第220話 紺野陽子の日常

「ここが‥‥‥紺野先輩の家ですか?」


「そうよ。今の時間は中にお客さんがいるから、こっちから入って」


「わかりました」



 紺野先輩と一緒にお店の裏口へと周る。

 お店の裏側には周ったことはないけど、表は中華屋としてやっているが裏側は普通の家だった。

 裏側だけ見れば、とても中華屋をやっているようには思えない作りとなっている。



「正面は立派なお店ですけど、裏口に周ると普通の家なんですね」


「そうよ。この家は1階はお店になっていて、2階は家族共用のスペースになってるの」


「へぇ~~。そうなんですか」


「今の時間、お父さんもお母さんもまだ仕事をしてるから。あまりうるさくしないでね」


「わかりました」



 紺野先輩は鍵を開けると家の中へと入る。

 その後ろに俺もついて行くようにして、中へと入った。



「ただいま~~~」


「おじゃまします」



 恐る恐る中に入るけど、誰も返事を返さない。

 たぶんそれは奥の方ががやがやとして騒がしいからだろう。夕食時だし、きっとお店が繁盛しているに違いない。



「そしたら2階に来て。私の部屋はそこにあるから」


「ご両親に挨拶はしなくてもいいんですか?」


「今の時間は忙しい時間帯だから、気にしなくていいわよ」


「わかりました」



 紺野先輩が気にしなくていいというのだから気にする必要はないだろう。

 俺も黙って紺野先輩の後ろについて行った。



「着いたわ。ここが私の部屋よ」


「ここが紺野先輩の部屋ですか」



 案内された部屋にはベッドと椅子が置かれた簡素な作りとなっている。

 俺が当初想像していた大人の部屋とは全然違った。



「机に椅子にベッドしかない。意外と普通の部屋ですね」


「貴方は一体どんな部屋を想像したの?」


「紺野先輩の部屋なら、もっと高級感があっておしゃれなものが揃っている部屋になってると思ってました」


「うちにそんな高級な家具を買うお金はないわよ。こう見えても普通の家庭なんだから」


「確かに紺野先輩の言う通りですね」



 今まで俺は彼女の私生活が謎に包まれていたことで、学校の人達同様ミステリアスレディーと陰で呼んでいた。

 だけどこうしていざ彼女と接すると、意外と普通の人なのだと親近感がわいた。



「今飲み物を持ってくるから、貴方はここで待ってて」


「わかりました」



 紺野先輩は荷物を置くとそのまま下の階へと行ってしまう。

 残された俺は床に座り、ぼーーーっとその場を見回していた。



「ここが紺野先輩の部屋か」



 部屋を隅から隅まで見るが、あまり女性っぽくない部屋だ。

 ぬいぐるみや可愛い小物等はなく、男っぽい簡素な部屋だった。



「机の上にあるのは問題集か」



 紺野先輩はどうやら一般受験をするらしい。

 その証拠にセンター試験や様々な大学の参考書が置かれていた。



「紺野先輩も大学に進学するんだな」



 俺達と一緒にいてイメージはなかったけど、紺野先輩ももう3年生。

 こうしてみると来年にはもういなんだなと感じてしまう。



「なんだか部屋の外が騒がしいな」



 先程まで静かだった廊下から声が聞こえてくる。

 1人は紺野先輩だとわかるけど、もう1人は誰だろう。



「だから、そんなことをしなくても大丈夫だって」


「そうはいかないでしょう。せっかく陽子が友達を連れて来たんだから、挨拶をしないと」



 部屋の外からバタバタと音が聞こえたかと思うと、部屋のドアが開く。

 そこには紺野先輩と紺野先輩に似た若い女性が佇んでいた。


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