第156話 ファッションショー

「結衣はよく茉莉達と買い物に来ているようだけど、お気に入りの店ってあるの?」


「う~~~ん、特にないよ」


「ないの!?」


「うん。お気に入りのお店はないけど、ウインドウショッピングをして気になる服があればそのお店に入るようにしてる」


「そっ、そうか」



 結衣と2人っきりという事で、俺は今めちゃめちゃ緊張している。

 なるべく当たり障りのない話をしているつもりだけど、どうしても途中で会話が途切れてしまう。



「(こういう時に俺の事をちゃかす役割の茉莉がいないんだよな)」



 いなくていい時にはいるのに、なんで肝心な時にいないんだ。

 いつもは迷惑だと思っていたけど、俺は今まで茉莉に救われていたのだとこの時初めて実感した。



「ちょっと待って、俊介君」


「どうしたんだ?」


「この黒のチェスターコート、格好いいと思わない?」


「確かに格好いいけど、俺に似合うかな」


「似合うよ! 俊介君は背が高くて足が長いし、このコートがぴったりだと思う!!」


「そっ、そうか。結衣がそういうなら、そうかもしれない」


「うん。せっかくだからこのお店を見てみよう。いいものが見つかるかもしれないよ」


「わかった。そういうことなら中に入ろう」



 結衣と一緒に店の中に入ると、中にはタイプの違う様々なおしゃれな服が並んでいる。

 普段地元の量販店でしか服を買わない俺にとってはまさに異空間。

 場違いなとこに来たというのはこういう事をいうのだろう。



「すごくおしゃれなお店だな」


「うん。格好いい服が多いから、きっと俊介君に似合う服があるよ」


「おっ、おう」



 結衣がそういうなら、きっとそうなのだろう。

 正直俺には何が何だかわからない。ただ場違いなおしゃれなお店に来た。そうとしか思わなかった。



「さっき店頭にあった黒のチェスターコートと組み合わせるなら、このグレーのパーカーとかどうかな?」


「結衣?」


「パーカーの下に着るなら長袖のインナーも用意しなきゃ。あっ、この黒のスキニーもコートに合っていいかも!」


「ちょっと結衣、1回落ち着こう!? 時間は全然あるから、ゆっくり選ぼう」


「うっ、うん。そうだよね!? ちょっと焦り過ぎちゃった」



 結衣がこんなにテンションが上がってるのは珍しい。

 それこそこの前の合宿帰り牧場によって、子牛にミルクを上げていた時以来だ。



「まずはさっき結衣が選んだものを見ようか。時間はあるから、ゆっくり探そう」


「うん」



 それから俺は結衣が選んだコーデを籠の中に入れる。

 基本さっき彼女が選んだものをそのまま見繕った。



「とりあえずこんなところでいいか」


「そしたら一度試着してみよう。俊介君」


「わっ、わかった」



 結衣の迫力に押されてしまい、選んだものを持ってそのまま試着室へと押し込まれてしまう。

 試着室の中へ入ると、結衣の手によってカーテンが閉められた。



「準備出来たら言って。カーテンを開けるから」


「わかった。すぐ着替えるから、ちょっと待っててくれ」


「あと持って来た服のサイズが大きかったり小さかったりしたら言ってね。すぐ違うサイズを持ってくるから」


「了解」



 取り合えず結衣に渡された服を俺は着る。

 彼女がが選んでくれた服は格好いいけど、俺自身が服の格好良さに負けないか不安だ。



「それにしても珍しく今日の結衣はノリノリだな」



 こんな結衣の姿、普段だったら中々お目にかかれない。

 それこそ高校に入ってから、こんな活き活きとした彼女は殆ど見たことがない。



「それだけ結衣は買い物が好きなんだな」



 こうして俺の服まで選んでくれるなんて、結衣はものすごく良い人なのだろう

 結衣の洋服を選ぶセンスが良いせいか、服を試着してみるといつもの自分とは違う気がする。



「結衣!! 準備が出来た!!」


「入っていい?」


「うん。大丈夫」



 俺の許可をもらい、試着室のカーテンを開ける結衣。

 俺の姿を見た結衣は目をキラキラさせていた。



「俊介君のその格好、すごくいい」


「そうかな?」


「うん。俊介君は身長が高くて足も長いから、その黒のスキニーがよく似合うよ」


「そうかな?」


「うん。黒のチェスターコートとグレーのパーカーの相性もいい!! 完璧だね」


「結衣? さっきから何を言って‥‥‥」


「もしかするとパーカーじゃなくて、ニットとかも似合うかな?」


「ニット?」


「そういえばさっきちょうどいいものが売ってて‥‥‥ちょっと見てくるから、俊介君はもう少しそこで待ってて!!」



「ちょっ!? 結衣!?」



 試着室のカーテンを閉めた結衣はバタバタという足音だけ残して、どこかへ行ってしまう。

 今日の結衣はいつにもまして、張り切っているようだった。



「こんなに楽しそうな結衣の姿、初めて見た」



 もしかするとこの前茉莉と買い物をしていた時も、俺が見ていないだけであんな感じだったのかもしれない。

 買い物が好きな結衣なら、ありえない話ではないだろう



「お待たせ! 新しいニットを持って来たから、パーカーを脱いでこれを着て見て」


「わかった」


「それからデニムのジーンズも持って来たから、これも履いて見て」


「おっ、おう」



 それから結衣が選ぶコーディネートの元、俺をモデルにしたファッションショーは続く。

 色々と2人で熟考した上、最終的にこの店では最初に結衣がコーディネートした服を購入した。


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