第185話 委員長の御膳立て

 体育祭の打ち上げからしばらくたった放課後の練習終わり、俺は文化祭の出し物の手伝いをするため教室にいた。

 俺がここにいる理由は至極簡単な事で、単純に文化祭の人手が足りないからという理由で委員長に手伝いを頼まれたからである。



「風見!! そっちにある段ボールに色を塗っておいて」


「わかったよ。この段ボールには空の色を塗ればいいんだよな」


「うん、そうだよ。よろしくね」



 このように体育祭の後は練習が終わり次第教室で文化祭の手伝いに奔走していた。

 正直1人でいると余計な事ばかり考えてしまうので、こうして体を動かしているぐらいが丁度良かった。



「委員長、使っていた段ボールが全部なくなっちゃった」


「嘘!? あれだけ段ボールがあったのに全部使っちゃったの!?」


「うん。段ボールって便利だから色々な物に使っていたら、足りなくなっちゃったみたい」


「それは困ったわね。段ボールなんて他のクラスもたくさん使ってるから、たぶん学校にはないわよ」


「それなら俺が探してこようか?」


「風見。そんなこと簡単にいうけど、あてはあるの?」


「もちろん。この近くにはスーパーやコンビニが点在しているから、そこを当たってみるよ」


「でも、そういう所は他のクラスの人達が既に段ボールを回収しているんじゃない?」


「いくつかこの学校の生徒が知らないような穴場的な場所もあるんだよ。主に個人商店とか、そういう所」



 去年の文化祭の時もこうして段ボールが足りない時、そういうお店から段ボールをもらっていた記憶がある。

 その時も文化祭の準備を手伝っていた俺が個人商店を訪ねた時、大量の段ボールが余っていたので、たぶん今回も残っているだろう。



「この学校の近くにそんなお店があったのね」


「たぶん地元の人間しか知らないだろうから、俺が直接行ってもらってくるよ」


「それならお願いするわ」


「任せてくれ」



 委員長に許可を取ったし、早い所段ボールを取りに行こう。

 そう思ってクラスを出ようとすると誰かに腕を掴まれてしまった。



「委員長!? まだ何か話があるの?」


「段ボールを運ぶのに1人じゃ大変でしょ。だから結衣ちゃんと一緒に回収に行ってきて」


「ちょっと待て!? 結衣は演劇班だろう。段ボールの回収なんて行かせて、練習は大丈夫なのか?」


「たぶん大丈夫でしょう。結衣ちゃん物覚えがいいし、ちょっとぐらい席を外していても問題ないわよ」


「ならいいけど」


「今結衣ちゃんを呼んでくるから、風見は昇降口で待ってて」


「わかった」



 強引に委員長に教室から押し出され、俺は1人で昇降口まで歩いていく。

 昇降口に着くと、外履きに履き替え委員長達が来るのを待った。



「そういえば委員長のやつ、いつの間に結衣と仲良くなったんだろう」



 今までは茅野さんって呼んでいたのに、いつの間にか結衣の事を名前で呼ぶようになっていた。

 結衣に友達が増えたことは喜ばしいことだけど、2人がそんなに仲良くなるような出来事ってあったかな?



「お待たせ、風見。結衣ちゃんを連れて来たよ」



 結衣は劇の稽古をしていたからか制服姿の俺とは違いジャージ姿だ。

 そして胸を張る委員長とは対照的に、何故か結衣は恥ずかしそうに俯いている。



「委員長、やっぱり結衣に悪いから俺1人で行くよ」


「心配しなくても大丈夫よ。そうよね、結衣ちゃん」


「うん。私は大丈夫だよ」


「そうか。結衣がそういうなら俺は構わないけど‥‥‥」



 何だか強引に丸め込まれた気がしなくもないけど別にいいか。

 せっかく結衣と2人で話せるんだし、俺としては役得でしかないけど結衣はそれでいいのだろうか。



「風見、ちょっとこっちに来なさない。結衣ちゃんはそこで待ってて」


「えっ!? 俺!?」


「そうよ。申し訳ないけど、結衣ちゃんはそこで待っててね」


「うん。わかった」



 委員長が俺に話? それって一体何なのだろう。

 何を話されるか全くわからないけど、とりあえず彼女について行く。

 


「何だよ、委員長。こんな所に呼び出して」


「この前聞きそびれたから今日聞かせてもらうけど、あんたは結衣ちゃんの事をどう思ってるの?」


「どう思ってるって、何でそれを委員長に言わないといけないんだよ」


「いいからいいなさいよ。この前約束したでしょ」



 確かにこの前の打ち上げの際、この話は今度と言われた。

 だけどそれを今更話すとなると、少々気まずい。



「もし私に力になれることがあったら協力するから」


「協力って言っても、何もできることはないと思うんだけど?」


「それは私の力で何とかするから」



 ここまで委員長が言ってくれてるんだ。

 この前約束した手前、素直に話すしかない。



「それは‥‥‥まぁ、結衣の事は好きだよ‥‥‥」


「なんかはっきりしない返事ね」


「しょうがないだろう。こっちも複雑な心情なんだから」



 結衣は葉月の事が好きだから、俺もなんて答えればいいかわからない。

 正直結衣のサポートをしないといけないけど、この先どうすればいいのか悩んでいる。



「風見がどう思ってるかわからないけど、せっかくのチャンスなんだから、今日告白してきなさい」


「はぁ? 唐突に何言ってるんだよ!?」


「文化祭までもう日がないのよ!! アタックするなら今でしょ!!」


「そうは言われてもな」



 結衣が葉月の事が好きな手前、俺が告白した所で玉砕するのは確定だろう。

 そんなことで結衣との関係がギクシャクするなら、今の関係のままでいい。

 なんだかんだいって、今の関係が壊れるのを恐れている俺がいる。



「なんだか煮え切らない返事ね」


「俺にも色々あるんだよ」


「山岡さん!! そろそろ行かなくていいの?  暗くなっちゃうよ」


「確かにもう暗くなるわね。わかったわ!! 今そっちに戻る!!」



 結衣にはそう言った物の委員長は戻る気配がない。

 まだ俺に何か言い足りないようである。



「とにかく風見。余計なお節介かもしれないけど、あんたは今日結衣ちゃんに告白してきなさい」


「とんでもないお節介だな」


「お節介でもなんでもいいから頑張りなさい」



 それから委員長に手を引かれて結衣の前へと戻る。

 俺が委員長と話している間も結衣は黙って俺達の事を待っててくれた。



「それじゃあ2人共、頑張ってね」


「何を頑張ればいいかわからないけど、ちょっと行ってくる」



 委員長に背中を押されて、俺は結衣と2人で段ボールを集めに行った。



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