第183話 3人だけの二次会

 自転車を漕ぎ始めて10数分。目的の店までまだたどり着かない。

 楽しそうに話す結衣と委員長を尻目にして俺は自問自答している。

 何故俺がこんな自問自答しているか。それはファミレスに残してきた葉月達の事を気にしているからだ。



「どうしたの、俊介君? なんかそわそわしているようだけど?」


「葉月のやつを1人にして大丈夫なのかなと思って」


「何で風見が小谷松の事なんて心配してるの? 今日は一緒にいなかったのに」


「まぁ、ちょっと引っかかることがあってな」



 委員長はあの店に紺野先輩達が潜んでいたことを知らない。なのでこんな暢気に構えてられる。

 だが俺は見てはいけないものを目撃してしまった。

 あの店に紺野先輩達がいたのを発見してしまったのだ。



「(紺野先輩や久遠がいる以上、絶対何か揉め事が起きるに決まってる)」



 いつもは俺が仲裁をしているけど、俺がいなくて大丈夫なのか?

 そんな疑問が俺の頭の中でぐるぐると渦巻いていた。



「もしかして小谷松が何か問題を起こさないか気になってるの?」


「まぁ、そうだな」


「風見の気持ちはわからなくもないけど、他のクラスメイトの事を気にしていても仕方がないでしょう。そんなことを考えてる暇があったら、今は茅野さんと私に集中しなさい」


「わかった」



 委員長の言う通りせっかく結衣達と一緒に遊んでいるのだから、今はそっちの方に集中した方がいい。

 ファミレスで何が起こっても俺の責任じゃないのだから、気にしても仕方がない。



「それよりも着いたわよ! ここが私が2人に紹介したかったお店よ」


「ここは‥‥‥ケーキの店?」


「そうよ。このお店のスイーツが絶品だから、1度来てみたかったのよね」


「あれだけファミレスで食べて、まだ食べるのかよ」


「デザートは別腹って言うでしょ。さぁ、行きましょう」



 駐輪場に自転車を置くと委員長は1人で店内へと入っていく。

 俺と結衣はその後ろを静かについていった。



「いらっしゃいませ。3名様でよろしいですか?」


「はい」


「それではお席に案内しますので、こちらへどうぞ」



 店員さんへと促され、俺達3人は席へと行く。

 案内された席は先程と違い、明るく開けた窓側だった。



「メニュー表はそちらにありますので。では、ごゆっくり」


「これがメニュー表ね。茅野さんは何がいい?」


「う~~~ん、どれも美味しそうだけど。私はこの期間限定のマロンパフェにします」


「それなら俺はモンブランを頼む」


「マロンパフェにモンブランって、貴方達って好みまで似るのね」


「しょうがないだろう。この期間限定ってのが目に入ったんだから」


「初めてのお店に入る時はそのお店のオススメの物を頼みたくなるよね」


「結衣の言う通りだ。



 委員長が持っているメニュー表の中央には大きく、期間限定という文字が大きく載っていた。

 俺と結衣はそれに大きく写っていたマロンパフェとモンブランを注文した。



「俊介君が頼んだモンブラン、少しもらってもいいかな?」


「もちろんいいよ。その代わり結衣のマロンパフェも少しもらっていい?」


「うん、いいよ。そしたらデザートがきたら半分にわけよう」



 俺と結衣のやり取りを何故か微笑ましく見ている。

 見ている俺が怪訝な顔を向けてしまう程、今の委員長の表情は晴れやかだ。



「どうしたんだよ、委員長?」


「何でもないわ。言いたい事は後で言うから、とりあえず注文しましょう」


「変な委員長だな」



 それから委員長は店員のお姉さんを呼び、各自食べたいデザートを注文をした。

 一通り注文が終わると、店員さんはキッチンの中に入っていく。

 それを俺達は静かに見送った。



「それで委員長、俺に聞きたい事ってなんだ?」


「もう1度聞くけど、風見と茅野さん。貴方達って本当に付き合ってないの?」


「だから付き合ってないって。今日で3度目だぞ」


「それは本当なの? 茅野さん」


「うん。まだ私達は付き合ってないよ」


「そうなの。ふ~~~ん、そう」


「そもそも委員長はどうして俺と結衣が付き合っていると思ったんだ? 最近俺達にその事ばかり聞いてくるだろう?」


「何か理由があるの?」



 振り返ってみれば、グラウンドで結衣と話した時から委員長はその事ばかり聞いてくる。

