第162話 王子様とシンデレラ
「シンデレラの配役なんだけど、私が推薦したい人がいるの」
「委員長が推薦したい人って誰?」
「私はシンデレラの配役なんだけど、茅野さんにお願いできないかな?」
「私!?」
「うん。茅野さんは物覚えもいいから、すぐセリフも覚えられると思うんだけど。引き受けてもらえないかな?」
「う~~~ん」
「もちろん、茅野さんが料理部の出し物で忙しい事は知ってる。だからもし引き受けてくれるなら、そっちに影響がないように私の方で最大限の配慮はさせてもらうわ」
結衣は委員長の提案を聞いて悩んでいる。
彼女の事情も考慮すると言われれば、結衣でなくても悩んでしまうだろう。
「(あれ? 今結衣が俺の事を見なかったか?)」
気のせいかと思ったけど、どうやらそれは違うようだ。
明らかに結衣は俺の方を見て、目が合うと肩をビクっとさせてそらそうとしている。
「(さっきから結衣は何で俺の事を見ているんだろう)」
俺にはそれがよくわからない。別に俺の事を気にする必要なんてないはずなのに。何故俺に目配せをしているのだろう。
「ほぅ。なるほどね」
「(あれ? 今委員長が何か言わなかったか?)」
「風見君」
「何だよ、委員長」
「貴方は茅野さんがシンデレラ役をやる事についてどう思う?」
「俺!?」
「そう。私は風見君の意見を聞きたいの」
「何で俺の意見なんて聞きたいんだよ。参考になんてならないぞ」
「そんなことないわよ。いちクラスメイトである男の子の意見でいいから、聞かせて頂戴」
正直結衣がシンデレラの配役になる感想なんて、恥ずかしくていいたくない。だけど教壇の前に立つ委員長も必至である。
それもそのはずだ。このまま全員だんまりな状態だと、話が進展せずに時間だけがどんどん浪費されてしまう。
それは委員長がもっとも嫌いなはずだから、出来るだけ早く結衣の事を説得したいのだろう。
「確かに結衣がシンデレラをやるなら、凄く似合ってると思う」
「他には?」
「俺の個人的な意見としては結衣のシンデレラは見てみたい」
「だそうよ、茅野さん。風見君はこう言っているんだけどどう? 劇の主役をやってみない?」
「俊介君がそういうなら、やってみようかな」
「よし! それじゃあシンデレラ役は茅野さんで決まりね」
黒板のシンデレラ役の下に、結衣の名前が書かれた。
「それじゃあ王子様役だけど‥‥‥」
「委員長!!」
「何? 男子。急に大声を出して?」
「茅野さんがシンデレラ役をやるなら俺、王子様役をやります!!」
「何抜け駆けしているんだよ!! お前になんて任せておけないから、だったら俺がやる!!」
「僕も!! 王子様役をぜひやりたい!!」
シンデレラの配役が決まった途端、クラス中の男子がこぞって手をあげた。
みんな結衣とお近づきになりたいからか、必死になって手をあげる。
「あれ? 俊介は立候補しないの?」
「まぁな」
俺はある理由があって、劇の配役に立候補していない。
本当は俺も手をあげたかったが、今の俺にはそれが出来なかった。
「もう!! みんな現金な性格をしているんだから」
「茅野さんがシンデレラになるなら、みんな手を上げるでしょ」
「全く、しょうがないわね。こんなに立候補者がいるなら、茅野さんに選んでもらうしかないわ」
「私が選んでいいの?」
「うん。茅野さんの好きな人を誰でもいいから相方に選んで」
「‥‥‥わかった」
結衣が相方を選ぶなら、きっと葉月の事を選ぶだろう。
俺はあくびをしながら興味なさげに外を見ていた。
「そうしたら王子様の役は‥‥‥俊介君にお願いします」
「わかった。そしたら風見を王子様の役にすればいいのね」
「うん。お願いします」
「ちょっ、待てよ!? 俺が王子役をやるの!?」
「だって茅野さんが貴方を指名したんだから、しょうがないでしょう」
今のは委員長の聞き間違えじゃないか?
結衣が葉月ではなく俺を選ぶなんてあり得ないだろう。
「結衣、葉月じゃなくて俺をでいいの?」
「うん。私は俊介君がいい」
「茅野さんはここまで言ってるのよ。いい加減腹を決めなさい」
「待て待て待て!! 悪いが俺は劇で王子役は出来ない」
「何で出来ないのよ? セリフを覚えて舞台に立つだけなんだから、練習をすれば大丈夫でしょう」
「そんなことは俺もわかってる」
「じゃあ何で王子様の役を辞退するのよ。先に言っておくけど、舞台に出るのが恥ずかしいって言い訳はなしね」
こうなったらはっきり理由を言うしかないだろう。
元々これは言おうと思っていたことだ。それが先か後かの話なので、この場で王子様役が出来ない理由をいう事にした。
「そもそもの話だけど、俺は今回の文化祭に参加できないんだ」
『えぇ~~~~~!?』
クラス中の悲鳴が上がる中、俺は経緯を説明する為その場に立った。
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