第18話 ドラゴン戦

「ゴォオオオオオオオオ!!」


 咆哮。

 ドラゴンの雄たけびに、おじさんたちが震えあがる。

 俺も俺とて体が痺れたように動かなくなっていたが……しかし、力を振り絞って前に出る。


「タク! 気を付けろ!」

「気を付けるけど、少々無理はしないと!」


 怯えてばかりでは戦うことはできない。

 そして前に出なければ奴を倒すことはできない。

 だから俺は前進する。

 ドラゴンを倒すため。

 生き残るために。


 敵の大きさは甚大……

 足だけで俺より大きい。

 胴体なんて俺の何倍もある大きさだ。

 こんな化け物、どうやって倒せって言うんだよ。


 俺はドラゴンの左手から回って、横から攻撃を仕掛けようと考えていた。

 だがドラゴンは尻尾を振り回し、こちらの行動を阻止する。


「くっ!」


 奴の尾撃が来る。

 俺は咄嗟に上へと飛び退き、その一撃をやり過ごした。


 ドラゴンは一瞬、俺の姿を見失う。

 これはチャンスかも知れない。

 俺は宙で体勢を整え、相手の胴体に向かって拳を突き出した。


「どうだ!?」


 体勢を整えたと言っても空中なので、そこまで強力な一撃を繰り出せるわけではなかった。

 だが俺の拳を腹部に受け、ドラゴンは悲鳴を上げる。


「ガァアアアアアアアアア!!」

「結構効いてる?」

「効いてる効いてる、効きまくってるぞ! そのまま倒しちまえ、タク!」

 

 俺の攻撃が通用していることに、歓喜の声を上げるおじさん。

 女性陣たちも生への希望を持つことができたのか、少し嬉しそうな声で応援を始めた。


「頑張って、2号!」

「そのままそいつを倒しちゃえ!」


 ドラゴンに対しての恐怖心が和らいだのか、先ほどよりも体が軽く動く。

 ガチガチだった俺の動きは、素早い物に変化する。


 相手の左側から背後まで移動し、尻尾を蹴り上げ、そして次は右側へと移動。

 ドラゴンはこちらの動きに反応しきれず、左を向いたり右を向いたり、戸惑っているようだ。


「体が大きすぎるのも問題だね!」

「大きけりゃいいってもんじゃねえぞ! そして小さいなら小さいなりの戦い方ってもんがある!」


 戦っていないおじさんが偉そうなことを言い出した。

 でもおじさんの言う通り。

 小さい利点を生かして、俺は相手を翻弄していく。


「ゴオオオオオオオアアアア!」


 痺れを切らしたのか、ドラゴンは再度尻尾を振り回してきた。

 俺はこれを後方に飛び避け、そして隙が出来た相手の顔面へと蹴りを叩き込む。


 軽くのけ反るドラゴン。

 これは……このままいけるかもしれない。


「凄い……2号凄いよ!」

「凄すぎだよ! こんな化け物相手に押してるなんて、神がかりしすぎ!」


 イエローとピンクが俺の活躍に声を上げるが――しかし、それが良くなかった。


「え……?」

「何?」


 ドラゴンが標的を変更する。

 俺に集中していたはずなのに、声がする方へと視線を変えた。


 目標はイエローとピンク……だが、そちらの方向には全員がいる。

 四人の女性もおじさんも……俺以外がそこにいた。


「危ない!」

「え……えええっ!?」

「こっちに来るぅ!?」


 突然のことに、彼女たちは身体を硬直させていた。

 さっきまでは相手にもされていなかったのに標的にされてしまい、そして恐怖によって咄嗟の行動ができないようだ。


 俺は奴の動きを止めるため、背後から殴り掛かる。

 攻撃は通用した。

 背に俺の拳を受け痛みに叫ぶドラゴン。


 しかし動きを止める様子はない。

 叫びながらおじさんたちの方へと駆けて行く。


「逃げてくれ、皆!」

「え……ちょ……」

「無理……無理だって!」


 おじさんとレッド、そしてグリーンは何とか回避行動に移っていた。

 だがイエローとピンクが依然として固まったままだ。

  

 ドラゴンはそれなりの速度で走っている。

 もう助けるにしても間に合わない。

 速さを強化したはずなのに、まだ足りない。

 

 俺は歯を食いしばって全力で駆ける。

 背後から仕留めることはできるが、しかしそれでは位置関係的に皆を巻き込んでしまう。

 せめて側面から攻撃をしなくては……


 だが俺が奴の横につくよりも、二人に牙をむく方が速い。

 ドラゴンは大きく口を開け、イエローとピンクを食いちぎろうとしていた。


 二人は身を縮こませ、抱き合う。

 もう間に合わない。


「ああっ!?」



 二人を襲うはずだったドラゴンの牙。

 しかしそれは二人に届くことは無かった。


 何故なら、二人を守るためにレッドが前に出たからだ。

 レッドはドラゴンの牙を頭に受け――彼女のヘルメットが砕け散る。

 血が噴き出し、宙を舞う。


 俺は怒りを覚えながら、彼女を守るため最大速度で奴の側面に移動する。


「これで絶対に終わらせる!!」


 莫大な量の【エーテル】が、風と共に俺の脚周りに収束する。

 まるで暴風のような凄まじい風量。

 俺はそれを、蹴りに乗せてドラゴンに放つ。


「『イグナイトスパイク』!!」


 巨大な槍と化す風。

 風はそのままドラゴンの体に突き刺さり――肉体を抉り取りながら、向こう側の壁を破壊していく。


 確認するまでもない。

 ドラゴンは今の一撃で絶命した。


 俺は奴の死体に目もくれず、レッドの下まで駆けつける。


「大丈夫か! おい!」

「タク……この子……」


 レッドの割れた仮面の中には、驚くほどの美少女の姿があった。

 それはアイドルグループ『フォーフォレスト』の、大垣純だった。

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