第187話 委員長の思惑
陸上大会前日、文化祭に至っては3日前に迫ったこの日。俺は教室で文化祭の手伝いをしていた。
本当は体を休ませないといけないのだが、どうして大会前日まで俺は文化祭の準備をしているのかというと人手が足らないので手伝って欲しい委員長に頼まれたからである。
「風見、頼んでいた書類は終わった?」
「あぁ。全て終わったから、チェックを頼む」
「わかった。そしたら書類を見させてもらうわね」
委員長は俺が記入した書類の束を手に取ると1枚1枚目を通してる。
彼女は数分間書類に目を通すと、その束を1つにまとめていた。
「うん。これで大丈夫よ。ありがとう風見。助かったわ」
「お役に立てて光栄だよ」
「それはそれとして、風見には聞きたいことがあったのよ」
「聞きたいこと? 何だそれは?」
委員長が俺に聞きたいことがあるなんて驚きだ。
周りに聞かれたくない事なのか、彼女は俺に顔を寄せて小声で話しかけてくる。
「この前の事だけど、茅野さんとはどうだったの?」
「この前の事? 一体何の話だよ?」
「またまた、惚けちゃって。この前2人で段ボールを取りに行った時の事よ。何か進展があったんでしょ?」
「進展? 別に何もなかったけど」
委員長は俺達に何を期待しているのだろう。
あの時俺と結衣の間で何もなかったぞ。
「またまた。かまととぶっちゃって」
「委員長が俺に何を期待しているかわからないけど、特に何も起こらなかったよ」
「またまた、嘘なんてついちゃって。本当は付き合ってるんでしょ」
「いや、本当に何もなかったよ」
「えっ!? 嘘!? 本当に何もなかったの!?」
「だから何もなかったって言ってるだろう」
委員長は何度言えばわかってくれるんだ。いい加減気付いてほしい。
「私があれだけお膳立てしたのに。何で何もなかったのよ!!」
「お膳立てをしたって、まさかあれも委員長が仕込んだものだったのか!?」
「そうに決まってるでしょ!! むしろなんで今まで気づかなかったのよ!!」
なんとなくそんな気がしていたけど、こうして面と向かって言われるとそれはそれで驚いてしまう。
俺は結衣と一緒にいることが出来て嬉しかったからいいけど、この話を彼女が聞いたら怒られるんじゃないか?
「俺と結衣を2人きりにして、委員長はどうするつもりだったんだ?」
「いや~~~、あわよくば2人がくっつくんじゃないかなと思っただけよ」
「えっ!? 俺と結衣がくっつくってどういう意味だ?」
「言葉通りの意味よ。風見と結衣ちゃんが付き合わないかなと思って、2人きりにしたのよ」
「何でそんなことをしたんだよ!?」
「それは貴方達2人を見ていればわかるでしょう。お互いの名前を呼びあって1学期とは仲の良さが段違いだし、これは文化祭の期間中に付き合うって直感的に思ったのよ」
委員長の衝撃の告白は続く。まさか今まで彼女がこんな事を思っていたなんて、俺は思ってなかった。
「本当は体育祭までには付き合うと予想していたけど、風見は体育祭に参加しないって言うじゃない」
「まぁ大会があったからな」
「それなら文化祭で付き合うんじゃないかと思ったら、風見は文化祭にまで参加しないって言ったじゃない。私あの話を聞いてすごい驚いたんだから」
「なるほどな。だから委員長は俺を文化祭の手伝いに参加させていたのか」
「そうね。最初はそうだったわ」
「最初は?」
「うん。最初に風見を書類整理で付き合わせたでしょ? あの時素早く完璧に仕事をこなしてくれたから、『もしかしたら風見って超有能なんじゃない?』とか思ったの」
「それに味を占めて他の色々な仕事まで俺に振り始めたのか」
「そういう事よ」
そんなカラクリがあったなんて思わなかった。
どうりであれから頻繁に呼ばれて、クラスの出し物を手伝わされるわけだ
「委員長が俺と結衣を2人きりにしてくれたのは嬉しかったよ。確かに委員長のいう通り俺は結衣の事が好きだし、2人きりで話せる時もあって楽しかった」
「それなら何で告白しないのよ? 2人はいい感じなのに?」
「委員長はそもそもの前提が間違っているんだよ」
「前提?」
「そうだよ。結衣は葉月の事が好きだから、俺が告白しても失敗するはずだ」
あまりに委員長が素直に話していたせいで、俺もつい口を滑らせてしまった。
面と向かって自分の気持ちを口にしたのは、委員長が初めてかもしれない。
「はぁ? あんた何言ってるの? 寝言は寝ていいなさいよ」
「寝言じゃないし、これは本当の事だ」
「それって茅野さんから直接言われたことなの?」
「直接は言われてない。だけどそれっぽいことを言われた」
「だったらその時の事を私に話してみなさいよ。悩んでいても問題は解決しないわよ」
「そう言われてもなぁ」
委員長に1年生の時にあった出来時を話してもいいか悩む。
あれはたまたま茅野と一緒にいた時の話だし、ここで委員長に話しても解決は出来ないと思う。
「いいから。何か貴方の力になれるかもしれないでしょう」
「わかった。それなら話すよ」
俺は1年生の入学直後にあった話をした。
それからここ最近の出来事まで話して、委員長にアドバイスを求めた。
「というわけで、俺は結衣のサポートに徹することにしたんだ」
「なるほどね。貴方達の間にそんなことがあったのか」
「そうだよ。だから俺は出来るだけ結衣とは一線を引くようにしたんだ」
最近はその境界線もあいまいになってきているけど、最後の一線だけは超えないようにしている。
委員長も俺の言っていることを理解してくれたのだろう。その場で黙りこくってしまう。
「貴方達の事情はわかったわ」
「わかってくれたか?」
「わかったけど、風見はそんなこと気にしなくてもいいと思うわよ」
「どう考えたってよくないだろう」
「いいの。それよりも風見は出来るだけ茅野さんと居てあげて。文化祭が近くなって彼女も緊張してるから、少しでも力になってあげてほしい」
「それはもちろん結衣がいいっていうならいるよ」
「ありがとう。でも抜かったわね。そういう話なら、あの時茅野さんを役者にしとかなければ‥‥‥」
委員長は1人であぁでもないこうでもないとぶつぶつと言い始めた。
何で俺の周りは1人事を言う人が多いのだろう。それがものすごく不思議だ。
「委員長?」
「とりあえず今日は結衣ちゃんと一緒に帰りなさい」
「まぁ、結衣が嫌って言わなければいいけど‥‥‥」
「嫌って言うわけないでしょ!! 風見は絶対結衣ちゃんと一緒に帰るの!! わかった?」
「わかったよ。そんなに力強く言わなくてもいいって」
何故委員長はこんなに俺と結衣が一緒に帰ることにこだわるのだろう。
俺としては嬉しいけど、結衣が俺と帰るのが嫌な可能性もある。
「そしたら風見は仕事の続きをしていて。まだ書類はたくさんあるから」
「わかった」
俺が委員長に与えられた仕事は山ほどある。
委員長が去った後も、その仕事を1つ1つ丁寧に終わらせていく。
「こんなことをやっていて、本当に明日の試合は大丈夫かな」
そんな一抹の不安を抱えながら、俺は残りの書類作業に取り掛かるのだった。
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