第184話 寂しげな影
「風見って本当に律義ね。まだ暗くないんだから、1人で家に帰れるわよ」
「そうはいってももう夕方だろう。もうすぐ日が暮れるし、そんな中で女の子を1人にするわけにはいかない」
この辺は治安がいい方だけど、いつ不審者が出るかなんて誰にもわからない。
もし俺と別れた後委員長に何かあったらさすがに後味が悪いので、結衣と一緒に家まで送っていた。
「私はこの辺でいいわ」
「そうか」
「久々に今日は楽しかったわ。ありがとう風見、結衣ちゃん」
「俺達は別にお礼を言われるような事はしてないよ。そうだよな、結衣?」
「うん。これも全部企画を考えてくれた山岡さんのおかげだよ」
「そう言ってくれると私も今回の催しを企画したかいがあるわ」
「委員長。また明日、学校で」
「うん、また明日ね」
そう言って俺達は委員長と別れる。だが少し自転車を漕いだ後何かを思い出したかのように委員長が俺達の方へ振り返った。
「どうしたんだ、委員長?」
「風見に一言言い忘れた」
「何だよ?」
「私だけじゃなくて、ちゃんと茅野さんの事も家まで送って行ってあげなさいよ」
「そんなのわかってるよ」
何を当たり前の事を委員長は言っているのだろう。
そんなこと言われるまでもなく、結衣を家まで送り届けるつもりだ。
「しっかりね、風見」
「あっ、あぁ」
今の委員長の意味深な言葉は何だったのだろう。
まるでこの後何かが起きるのを待っているような期待した目で俺の事を見ていた。
「じゃあね、2人共。また明日から頑張りましょう」
そう言って今度こそ委員長は帰っていった。
「今のは一体何だったのだろう」
「何かあったの?」
「なんでもないよ。そしたら俺達も帰ろうか」
「うん!」
それから俺は自転車を走らせ、結衣の家へ向かう。
もちろん俺の隣には結衣がいる。
「今日は楽しかったね」
「そうだな。まさかクラス内であんな催し物が開かれるとは思わなかったよ」
「これも山岡さんのおかげだね」
「だな」
全ては今回の企画をしてくれた委員長に感謝だ。
普段まとまりのないうちのクラスでも彼女のおかげでこの催しが開けたといっても過言ではない。
「そういえば結衣、文化祭の演劇は順調か?」
「うん。今のところは問題ないよ」
「ならよかった。葉月も大人しくやってるのか」
てっきり葉月が暴走して何かやらかすのかと思っていたけど、どうやら俺が想定した事態は起こってないらしい。
正直結衣達に迷惑がかかっていなくてよかった。
「たぶんそれは山岡さんのおかげじゃないかな?」
「どうして?」
「演劇班は山岡さんが目を光らせてるから、好き勝手には動けないんだと思う」
「なるほどな。委員長が見ているなら安心だ」
だからクラスの男子は何も言えないのだろう。
委員長中心にやっているなら、問題が起こらないはずだ。
「俊介君は私達の演劇を見ることが出来ないんだよね?」
「当日は試合だからな。残念ながら、うちのクラスの出し物を見ることは出来ないよ」
「そうなんだ」
「でも結衣達の事は応援してる。俺も当日は頑張るから、結衣達も頑張ってくれ」
「うん。わかった」
あれ? 今結衣が一瞬寂しそうな表情をしたけど、気のせいだったかな。
今の彼女は普段通り笑顔でいるし、特に問題ないように見えた。
「もうすぐ私の家に着くね」
「あぁ。そしたらこの辺でお別れか」
「うん。今日は楽しかったよ、ありがとう」
「俺の方こそ。また明日、学校で」
「また明日」
それから俺は結衣と別れて家へと向かう。
別れ際寂しそうな表情をした結衣の表情がどうしても忘れられなかった。
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