第3話 エーテル
「【ギアプログラム】……で、それがどうしたのさ?」
「お前、驚くなよ! いいや、絶対驚くね!」
「で、驚いた方がいいの? 驚かない方がいいの? どっち?」
「冷静に驚いてくれ!」
「難しい注文だな……」
俺はため息をつきながら、おじさんが突き出した携帯に視線を向ける。
携帯には【ギアプログラム】の情報が立ち上げられており、それは何度も見た画像なので、俺は別段驚くようなこともなくジッと眺めるばかり。
【ギアプログラム】とは、端的に言えば【ウォーリア】として戦うための力だ。
【ギアプログラム】は、とある科学者の研究から始まった。
科学者が【フォーザス】の世界へと赴き、そこで異世界にある不思議な力の研究を開始する。
不思議な力とは、漫画やアニメなどでは【魔術】や【魔法】と呼ばれる物。
異世界人は何故その力を扱うことができるのか?
そして地球人は何故使うことができないのか?
長い年月をかけてひも解いていった。
フォーザス人は、地球に来ても不思議な能力を扱うことができていた。
ならば、場所は関係ない。
それなら持って生まれた才能の違いなのだろうか?
だがフォーザス人は小さな子供でも能力の使用ができる。
そこで科学者は気が付いた。
フォーザス人は、世界に溢れている力を視認することができ、そしてそれを自在に操作することができているのだと。
それを彼は【エーテル】と呼んだ。
【エーテル】は空気のように世界に溢れており、そして人の体内にも存在する。
フォーザス人はその【エーテル】を自在に操っているのだから、自分たちの世界の人間でも操作することは可能だろう。
科学者はそう考えたが、だが現実はそうではなかった。
友好的なフォーザス人から力の使い方を教えてもらうも、いつまで経っても能力の使用は不可能であった。
何度も何度も挑戦するも、一度たりとも力の発現には成功しなかったらしい。
そんなある日のこと、フォーザス人と地球人の間に一人の子供が誕生する。
その子供は【エーテル】を視ることができ、そして力を使うこともできた。
やはり重要なのはフォーザス人としての血統。
地球人にはその力を扱うことは不可能。
そう結論付けた科学者であった。
心が折れた科学者は、そこで【エーテル】の研究を打ち切りとする。
だが話はそこで終わらなかった。
そこから消息を絶っていた科学者。
一年ほど【フォーザス】で生活を送っていたようだが……
ある日、彼は再び姿を現した。
その時の彼は別人のような顔つきとなっており、何やら満ち足りた表情をしていたらしい。
「私は宇宙の真理に辿り着いた」
科学者は地球に帰還し、友人や科学者仲間たちにそう言っていたらしい。
そして彼が創り出したのが――【ギアプログラム】。
これを使うことによって、地球人にも【エーテル】の力を扱うことができるという代物だ。
パソコンなどで使用するプログラムと原理はあまり変わらないらしいが……
だがその根本部分のデータは、誰にも解読できないし見ることもできないらしい。
らしいと言うのは、おじさんがそう言っていたからだ。
おじさんはこの【ギアプログラム】を作成するギアプログラマーという仕事をしており、本人曰くプロフェッショナルとのこと。
まぁおじさんの話はいいんだけど、とにかく、【ギアプログラム】の基本データは一般公開されており、それをカスタマイズするのがギアプログラマーだ。
「……で、これが何?」
「ふふふ……まだ分からんか、タク!」
「分かるわけないだろ。俺は戦う力なんて無いから、こんなのとは無縁なんだからさ」
【ギアプログラム】を使うことによって、人によっては超人じみた力を行使することができた。
だがこれをまともに使えるのは、選ばれし人間だけ。
俺のようなモブに与えられたところで宝の持ち腐れ。
意味をなさない。
【ギアプログラム】は起動こそできるものの、しかし結局のところ、能力は自分自身にかかっている。
どれだけ【エーテル値】が高いか。
それが全てなのだ。
【エーテル値】とは、どれほど【エーテル】を体内に所持しているか、どれだけ大きな力を使える数字で、俺の【エーテル値】はFランクというものに該当する。
ハッキリ言ってしまえば戦う力が無いってことだ。
無力で無能、戦いの世界では無用の存在。
まさにモブってわけ。
だから【ギアプログラム】を起動したところで、大した意味はない。
だから俺には無縁の話なのだ。
「バカヤロー! 何言ってるんだ! 戦う前から諦めてるのかよ、お前は!」
「おじさんだって諦めてるじゃないか」
「俺はいいの! でもお前はダメ!」
「どういう理屈?」
「お前には希望を持って生きてほしいんだよ。諦めたまま人生を生きても、大して楽しくないぞ。ソースは俺な」
何と言うか、凄い説得力。
仕事はできるけれど、色んなことを諦めてきたおじさん。
本当は今のような仕事にはつきたくなかったらしい。
まぁ今はこの仕事が楽しいらしいから結果的には良かったのかもだけど。
「だからこれはそう、希望! お前と、ついでに俺の希望なんだよ!」
「【ギアプログラム】が?」
「そうだ。【ギアプログラム】がだ! これはな、普通の【ギアプログラム】じゃあないんだぜ」
大笑いしながらおじさんは話を続ける。
俺は黙って彼の話を聞くことにした。
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