第186話 2人だけの時間
段ボールを集めを初めて数十分。ここ数日で使いきれるかというぐらいの量の段ボールが集まった。
これも学校から少し離れた商店街の個人商店を手当たり次第周った成果である。
「いっぱい集まったね」
「これだけの段ボールがあれば、文化祭当日まで困らないだろう」
段ボールを自転車の後ろに括り付けて、俺と結衣は自転車を押して学校へと戻る。
学校へ戻る途中、俺達はにぎわっている商店街を横切った。
「それにしてもこの商店街って賑わってるね」
「うん。近くにショッピングモールも出来たのに、ここは変わらないな」
「たぶんこの商店街にはお年寄りが多く来ているからじゃないかな? ショッピングモールまで距離もあるから、近くに住んでいる人はみんなここに来るんじゃない?」
「地域密着型か。確かにそれならこの商店街が賑わってるのも納得だな」
ここには数多くの専門店や飲食店が多く立ち並んでいる。
専門店の中にはショッピングモールでは手に入らないようなものもある為、重宝する人も多いと聞く。
たぶんそれがショッピングモールが出来てもこの商店街が廃れない理由だろう。
「結衣、段ボール重くないか? もしバランスが取れないようなら、俺が預かるよ」
「これぐらいなら大丈夫。それよりも俊介君の方がいっぱい持ってて大変じゃない?」
「俺の自転車は後ろの部分に物が載せられるようになってるから多少多くても問題ないよ」
だから今回段ボール集めをするのにわざわざ自転車を漕いでここまで来た。
唯一予想外だったのが商店街の人達のご厚意で段ボールが集まり過ぎた事だ。
そのせいで俺の自転車の後ろは凄いことになっている。
「こんなに集まったけど、もし段ボール箱が余ったらどうしよう?」
「そしたら他のクラスに分ければいいさ。久遠のクラスとかお化け屋敷をやってただろう?」
「うん」
「たぶんあそこのクラスも段ボール不足に頭を悩ませてるはずだ。いざとなったら、うちのクラスの段ボールを分けてあげればいい」
お化け屋敷を作るのには想像以上の段ボールが必要だ
なのでもしかするとあのクラスも段ボール箱に困っている可能性がある。
「そういえば結衣」
「何?」
「最近クラスの出し物ばかりに顔を出しているけど、料理部の出し物は手伝わなくてもいいの?」
「大丈夫。あっちは麻衣ちゃんを中心に動いてくれてるから問題ないよ」
「そういえば星乃のクラスは展示って言ってたな」
「うん。だからもうクラスの出し物の準備が終わってるから、今は自由に動けるみたい」
「文化祭の準備がもう終わってるって凄いな」
「麻衣ちゃんには本当に感謝しかないよ」
やり手の星乃の事だ。きっと俺の知らない所で料理部の為に奔走しているのだろう。
結衣のいない所で色々と準備しているに違いない。
「そういえば料理部は何の出し物をするんだっけ?」
「私達がするのは料理の達人っていう出し物だよ」
「料理の達人? 何だそれ?」
「主催者から出されたお題に沿った料理を作って勝負をするの。もちろん挑戦者もいるよ」
「話を聞く限りだと、かなり大掛かりな企画だな」
「うん。なんか今年の文化祭の為に降ろされるお金が例年よりも多くもらったから、大掛かりな企画が出来るみたい」
「なるほどな。そういうことか」
以前星乃が提唱した料理対決がうまくいったから、文化祭の費用が多めにもらえたのか。
星乃の事だ。この文化祭を成功させて、来年多くの部費を獲得しようとしているに違いない。
「その料理対決の挑戦者は決まってるの?」
「うん。私からある人にお願いして、参加してもらう事は決まってる」
「そうなのか。でもそいつは度胸があるな。料理部と対戦するなんて」
「その人は元々こういう事に参加したかったらしいよ。お願いした時かなり乗り気だった」
「その参加者はよっぽどの自信家みたいだな」
料理上手の結衣と戦うなんて、相当料理の腕に自信があるに違いない。
そうなると対戦相手はおのずと想像がつく。紺野先輩か久遠のどちらかに出演許可が降りたのだろう。
「とにかく準備が大変だけど、文化祭が楽しみだな」
「私はそんなに楽しみじゃないんだけどな」
「どうしてだよ? 折角の文化祭だぞ。楽しまないとそんじゃないか?」
「そうなんだけど‥‥‥本当に楽しめるのかな?」
もうすぐ待望の文化祭が近づいているのに、何故か結衣が不安そうである。
委員長も葉月も学校にいるみんなが楽しみにしている学生生活最大のイベントを前にして、何を不安に思っているのだろう。
「結衣?」
「何でもないよ。私も出来るだけ楽しめるようにする。だから俊介君も頑張って」
「あぁ。頑張るよ」
俺は当日大会があって出れないけど、ぜひ結衣には楽しんでほしい。
当日は順調に行けば俺が出場する5000mの決勝が行われる。
俺はこの場にいれないけど、結衣には少しでも文化祭を満喫してほしい。
「学校についたな」
「うん」
「そしたら教室に戻ろう。きっと委員長が首を長くして待ってる」
「そうだね。山岡さん、こんなに大量の段ボール箱を持ってきたらどんな顔をするだろう」
「それはもちろん驚くだろう。一体委員長がどんな表情をするか楽しみだな」
それから2人で段ボール箱を持ちながら教室へと戻る。
教室に行くまで、どことなく結衣が寂しそうな表情をしていたのが気になった
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