第150話 手際の良いマネージャー

「茉莉、どうしたんだ? そろそろバスに乗らないと帰れなくなるぞ」


「司さんすいません。私はバスには乗りません」


「何故!?」


「これから結衣先輩達と合流するからです」


「えっ!?」


「マジかよ!? そんな事俺は初めて知ったぞ!!」


「言ってませんでしたからね。司さんが知らなくてもしょうがありません」


「そうだろうな」



 俺も全く知らなかったのだから司が驚くのも無理はない。

 さっき結衣と2人で帰っていたのも、その段取りの打ち合わせしていたのかもしれない。



「でも、監督には‥‥‥」


「監督には既に了承をもらっています。それと結衣先輩の両親とうちの両親にも許可をもらってるので、問題ありません」


「ずいぶんと用意周到だな」


「昨日グラウンドで結衣先輩と話をした際、許可をもらったんですよ。もちろんその後結衣先輩の両親と今回の件について、電話でお話をさせてもらいました」


「そこまでしていたのか!?」



 あの短時間でここまでやるなんて、茉莉の行動力は恐ろしい。

 しかも自分に関連する全ての所から許可をもらってるなんて、俺ですら出来ないことだ。



「そういうことなら、俺も一緒に行きたいんだけど‥‥‥」


「司さんは駄目ですよ」


「何で!?」


「監督に司さんの事もお願いしてみたんですが、司さんは選手だからダメらしいです」


「そんな馬鹿な‥‥‥」


「監督の話だと明日も練習があるみたいですよ。頑張って下さいね」



 茉莉のやつ、笑顔で鬼のような事を言うんだな。

 こういう所を見ると司が本当に茉莉の彼氏なのか、疑いそうになる。



「嘘だ!? 何で俺1人だけ寂しく帰らないといけないんだよ!?」


「司さんの気持ちはわかりますけど、監督が無理と言ってるんですから無理でしょう」


「そうだな」


「理解が早くて助かります。そしたら早くバスに乗って下さい。みんなが待ってますよ」


「‥‥‥わかった」



 それだけ言い残して、静かに司はロビーを出て行った。

 ロビーを出ていく司の背中が寂しそうだったのは、俺の見間違いではないだろうな。



「茉莉?」


「何ですか?」


「司の事は放って置いていいのか? 仮にも彼女だろう?」


「大丈夫ですよ。司さんは強いですから」


「強いとか弱いとかの問題じゃないと思うんだけどな」



 彼女を1人残して家に帰るなんてどうかしてる。

 いくら司のメンタルが鋼だったとしても、さすがに耐えられないだろう。



「それじゃあ俊介先輩、行きましょう」


「行くってどこへ?」


「結衣先輩達の所ですよ」


「えっ!? 俺も!?」


「はい! 慶治先輩と顧問の先生も合流して、4人でお邪魔することになってます」


「待て!? その事を俺は今初めて知ったけど!?」


「はい。だって今初めて話しましたから」


「慶治はこの事を!知ってたのか!?」


「あぁ。俺は朝、朝食の後この後輩から話を聞いた」


「先生は既に結衣先輩達の別荘の方に車をまわしているはずですよ」



 どうやら俺以外の人達は今回の事を知っていたみたいだ。

 だから今日みんな機嫌がよかったのか。そのことにやっと合点がいった。



「俊介先輩の高校の顧問の先生も協力してくれて、色々と動いてくれたみたいです」


「あの人もやけにフットワークが軽いな」



 学校からどうやって許可をもらったかわからないけど、たぶん昨日の夜から今朝がたにかけて色々と頑張ったのだろう。

 よく考えれば今日の練習前ずっと電話をしていたのは、学校側に今回の変更の許可をもらう為だったのかもしれない。



「ちょっと待て、今日帰らないことを俺も親にいっておかないと。みんな心配する」


「それも私がしましたので大丈夫です!」


「本当に手際がいいな!! 茉莉は!!」



 高校に入って周りに根回しをする力が上がったんじゃないか?

 俺のいない所で色々手をまわしてるなんて、用意周到すぎるだろう。



「それより茉莉はいつの間に俺の親の連絡先を知ったんだ?」


「中学時代陸上大会に行った時、俊介先輩の親御さんと会った際交換しました」


「なるほどな。どうやら俺は帰ったら親に、見知らぬ後輩とは連絡先を交換しないよう忠告しないといけないようだ」



 俺のプライバシーがばがばすぎるだろう。

 こうなってくると俺の様々な秘密が茉莉にバレている可能性まである。



「そしたら結衣先輩のいる別荘に行きましょう。たしかあちらのはずですよ」


「待った。俺はまだ行くとは一言も言ってないんだけど?」


「えっ!? 俊介先輩は行きたくないんですか? 結衣先輩達の所」


「それは‥‥‥」


「1泊ですけど結衣先輩と過ごせるんですよ。そのチャンスを不意にするってことですか?」



 やけに茉莉のあたりが強い。俺の知らない所で決められたのでちょっとした反抗のつもりが、逆に反撃をもらってしまった。



「もし行かないのなら色々と予定を変更しますけど、どうしますか?」


「‥‥‥‥‥‥‥‥行く。俺も行きたい」


「そうですよね! それじゃあ早速結衣先輩達の所へ行きましょう!」



 結局俺も結衣と一緒ん旅行を楽しみたいという誘惑に負け、彼女達が待つキャンプへと合流することになった。

 荷物を持ち楽しそうに鼻歌を歌う茉莉と一緒に、結衣達が待っている宿泊施設へと向かう。

 そして騒がしくも楽しかった2泊3日の合宿が終わりを告げた。



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