第14話 フォーザス人

 ダンジョンに入るために、廊下を進んで行く俺とおじさん。

 するとダンジョンの入り口へと続くエレベーターの前に、三人の男性の姿があり、俺たちを見るなり彼らは微笑を浮かべ近づいて来た。


「君たち二人……『ジャスティスイグナイト』だね?」

「ああ……そうだけど」


 おじさんは人見知りを全開稼働中。

 俺の後ろで震えて彼らを見ている。


 男の人たちは、まるで中世からやって来たかのような恰好をしていた。

 俺の前に立つ人は腰に剣を帯びており、すぐ後ろにいる人は魔術師のような恰好をしている。

 その横に立っている人は大きな盾を背負っており……全員、目の色が緑色だ。

 

 瞳の色が緑色ってことは……フォーザス人か。

 フォーザス人の一部の人は、魔族を倒した後もこの世界にとどまった。

 戦えない地球人の代わりにモンスターを倒し、俺たちがこれまで平和に暮らせていたのは彼らのおかげだ。

 代わりに地球側は彼らに金品や住む場所を提供し、彼らはそのまま地球で暮らしている。

 中には地球人と子供を作り、フォーザスハーフなんてのも生まれている。


 まぁとにかく、彼らには感謝しかない。

 長い間地球を守ってくれてきたヒーローというわけだ。


 そんな彼らは俺たちのことを待ち構えていたようで、こうして出逢ったわけだけれど……何か用なのかな?


「前回、ダンジョンに入ったのは初めてなんだって?」

「始めて……そうだね。ダンジョンに侵入するのは今回で二回目だ」

「そうか……凄い力を持っているようだな……どんな【ギアプログラム】を手に入れたんだ? あれだけの力を発揮したということは、【ブラックコード】だろ?」

「……ノーコメントでお願いします」


 力に関しては、おじさんに口止めされている。

 説明したところで、こちらの【ブラックコード】を盗まれることも、複製されることもないのだろうけど、でも用心するに越したことはない。

 

 例えば、彼らが本物の悪党だったらとしたら、こちらの弱点を探して殺しに来る可能性も無きにしも非ず。

 最悪のことを見越して、能力のことは公言するなとくぎを刺されているのだ。


 俺もそのことには賛成。

 何かあってからじゃ遅いからね。


「まぁ、能力を教えないのは基本だよな。とにかく、君たちのことを応援しているよ。この世界を守れる力を持つ者が増えるのはいいことだ。いずれ俺たちの役目が無くなることを祈っているよ」

「ありがとう。ずっと地球を守ってくれてきたことを感謝してるよ」

「うん。ありがとう」


 フォーザス人の三人は、笑顔を浮かべてビルの外へと向かって行った。


「あれがフォーザス人か……地球の外人とあんま変わんねえな」

「おじさんの反応もあまり変わらないね」

「うるせー。対人は苦手だけど、対モンスターなら無敵だぜ、俺は」

「また大見得張ってる! 口は災いの元だよ」

「……俺たちは無敵! それで行こう!」


 俺も無敵……?

 まだそこまでの自信はないんだけど。


 エレベーターで地下へ下り、魔法陣に乗る。

 光に包まれ、俺たちはダンジョン内に転移された。

 

「あれ……前と違う場所?」

「みたいだな……造りはいっしょだが、敵が違う。ここは二階層か」


 おじさんは敵を見ながらそう判断する。

 そうか、一階層の奥にある魔法陣で脱出したから、二階層に送られたというわけか。


「一階層に戻る方法は?」

「あー……確か、【ギアプログラム】で設定できたはずだぞ。俺たちは一階層をクリア済みだけど、侵入する時に一階層か二階層を選べるんだよ」

「そうなんだ……なら、この階層の敵がどうしようも無かったら、戻ることもできるってことか」

「……俺は今すぐにでも戻りたいぐらいだけどな」


 少し離れた場所にいるモンスター。

 それを見て、おじさんは一歩二歩後退していた。


 犬のような顔に人間と同じ二足歩行。

 しかし全身毛だらけの、獣めいた者。

 あれはコボルトだ。

 昨日攻略サイトで確認したところだから覚えいている。

 手には剣を持っており、グルルと唸り周囲を威嚇しているようだ。


「……よし。一階層からやり直すとするか」

「いきなり諦めるつもり? それもいいけど、通用するかどうか確かめたい。もし通用するなら、強い敵と戦う方が強くなれるだろ?」

「そりゃそうだが、相手が強すぎたら俺は死ぬ。お前と違って簡単に死ぬ。分るか? 怖いんだよぉ! 生死をかけた戦いなんて嫌だぁ! 御免だぁ!」

「生死をかけるのは【ウォーリア】としては仕方ないんじゃ……?」

「それでも嫌なものは嫌なの! 俺は絶対近づかないからな! やるならお前一人でやれ!」

「元からそのつもりさ」


 俺は深呼吸し、敵を見据える。


「……冗談だぞ。お前一人でやらせるわけないだろ」

「分かってるよ。おじさんは俺を放って逃げるような人じゃないってね」

「……でも手助けはあんまりできないぞ」

「それも知ってるよ」


 俺は一度笑い、おじさんの反応を横目で見た。

 おじさんの顔は仮面のせいで見えないけれど、でも顔色を青くしてそうだ。

 

 俺が絶対に殺させない。

 絶対におじさんを守ってやる。

 そう決意しながら、俺は前に出た。

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