第172話 王子様とお姫様
「う~~ん。これで大体の書類は終わったか」
委員長から仕事を任され数十分。俺の机の横には大量の書類の束がある。
その書類に委員長がパソコンで打ち込んだ備品等を全て書類に書き写していた。
「こんな面倒な事をするなら、プリントアウトしたやつを張り付けて渡せばいいのに」
「生徒会がそれを禁止してるから、貴方に頼んだんでしょ」
「委員長!? いつ帰って来たんだよ!?」
「さっき帰って来たのよ。貴方は書類に夢中で気づかなかったと思うけど」
「そうだったのか」
「でも貴方がこれをやってくれたおかげで、全てのセクションの進捗具合を見ることができたわ」
「それは良かった」
どうやら俺がこうして書類を書いていたことが少しは役に立ったようだ。
最初から戦力外通告をされたと思っていたけど、そうではないらしい。
こんな俺でもクラスの為に役立つことが出来てよかった。
「もうすぐ演劇組も帰ってくるから、貴方も茅野さんを労って上げなさい」
「何で結衣限定で労うんだよ?」
「はぁ? あんたが労って上げないで誰が労うのよ!! このニブチン!!」
「何だよ。俺は葉月よりも鈍くないぞ」
「どの口がそう言ってるの? あんたは小谷松の数倍ニブチンよ」
「何だと!!」
俺が委員長に言い返そうとしたところで、教室のドアがガラッと開く。
開いた扉からは演劇組が中に入って来た。
「はぁ~~~、今日も疲れたよ~~」
「葉月君、お疲れ様」
「ほら、お姫様が帰って来たわよ。出迎えてあげなさい」
「わっ!?」
委員長に背中を押されて、前に出た。
そこで演劇組も俺の事に気づいたみたいである。
「俊介!? いつから教室にいたの!?」
「さっきだよ。練習が終わった後、委員長に呼び出されて戻って来たんだ」
俺が戻ってきて一番驚いていたのが葉月だ。
まるで幽霊でも出たかのような驚きぶりである。
「こんなことを聞いていいかわからないけど、陸上部の練習は大丈夫なの?」
「あぁ。今日必要な練習は全て消化して来たから、ここにいても問題ない」
「そう。ならよかった」
結衣の前で一体何を話せばいいか迷う。
こうして一緒にいても、話す事が思い浮かばない。
「さてみんな!! 今日はもう遅いから、そろそろ帰りましょう!!」
「う~~~ん、もう終わりか~~~」
「もう少しやりたかったなぁ~~~」
クラスの誰かがそう言うと、みんな片づけを始める。
それなのに俺達はその場に突っ立っているままであった。
「そこ!! そんな所でラブコメなんてしてないで、片づけを手伝う!!」
「べっ、別に俺達はラブコメなんてしてないぞ!?」
「男のツンデレはいらない!! 風見は口を動かす暇があるなら、手を動かしなさい」
「わかったよ」
いらんことを委員長に言われてしまった。
でもこうなったら仕方がない。俺も片づけを手伝うか。
「結衣、ごめんな。委員長に変な誤解をされるような事をして」
「私は気にしてないよ。それよりも片付け手伝おう」
「そうだな」
それから俺と結衣は片づけを手伝う
その間結衣が何故か嬉しそうにしていたことが、ものすごく気になった。
「風見」
「何だよ、委員長」
「あんたの地元ってこの周りでしょ」
「そうだけど、それがどうしたんだよ?」
「せっかくだから一緒に帰りましょう。茅野さんも」
「えっ!? いいの!?」
「いいに決まってるわよ。私もこの地区に住んでいるから、ちょうどいいじゃない」
「あのな、委員長。委員長はよくても‥‥‥」
「風見は発言権はないから。強制連行よ」
「何故!?」
俺が委員長に何かしたか? あまりの理不尽さに驚いてしまった。
「それじゃあ片付けが終わったら一緒に帰りましょう。2人は自転車通学よね?」
「うん。そうだよ」
「そしたらみんな一緒だから、準備が出来たら私に声をかけてね」
「わかった」
こうして何が何だかわからないまま、俺は結衣と委員長と一緒に帰ることになってしまった。
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