第218話 紺野陽子の待ち人

 放課後陸上部の練習が終わり、1人で帰ろうと昇降口へ出ようとするとよく見る女性をみかけた。



「あれは‥‥‥紺野先輩だ」



 あの人が1人で昇降口にいるなんて珍しい。一体こんな所で何をしているのだろう。



「風見君、久しぶりね」


「どうしたんですか? こんな時間まで学校に残って?」


「ちょっと用があってね。ここで人を待っていたの」


「そうですか」



 たぶん紺野先輩が待っていた人物とは葉月の事だろう。

 もしかするとバレー部の練習が終わり久遠と一緒に帰る所を狙って、一緒に帰ろうとしていたに違いない。



「あいにく葉月ならこの時間、家に帰っていると思いますよ」


「そうなの?」


「そうですよ。この時間は既にバレー部の練習も終わっているので、たぶんもう家に戻っていると思います」



 バレー部の練習時間は意外と短い。ただその代わり練習はものすごい大変だと聞く。

 なので他の部活よりも帰宅時間が早く、この時間なら既に帰宅しているだろう。



「なのでこんな所で葉月の事を待っていても仕方がないですよ」


「風見君、何か勘違いしているようね」


「えっ!? 紺野先輩は葉月の事を待っていたんじゃないんですか?」


「いつもはそうだけど、今日だけは違うわよ。私は葉月君に用があるわけじゃないの」


「じゃあ結衣に用があるんですか? それなら料理部はまだ校舎内にいたような‥‥‥」


「鈍いわね。今日私が待っていた人物は貴方なのよ。風見君」


「俺ですか!?」


「そうよ。貴方と話すために、私はずっとここで待っていたの」



 紺野先輩が俺に用だって!? 彼女みたいな忙しそうな人が一体俺に何の用事だろう。



「俺に用事って、一体何ですか?」


「貴方、結衣ちゃんの事で何か話さなければいけない事があるんじゃないの?」


「えっ!?」



 もしかして紺野先輩には俺が結衣と週末に出かける予定がバレていたのか?

 誰にも言っていなかったけど、もしかしたらどこかでその事が漏れていたのかもしれない。



「紺野先輩に話さないといけない事って何でしょうか?」


「惚けないで。私は知ってるのよ」


「何をですか?」



 この期に及んで惚けて見るが、紺野先輩は俺の事を逃してくれない。

 ため息をつきながら俺の目をじっと見ていた。



「言葉にしないとわからないようだから言うけど、葉月君に頼まれたことがあるんでしょう」


「葉月に頼まれたこと?」


「そうよ。結衣ちゃんと葉月君の仲を取り持ってほしいって頼まれたわよね?」


「あっ!?」



 何で紺野先輩がこの事を知ってるんだ? これは俺と葉月だけの秘密だろう。

 何故外部にその話が漏れてるんだ。



「何でその事を紺野先輩が知ってるんですか!?」


「知ってる知らないは別にいいのよ。その事で貴方と話したいことがあるの」


「俺とですか?」


「そうよ。ここで話すのは疲れるし誰かに聞かれるかもしれないから、別の場所に移動しましょう」


「別の場所? どこに行くつもりですか?」



 体育倉庫とかに呼び出されたら、カツアゲを疑うぞ。

 紺野先輩に限ってそういう事はないと思うけど、もしもの可能性があるから怖い。



「そんなの決まってるでしょ」


「決まってる?」


「私の家よ」


「紺野先輩の家!?」


「そんなに驚くことなんてある?」


「別にありません」


「そう。それならいいわ」



 紺野先輩は平然としているけど、俺が驚くのも無理はないはずだ。

 だって今までベールに包まれていた紺野先輩の家に行けるんだ。驚かない方がおかしい。



「そしたらついてきて。私が家まで案内するわ」


「紺野先輩の家って、学校の近く何ですか?」


「学校の近くではないけど、電車で通わないといけない距離でもないわ」


「それならもしかすると俺達と学区が近いのかもしれませんね」


「そういえばあなたと結衣ちゃんはこの辺りに住んでいるのよね?」


「はい。そうです」



 紺野先輩が俺達の近くの学区内だったことに驚いた。

 何故なら今まで遊んでいて紺野先輩と会ったことがないからだ。



「そんなに私がこの辺に住んでいることが意外だった?」


「はい。今までこの辺を歩いていて、紺野先輩と会ったことがありませんでしたから」


「そうかもね。だって私、休みの日は家の手伝いをずっとしてるから、あまり出かけることがないのよ」


「家の手伝いですか?」


「来てもらったらわかると思うわ。とにかく今は私についてきて」


「わかりました」



 それから紺野先輩の家に行く為に俺は彼女の後をついて行った。



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