第13話 ジャスティスイグナイトチャンネル

『ジャスティスイグナイトチャンネルへようこそ! このチャンネルでは最強のパディ、ジャスティスイグナイト1号、2号が活躍する様子をお届けするぜ! 最強のバトルエンターテイメント! とくと楽しんでくれ!』

 

 俺が戦う様子が動画で映し出されており……おじさんの声が後付けで乗せられている。


 そんな動画を、クラスメイトたちが熱中してみているのは、正直嬉しかった。


「お、俺も昨日は活躍したんだぜ……」


 クラスのヒーローである君島。

 いつもは彼の活躍に興奮する皆であったが、今日は眼中にも無い様子。

 肩を落とす君島を見て、俺は彼を不憫に思う。

 いつも通りのはずなのに、新たなヒーローが出現したことにより、いつも通りの扱いをしてもらえない。

 まぁその原因は俺なんだけど。


「可愛いな……」


 そんな中、俺の動画以外を見ている者も数人いた。

 俺の隣で固まって見ている連中……

 何を見ているのかと思い、彼らの携帯を横からチラリと盗み見。


 彼らが見入っているのは、『フォーフォレスト』という、四人組アイドルグループ。

 とても可愛らしい四人が、踊り、歌い、そして笑っている。

 この子たちは現在のトップアイドルの一組で……知らない者の方が少ないぐらいだ。

 俺だって知ってる。

 おじさんだって知ってる。


 特に、エースと呼ばれている大垣純おおがきじゅん

 緩いパーマのかかった茶髪は肩より少し眺め。

 跳ねる度にその髪が跳ねる。


 顔は平均的なものをおおきく上回り、アイドルとしても最高峰のレベルであろう。

 俺も見ているだけで心が躍る。

 愛らしい笑顔に大きな瞳。柔らかそうな桃色の唇。何もかもが完璧に見える。

 まるで女神のようだ。


 そんな彼女がアイドル衣装で身を包み、仲間たちと楽しそうにパフォーマンスに勤しんでいる。

 誰かに元気を与える、素晴らしい仕事人のように思えた。


「臨海もフォーフォレストに興味あるのか?」

「え?」


 隣の席の男たちが俺の視線に気づいたのか、そんな風に声をかけてきた。


「まぁ、人並にはだけど……」

「人並かよ。俺らは彼女たちに命かけてるからな。でも応援はよろしく頼むよ」

「あ、ああ……」


 どれだけ好きなんだよ。

 アイドルに命をかけるって……どんなの?

 さすがにそこまでのめり込んでいるわけでもないので、彼らの中に入るのはよしておこう。

 『にわか』なんて揶揄されたらさすがに傷つく。

 別ににわかでもいいけど、他の人からそんなこと言われたら嫌だよね。


 クラスメイトたちは、この後も『ジャスティスイグナイト』と『フォーフェレスト』のことを授業が始まるまで大きな声で話していた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 学校が終わり、俺はおじさんの家の最寄り駅へと来ていた。

 集合場所はトイレ。

 またあそこで【ギアプログラム】を起動してから、ダンジョンに向かう予定だ。


 トイレへと入ると、すでにおじさんがおり、彼は鏡の前で色んなポーズを取って遊んでいるようだった。


「おまたせ、おじさん」

「おう、タク。今日も今日とて頑張るとしようか!」

「それよりさ、動画見たよ」

「おお……どうだった? 面白かったか? 心が燃えたか!?」


 俺は【ギアプログラム】を起動し、『ジャスティスイグナイト2号』の姿となる。


「良かったと思うよ。見ていて楽しかったし、それに学校中大騒ぎだったよ」

「そうか……再生数、まだ三日目なのに100万回超えてたからな……」


 おじさんは嬉しいのか、ふふふと声を出して笑い出した。


「登録者数もそれなりにしてもらえた……このまま行けば、一ヶ月もすりゃ、人気配信者だぜ! 人気配信者でありながら最強【ウォーリア】。もう将来が楽しみで楽しみで仕方ないぜ! なあ、タク」

「気持ちはよく分るよ。でもおじさん、動画の中で『2号より1号の方が強い』なんて発言してたけど、いいの?」

「…………」


 おじさんは俺が戦う姿を動画配信しながらも、しかし自分の方が強い。

 最強の切り札はまだ切っていないなど大見得を切っていた。

 俺は別になんとも思わないけど……そんなこと言って大丈夫なの?


「俺だって見栄張りたかったんだよ! お前だけ目立つのが羨ましいの! 分かるだろ? 目立ちたい気持ちは? 強者への憧れは!」

「分かるけどさ……後々面倒なことになるんじゃない?」

「その点は大丈夫! お前が全ての敵を片付けてくれたら、俺が戦う必要はないからな! だから俺は最終兵器として、いつもお前を撮影しているだけ。俺の活躍は来ることが無い、切る必用のない切り札ってわけだ! どう? もう完璧だろ?」

「完璧かどうかは分からないけどさ……俺が負けた場合はどうするのさ?」

「心配しなくても……その時は逃げる」

「敵前逃亡!? いや、そこは戦うよ」

「戦うわけないだろ! 俺は弱者だぞ!」


 弱者だと胸を張るおじさんの姿は、強者のそれにしか見えなかった。

 そんな自信ありげに弱者なんて言われても困るんだけど。


「さてと……じゃあ今日もダンジョンへ行こうか」

「おう。今日もガンガン敵を倒して、レベルアップだコノヤロー!」

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