第4話 ギアプログラム

「タク。【ブラックコード】って知ってるか?」

「【ブラックコード】? 何それ?」

「これだよ、これ」


 おじさんは自分の携帯を指差して自慢げな顔をしている。

 しかし画面を見たところで素人の俺には分からない。

 もっと俺でも分かるように説明してくれ。


「【ブラックコード】ってのは……そうだな。特殊な力を内包した特別なプログラムだ」

「特別なプログラムって……それって凄いの?」

「凄いに決まってるだろ! プロ野球で最下位から優勝するぐらい凄いわ! いや、もっと凄いわ!」

「いまいち凄さが伝わらないんだけど?」

「とにかく凄いの! これがあればな、お前だって【エーテル値】の高い奴より戦える可能性だってあるの」

「え……?」


 おじさんの言葉に胸が弾む。

 俺が……戦える可能性があるだって?


「ちょっと詳しく聞かせてよ! 早く、今すぐ!」

「説明してやるからちょっと落ち着け。ドクターペッパー飲んで落ち着け」


 俺はおじさんに言われるがままドクターペッパーを口にするも、興奮が収まらない。


「で、で、【ブラックコード】で戦えるってどういうこと?」

「そうだな……説明するよりは、直接体験した方が早いだろうな。タク。携帯貸せ」

「ああ、はい」


 携帯をおじさんに渡すと、おじさんはそれを持って自室へと向かう。

 それから五分ほどすると、鼻歌交じりで戻って来る。


「ほれ。これ使ってみ」

「あ……【ギアプログラム】がインストールされてる」

「おう。それに【ブラックコード】を組み込んだプログラムを使用してるから、お前のはこれから特別製。スペシャルでオンリーワンだ」


 俺の携帯には【ギアプログラム】がインストールされており、画面には黒い歯車の映像が映し出されていた。

 これの使い方は知っている。

 何度か使用しているところを見たことがあるし、何度も動画で見た。


 俺は携帯を前に突き出し、そして【ギアプログラム】を起動させる言葉を発する。


「アクセス、ギアプログラム」


 俺の言葉に呼応し、携帯の中の歯車が動き出す。

 すると携帯から光が放出され、その光は俺の体を包み込む。


 光は徐々に物質化していき、俺の体は白く輝くピッタリとした素材と変化する。

 仮面をかぶっており、全身を同一の素材が纏っていた。

 まるでヒーローだ。

 その姿をリビングにある全身鏡で見て、俺は高揚した気分でおじさんの方を見る。


「こ、これは!? なんでこんな格好に!?」

「ふはははは! 【アーム】の方はすでにプログラムを書き込んでいる! どうだ、カッコいいだろ!」

「カッコいいよ! うわー……本物のヒーローになった気分だよ」

「そうだろそうだろ! あ、ちなみにそれを装着してる時は【ジャスティスイグナイト2号】って呼ぶからな」

「ジャスティス……え? なんでそんな名前? それに二号ってどういうこと?」


 ポカンとする俺におじさんは真顔で話す。


「俺が1号だからに決まってるだろ! 正義の心に炎を点火! それが【ジャスティスイグナイト】だ! コノヤロー!」


 とても中二チックに思えるが……俺は純粋にカッコイイと感じていた。


 おじさんの趣味は、特撮ヒーロー物。

 そして俺もおじさんの影響を受けて、ヒーローが大好きだったりする。

 だからこういう恰好は憧れていたし、名前も分かりやすく、まさに心に炎を点火させていた。


「【アーム】ってことはさ、これ、防御能力もあるの?」

「……無い!」

「無いの!? まさか恰好だけ?」

「そのまさかだ。でも、お前の【ギアプログラム】はすでに特別製……そんなこと気にする必要などない!」


 【ギアプログラム】は戦闘をするのに必要な能力を、【エーテル】を用いて顕在させるものだ。

 能力は大きく分けて三つのカテゴリーに分けられている。


 一つは【アーム】。

 その名の通り、装備だ。

 プルプレートや甲冑。他には作り立てのアバターのようなパンツ一丁など本人の好きな物を選ぶことができる。

 武器も好きな物を選択できるのだが、性能は【エーテル】に左右されるのだ。

 だから俺が今装着しているこのヒーローの恰好は、ただのハリボテみたいなもの。

 見た目だけで能力は皆無。

 ま、俺の【エーテル値】から考えたらそれは仕方のないことだろう。

 泣きたいところだけど我慢だ。


 二つ目は【スキル】。

 これは戦うための技能。

 習得するだけで効果を発揮する、まさに戦闘技能である。


 そして最後の三つ目は【アーツ】。

 フォーザス人が使う【エーテル】の力などは、ここに分類されるだろう。

 魔術や必殺技など、使用することによって効果を発揮する能力だ。


 【ギアプログラム】はこの三つの能力を自由に組み合わせて、自分好みのスタイルで戦う。

 だから戦闘スタイルも恰好も、十人十色。

 使用する人によって能力も姿も変化をさせるというわけだ。


 だが【エーテル値】の低い俺がこれを使ったところで、やはりハリボテのようなもの。

 おじさんは気にすること無いって言ってるけど、気にしないわけにはいかないよな。


「あのさ、流石に能力が無いのに戦いなんて不可能でしょ?」

「ふふふ……ここで【ブラックコード】の登場だ! その能力はすでに起動しているはずだぞ」

「起動……【ブラックコード】……一体それはどんな能力?」


 俺はゴクリと息を呑んでおじさんの言葉を待った。

 おじさんはたっぷりとじらすように時間を置き、そして目を見開いて俺に言う。


「それは……【エーテルマスター】だ! もう一度言う、【エーテルマスター】だぁあああ!」

「……【エーテルマスター】?」


 

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