 最初は微笑ましく笑って委員長も俺達に対して、訝し気な視線を送ってきた。



「そりゃあ2学期に入って仲睦まじく話している所を見れば、誰だってそう思うわよ。しかも名前呼びで」


「そうか? 普通の事だと思ってたけど?」


「普通じゃないわよ。あんなお互い照れながら仲睦まじく話している様子を見せられたら、この夏休みに何かあったって勘繰られても仕方がないわ」



 その言葉に俺は肩をビクっとさせてしまった。

 正直心当たりがありすぎる。俺と同時に結衣もびくっとさせたので、同じことを考えているのかもしれない。



「貴方達、一体夏休みに何があったの?」


「そんな大したことはないよ」


「本当?」


「本当だよ。あったといえば、一緒に遊びに行ったことぐらいだよな?」


「うん。子牛を見にいったり一緒にソフトクリームを食べただけだよ」


「それにショッピングモールに行って2人で服を買いに行ったよな?」


「うん。途中ゲームセンターで遊んで楽しかったな」


「それならまた今度行こうか」


「うん」


「もうお前等付き合っちゃえよ」



 委員長がとげとげしい言葉を俺達に投げつけてくる。

 先程まで微笑ましく俺達の事を見守っていたのが嘘のようだ。



「付き合うって言われても、結衣の気持ちもあるだろう」


「そうだよ。俊介君の気持ちも無視できないし‥‥‥」


「正直こっちは2人の話を聞いているだけでお腹一杯だっつーーーの!!」


「お待たせしました。こちらがご注文の品になります」


「ありがとうございます。ここに置いて下さい」


「わかりました。それではごゆっくり」



 お姉さんが運んできてくれたパフェを真っ先に食べる委員長。

 少しややさぐれている委員長は受け取ったパフェを無心で食べていた。



「それより俺も委員長に聞きたいことがある」


「何よ?」


「今日のファミレスの席順だけど、何でわざと俺と葉月を遠ざけたんだ? あれは絶対に委員長の仕業だろう?」


「風見は何故そう思ったの?」


「だっていつも葉月は真っ先に俺の所に来るのに、今日は別の同級生の所に行っていた。どう考えてもおかしいだろう」


「よかったじゃない。たまには小谷松のお世話をしなくて」


「確かによかったけど、紺野先輩や久遠が絡んでたんだぞ。1学期の俺達を見ていたクラスメイトなら、好き好んで葉月に絡まないだろう」



 それこそ男子達にメリットが一切ない。

 むしろ厄介ごとに巻き込まれるだけだから犬猿してもおかしくないはずだ。



「それはまぁ小谷松と話したいって男子も多いし、何より風見の為でもあるかな」


「俺の為?」


「そうよ。いつもなんだかんだいって苦労してる所を見ていたから、きっと周りもきっと気を使ってくれているのよ」


「委員長がそう言うならそうだろうな」


「それに貴方は小谷松と関わりたくないようだけど、彼と関わってみたいと思う人だって結構いるのよ。現に演劇の配役に選ばれている人はみんな彼と話したかった人達よ」


「なるほどな。俺は葉月と関わりたいって奴の考えはわからないよ」


「そんなのわからなくていいわよ。それよりも貴方は茅野さんの事だけを見て上げなさい。今日も一緒についてきてくれたんだから。感謝した方がいいわよ」



 確かに委員長の言う通りだ。今日結衣は葉月と同席せず、俺と一緒にいてくれた。

 葉月と一緒に入れるチャンスもあったのに俺の事を選んでくれたので、ちゃんと俺も結衣のことを見ないといけない。



「確かに委員長の言う通りだな。いつもありがとうな、結衣」


「こちらこそ。私はいつも俊介君と一緒に話せて楽しいよ」


「そう言ってもらえるとありがたいな」



 結衣が楽しいと言ってくれるんだったら俺も嬉しい。

 やっぱり結衣の笑顔を大切にした方がいいな。



「はぁ~~~。もしかしたら小谷松の事を相手にする事よりも、この2人の相手をする方が大変かも」


「委員長、今何か言った?」


「何でもないわよ。それより早くパフェを食べましょう」


「そうだな」



 それからしばらく委員長達とたわいもない話をする。

 3人でずっと話していた結果気づけば夕方になっており、俺は2人を家まで送る事になった。


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