第171話 文化祭の準備風景
放課後、部活の練習が終わった俺は部室を出て教室へと向かっていた。
何故俺が教室に向かっているかというと、文化祭の準備を手伝う為である。
「この時間もまだみんな教室で準備をしているんだよな」
この前委員長に呼び出され文化祭の役割を話し合った結果、俺は委員長の補佐となり空き時間がある時に委員長と一緒に仕事をすることになった。
なので早速今日の練習後、文化祭の仕事を手伝う予定になっている。
「委員長は練習が終わったら教室に来てって言ったけど、まだ教室にいるのかな?」
時刻は17時30分を過ぎている。普段ならこんな遅い時間に生徒が残っているはずがない。
だが教室の方へ行くと、まだ教室内の電気がついていた。
「まだ教室に残っている人がいるのか」
こんな時間まで残っているなんて、仕事熱心な人がいるものだ。
下校時刻を過ぎているし、たぶん中には殆ど人はいないだろう。
「お疲れ様。文化祭の手伝いで戻って来たんだけど‥‥‥えっ!?」
「風見君、お疲れ様」
「何でこんなに残ってるんだよ!?」
クラス内にクラスメイトほぼ全員が残っており、各自舞台装置を作っていた。
教室の中を見た俺の感想だけど、誰も家に帰っていないように見える。
「風見!! ちょうどいいところに来たわね」
「俺を呼んだのはそっちだろう。委員長」
「ちょっとこっちでやってほしい仕事があるから、こっちに来て」
有無を言わせず手首を捕まれ、教室の隅の方へと連れていかれる。
そこには大量の書類の束が積まれていた。
「この書類は?」
「生徒会に申請しないといけない書類なのよ」
「何を申請するんだよ? 演劇をするだけなのにこんな大量の書類なんていらないだろう」
調理する出し物とは違って、特に申請するものはないはずだ。
あったとしても体育館の使用許可書だろう。こんな山盛りの書類なんていらないはずだ。
「甘いわね、風見。演劇をするにも色々な書類が必要なのよ」
「どういうことだ?」
「備品の貸し出し申請書やステージを照らすライトの使用許可書、それに体育館の使用許可書とか色々と申請しないといけない書類が多いのよ」
「わかった。それ以上聞かないから、そんな死んだ魚のような目で俺の事を見ないでくれ!!」
どうやら委員長は委員長なりに書類の仕事が大変なようだ。
それは彼女の目を見ればわかる。どうやら俺が来るまでの間、書類仕事に忙殺されていたらしい。
「風見はそこにある書類にクラスと私の名前を記入しておいて」
「わかった」
「貸出用具の一覧はそこにプリントアウトしてあるから、それをこの項目に書いてくれればいいから」
「わかった。思ったよりも大変な作業だな」
「大丈夫よ、風見ならすぐ終わるから。それじゃあお願いね」
「ちょっと待て!? 委員長はどこに行くんだ?」
「私は演劇組の様子を見に行ってくるのよ。脚本を作ったのは私だから。演出の判断も私がしないと駄目でしょ」
「おっ、おう。頑張ってな」
「うん。あとはよろしくね」
そう言って委員長はクラスを出ていく。
残された俺は1人で黙々と作業をすることになる。
「委員長は今までこんな大変なことをしていたのかよ」
備品は細かく必要な物が書かれていて、全てにチェックマークがされている。
それを見れば今ままでどれだけ委員長が頑張っているかがよくわかる。
「それにしても、みんな楽しそうだな」
書類を記入しながら、周りを見るとみんな楽しそうに作業している。
お祭り効果って事もあるだろう。男女仲良く、舞台装置を作っていた。
「(少し寂しい気持ちになるけど、しょうがないか」
俺は元々参加しない旨を伝ていたから、しょうがないだろう。
何故かクラスで仲良く話しているのがものすごい羨ましく思った。
「風見!」
「何だよ?」
「今度シンデレラの劇に使う時の外の背景だけど、どっちの色がいい?」
「それを俺が決めていいのかよ?」
「当たり前だろう。俺達も客観的な意見が聞きたいんだよ。どっちがいいと思う?」
「そうだな‥‥‥」
俺が見せられているのは空の色。
深い青色とさわやかな水色、どちらがいいという話だ。
「その背景はどんな時間帯を想定して作ろうとしているんだ?」
「日中の昼間だな」
「そしたら空の色は水色の方がいいだろう。青色はなんか違う気がする」
「わかった。サンキューな」
初めて話したイケイケの男子に対して、俺はそう答える。
正直初めて話した人だったので、ものすごく緊張した。
「一体何だったんだ?」
彼が何故俺に話しかけてきたかよくわからない。
だけど突然現れて雰囲気に馴染めない俺の事を気にかけてくれたことだけはわかった。
「とりあえず俺も仕事をするか」
それから俺は委員長に任されてた書類仕事を必死にやる。
大体の書類仕事を終えた時には、結構な時間が経っていた。
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