第16話 バトルキャット

「まず、君たちの名前を教えてくれないか? 名前も知らない人と、一緒に行動するのは……ね、1号」

「うん。俺もそう思う」


 おじさんはガチガチになっているようだ。

 本当に人見知りが激しいんだから。


「すまない。私たちは『バトルキャット』。私はリーダーを務めるレッドだ」

「私はイエロー」

「私はピンクだよ」


 彼女たちの中で一番背の低い人がレッド。

 そして俺の左側に抱きついているのがイエローで、右側がピンク。

 皆分かりやす。

 だってヘルメットの色がそれぞれ名乗るカラーなのだから。


「……グリーン」


 少し離れていた緑色のヘルメットをかぶっている女の人が、小さな声で俺に名乗る。

 彼女は手にカメラを持っており、撮影係だと察する。


「五人じゃねえのかよ……」

「みたいだね」


 おじさんは俺の後ろで舌打ちをして、彼女たちが四人なことに少し怒っているようだった。

 おそらく、戦隊物を意識してだろう。

 あれは基本、五人組だからなぁ。


「俺は『ジャスティスイグナイト』の2号。後ろにいるのが1号だ」

「知っている。動画を見たからな」

「ああ、そうなんだ」


 彼女たちも俺たちの動画を見たのか……

 やっぱりそれなりに話題なんだなと、ダンジョンの中で実感する。


「それで、なんで俺たちと一緒に行動したいんだ?」

「……正直な話、私たちだけじゃここは辛い。サポートをしてくれる人がいてくれたら助かる」

「なるほどな……確かに、二階層は一階層とはレベルが違うからな」

「違うというか、設定ミスまであるぞ、この難易度」


 おじさんはこちらに視線を向けることなくそう言う。

 俺にとっては楽な相手だからよく分からないけど……やはりキツイものがあるのだろう。

 レベルの差があるのだけは分るんだけどね。


「そんなに難しいなら、無理してダンジョン攻略なんてしなくてもいいんじゃない? 君たちがやらなくても、他に戦う人はいるんだから」

「それじゃダメなんだよねぇ」

「そうそう。それなりに私たちにも理由ってのがあるの」

「理由というか、宿命?」

「宿命というか強制……?」


 イエローとピンクが交互に話す。

 強制って……どういうことだ?


「誰かにやらされてるってこと?」

「半分そうだが、半分違う」

「?」

「ちょっと複雑なんだ、私たちの事情は」

「強制だけど納得はしてるってとこかな」

「ふーん」


 聞けば聞くほど分からなくなってくる。

 どういうことなんだ、一体。


「ま、一緒に行動するのは構わないよ。逆の立場だったら俺だって助けてほしいだろうしね」

「おお! 優しいね、2号は」

「優しくて強くていい男! 私、恋人に立候補しちゃおうっかな!」

「ピンク! ズルいよ! 私が立候補するの!」


 左右から腕を引っ張られる俺。

 痛みはないしいいんだけど……おじさんの視線が痛い。


「……羨ましいな、コノヤロー」

「じ、冗談はほどほどにしてさ、これからどうしようか? フォローするのはいいけど、一緒に行動する曜日を決めておこうよ。俺は俺で先に進みたいし」

「攻略と訓練は別日にするってことか……なら、俺も一緒に修行するとするか!」

「あれ? 1号って、2号より強いんじゃなかったっけ?」

「なのに修行って……どういうこと?」

「う……」


 イエローとピンクの問いに、固まってしまうおじさん。

 これは人見知りというよりは、嘘がバレそうな時の反応。

 見栄を張るからこんなことになるんだよ。


「……ふ。ふふふ……どれだけ強くなろうとも常に上を目指す! それがヒーローなんだよ……それが俺たち『ジャスティスイグナイト』なのだ!」

「俺も巻き込まれてる!? まぁ強くなりたいのは本当だし、いいんだけどさ」

「そういう話なら、すまないがこちらの都合のいい日で構わないか? いや、勝手な話だとは分かっている」

「暇がないんだよね、私たち」

「そうそう。決まった休みなんて無いし」


 どうも忙しい人たちのようだ。

 まぁ、彼女たちの都合がいい日に、訓練に付き合ってあげることにしよう。

 そう考えた俺は、彼女たちに返事をしようとするが――


 しかし突然、地響きが鳴り出す。


「え……なに? 地震?」

「地震? なんで地震? なんで揺れてるの?」


 俺はイエローとピンクに離れるように言う。

 彼女たちは素直に俺から離れ、背後に移動する。


「……何かが来る。モンスターか?」

「二階層はコボルトしか出現しないはずだぞ……エリアマスターは一番奥だし……俺にも分からん」


 揺れは大きくなり、巨大な足音が聞こえて来る。

 そして見えてくる大きなモンスターの影。

 すぐそこの影から、こちらに向かってやって来るのが見える。


「ちょっと待て……コボルト以外になんでモンスターが存在してるんだよ!? おかしいよ……こんなのおかしいよぉおおおお!」


 おじさんは完全にパニック状態に陥っていた。

 あまりにも予想外のイレギュラー。

 この場にいる誰もが凍り付いてしまっていた。


 ダンジョンに関してそれなりの知識を持ってるおじさんでも知らない何か。

 それがこちらへと近づいて来る恐怖。

 俺も固唾を飲み込み、影を見据えていた。

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