってもいいって、昔偉い人が言ってたよ」

「それは偉い人じゃない。悪い人だと思う」


 俺は咄嗟に米原向日葵にツッコミを入れる。

 すると彼女は嬉しそうな顔を浮かべて、俺の腕に絡みついてきた。


「タク……って言ったよね。今日からよろしくね、タク」

「ちょっと! タクは私のものなんだからね!」

 

 米原向日葵と逆方向から米原葵が飛び込んで来る。

 アイドル二人に囲まれて嬉しい。

 嬉しすぎる気持ちは多々あるが、しかしそれより戸惑いの方が勝っていた。

 お願いだから、どういうことか説明して。 

 なんで君たちは【ウォーリア】として戦ってるの?

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