第15話 二階層

 接近する俺に気づくコボルト。

 動きはそこそこ速いようだ。

 スライムとは段違い。

 これは一気にレベルが上がったような感じがするな。


 だがそれは俺とて同じ。

 いや、相手以上にレベルが上昇している。


 コボルトに察知された瞬間、俺は奴の背後に向かって駆け出した。

 疾風。

 まさに風の如く。

 相手はこちらの動きに反応できていない。

 そしてそのまま、コボルトの背中に拳を突き出す。


「コボォオオオオオ!?」


 水風船が割れたように、周囲にコボルトに血が散乱する。

 俺の一撃で腹が破裂したようだ。

 あまりのグロさに、おじさんが仮面を外して何かを吐き出した。


「タ、タク……強くなり過ぎだ、コノヤロー……」

「いや……俺も予想外だったよ」


 自分自身信じられないような威力。

 ただのパンチのつもりだったのに、一瞬で敵の命を奪ってしまった。


 その威力に驚きつつも、感動を覚える俺。

 吐き気が収まったのか、おじさんは仮面をつけ直してこちらに近づいて来る。


「動画もバッチリ撮れた。今のはインパクトあるし、いい動画になりそうだぜ」

「と言うかさ、流していい映像なのかな?」

「悪い映像だったとしても、話題になりゃいいだろ。削除される前にファンを取り込む」

「それが正義の味方の言うこと!? そんな曲がった考えでいいの?」

「ま、炎上系動画よりはマシだろ」


 そうだけど。

 でも、いやしかし……いいのか?

 俺は動画の善悪を考え、これでいいのかと自問自答する。


「ほれ。考えるのは後。今は目の前のエネミーだ! 倒すぜ、コボルト! 強くなるぜ、俺たち! お前ら全員、俺達の糧になれ!」


 おじさんは突然、何やら念じ始めた。

 すると彼の手の中に、一丁の拳銃が顕在する。


「『ジャスティスショット』!!」


 それは拳銃による単純な発砲。

 でもおじさんは最大限に叫び、その行為を全力で楽しんでいるようだった。


「おじさん、それって【アーツ】?」

「いいや。これはただの【アーム】の一種だ。俺たちが着ている装備と変わらない。普通に拳銃を用意しただけだよ。【アーツ】と比べて威力は程遠いが、しかし、俺の少ない【エーテル】でも援護はできる。これが俺の最適性。これが今の俺の最大の力だ!」


 パンパン音を立てて、弾が射出される。

 これは【エーテル】を消費して撃ち出される、魔術の弾丸。

 実弾ではないが、実弾以上の威力があるようだ。


 おじさんの弾丸を受けるコボルト。

 しかし、その一撃では相手を絶命させるには足りないようだ。


「……援護お願いします」

「分かったよ」


 あまり通用していないことにおじさんは困惑気味。

 俺は苦笑いを浮かべながら援護に入った。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 二時間ほど戦っていただろうか。

 それなりに強くなったような感覚。

 一体どれぐらいパワーアップできたのだろうか。

 俺はそればかりが気になり、ソワソワしながらステータスを確認する。


 ------------


 ジャスティスイグナイト2号

 エーテル 99 力 65 

 防御 61 体力 61 

 素早さ 68 魔力 58

 アーム 

 パワー 5 ガード 5

 スピード 10 マジック 4


 アーツ

 イグナイトスパイク 2


 スキル 

 エーテルマスター スピードⅠ


 ------------


 うん。

 思っていた以上に強くなっている。


 やはり二階層に来たことにより、成長の効率が上がったようだ。

 これはもう一階層に戻ることができないな。


「おじさんのステータスはどう?」

「ん? まぁ悪くはないな……一階層よりはマシって感じだ」


 おじさんは俺のステータスを見ながら肩を振るわせる。


「……マシだと思ってたけど、お前のと比べると悲しくなってくるよ、コノヤロー」

「ま、まぁ……成長の仕方なんて人それぞれだよね」

「ちぇっ。お前にサポートしてもらってるから仕方ないのは分かってるんだけどさ……ああ、もっと強くなりてえよぉ!」


 おじさんはダンジョンの中で叫ぶ。

 その声にモンスターが近づいて来るが、これらを二人で対処する。


「オラオラ! もっと経験値寄こせ!」

「まるでRPGみたいなこと言うね」

「こんなのほとんどゲームだろ、こんにゃろー!」


 二階層に来た時よりもおじさんの攻撃力が上がったように感じる。

 一撃でコボルトを仕留めることはできないが、何発か当てている間に敵を倒すおじさん。

 なんだかんだ言って、それなりに強くなってきたんじゃないだろうか。


「あー! ジャスティスイグナイトだ!」

「え?」


 戦っている最中に、可愛らしい女性の声が聞こえてくる。

 声の方に振り返ると……先日、ダンジョンで一緒になったラバースーツ姿の女性たちがいた。

 それも今日は四人。

 この間は三人だったのに、仲間が増えたのかな?


 彼女たちの中の二人が、俺の元に駆けて来て、左右から抱きついて来る。

 柔らかい……何度抱きつかれても柔らかいし、いい匂いがする。


 顔は見えないが、デレデレしているような気が……

 仮面をかぶっていて良かったよ。


「この間はありがとう。助かったよ」


 一番背の低い女の人が声をかけてくる。

 声から察するに、この間いた人だな。


 彼女が握手を求めてきたので、俺はそれに応じる。


「やはり君は、この階層でも余裕なのか?」

「うん。ありがたいことにそうみたいだね」

「そうか……私たちもここで君に出逢えてありがたい」

「どういうこと?」

「……君さえ良ければなんだが……一緒にダンジョンの攻略に付き合ってもらえないだろうか?」


 いきなりの提案に俺は少し考える。

 一緒に行動か……どうするかな。

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