第211話 風見俊介の苦手な事
現在は俺達はファミレスを出て、カラオケボックス内にいた。
委員長達が歌っている中、俺は端の方で1人ぽつん座っている。
「これはまずいことになったな」
正直委員長達が本当にカラオケに行くとは思わなかった。
この場をどうどうやり過ごそうか、それだけをずっと考えていた。
「どうしたの? 俊介君?」
「何でもないよ。結衣は気にしなくてもいい」
今更俺が音痴だから歌を歌いたくないって言ったら空気を壊してしまうだろう。
だからなんとかこの場をやり過ごす為、どうすればいいか必死に頭を働かせる。
「そういえば風見先輩はさっきから1曲も歌ってませんね」
「そうよ。風見あんたも歌いなさいよ」
「そうは言われてもなぁ~~」
得意な曲もない俺からすれば、何を歌っていいかわからない。
カラオケの音楽を入れる機械を見ながら、俺は考える。
音痴でも何か歌える歌がないかと真剣に考えた。
「俊介君、もしかして歌えないの?」
「歌えないわけじゃないんだけど‥‥‥
「けど?」
「まぁ、ちょっと歌が独創的だから‥‥‥何を入れればいいかわからない」
隣にいる結衣に対して俺は素直に自分の気持ちを言ってしまった。
正直軽蔑されたのかもしれない。ものすごくそう思った。
「何でもいいから入れて見なさいよ」
「わかった。そしたらこれを入れてみよう」
俺はよく聞いているバンドの曲を入れた。
「風見、その曲高いけど大丈夫なの?」
「良く聞いてるからたぶん大丈夫だと思う」
こうなったらとりあえず歌ってみよう。
歌詞とテンポが良ければ、何とかなるだろう。
「それじゃあ行くぞ!! 俺の歌を聞いてくれ!!」
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「‥‥‥‥‥」
「風見先輩、肩を落とさないでください」
「そうよ。ちょっと歌が独創的だからって、そんなにへこまないの」
「その反応が1番きついんだよ」
歌い終わった後の周りの反応は微妙だった。
この展開、俺が予想していた中で最悪のシナリオだ。
「こうなるから歌いたくなかったんだよ」
中学時代からカラオケに行くと、こういう微妙な雰囲気になる日がよくあった。
だから俺はいつもカラオケに行くことは断っていた。
「大丈夫ですよ。この独創的な歌声は風見先輩の武器ですね」
「気休めはよせよ」
「風見は歌うのが嫌だったから、さっき難色を示していたのね」
「まぁ、そうだな」
完全に俺のせいで空気が壊れてしまっている。
いつもは俺の事をいじる星乃でさえ、気を使って何も言わない。
「それなら私と一緒に歌ってみない?」
「結衣?」
「一緒に歌えば音程が取れると思うから、一緒に歌ってみよう」
「いいのか? 音痴の俺と一緒に歌っても?」
「うん。私は気にしないよ」
それから俺は結衣と一緒に選曲する。
2人で一緒に選んでいる間、星乃と委員長の2人は歌っていた。
「これなんかどうかな? 音程とかリズムを取りやすいと思うけど?」
「これなら俺も歌えるな」
「そしたらこれにしよう。入れてもいい?」
「お願いします」
結衣がカラオケの機械を入れて予約を入れる。
星乃の曲が終わり、ついに俺達の番になった。
「結衣先輩、どうぞ」
「風見も。受け取りなさい」
「ありがとうな、星乃。委員長」
2人からマイクを受け取り、俺と結衣は歌い始める。
先程までとは違い、ものすごく歌いやすかった。
「(結衣の音程に釣られてるからなのか、気持ちよく歌えてる)」
やっぱり結衣は凄い。料理も出来るし歌も上手い。
運動以外なら何でもできる。
「俊介君、どう?」
「すごく歌いやすいよ」
「そう。よかったぁ」
結衣と一緒に歌うなら何でも歌える気がする。
それぐらい結衣には助けられていた。
「星乃さん」
「何ですか?」
「本当にあの2人って付き合ってないのよね?」
「はい。あたしが知る限りそのはずです」
「その割には2人共幸せな顔をしているけど‥‥‥」
「その点は時間が解決するのを待つしかないですね」
「そうね」
星乃と委員長が何かを話しているが、歌にかき消されてしまってよく聞こえない。
取りあえず今は結衣と一緒に歌おう。こんな機会なんて、そうそうにないんだから。
「俊介君、さっきよりも上手く歌えてるよ」
「結衣のおかげだよ。ありがとう」
「こちらこそだよ」
こうして結衣の笑顔が見れるだけでよかった。
それだけでここにきたかいがある。
「2番が始まるよ!?」
「とりあえず歌おう」
こうして俺は結衣のおかげで初めてカラオケに来て楽しいと思った。
一緒に歌ってくれた結衣に感謝しながら、俺は久々のカラオケを楽しむのだった。
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