第149話 ライバルとの約束
あれから俺達は宿舎に帰り、シャワーを浴びた後着替えてホテルのロビーに集合していた。
そこには俺達の他にもこの3日間共に過ごした他校の生徒達も並んでいる。
「ここまでみんなよく頑張ったな。この経験が秋の大会、そして冬の駅伝へと繋がっていくと思う」
『はい!!』
「それではこれで合宿は終わりだ。みんな、帰り道は気をつけて帰ってくれ」
『ありがとうございました』
合宿を担当した監督にお礼を言って、激動の合宿は終わりを告げた。
「あ~~~。長かった合宿もやっと終わったな」
「そうだな」
長いようで短かったこの3日間。普段より充実した練習が出来たと思う。
慶治は飄々としているが、俺は体を襲う疲労感からその場で脱力してしまった。
「俊介先輩、3日間お疲れさまでした」
「茉莉か。そうだ、俺はずっと茉莉にお礼が言いたかったんだ」
「お礼ですか?」
「あぁ。この3日間茉莉がいたおかげで、辛い合宿も楽しめたよ。だからありがとう」
「こちらこそです」
正直この合宿、俺と司の2人だけだったら早々にリタイアしていただろう。
それを献身的なサポートで俺達を支えてくれた茉莉がいたから、こんなにいい練習が出来たと思っている。
「それよりも茉莉は自分のチームに戻らなくていいの?」
「はい! それよりも実は私、どうしても俊介先輩にお礼が言いたかったんです」
「俺にお礼?」
「そうです。この合宿に参加してくれて、本当にありがとうございます」
「待ってくれよ。俺はお礼をされるような事はしてないぞ」
むしろこの合宿中、俺が茉莉に散々助けられた。
お礼を言わなければいけないのは、俺の方である。
「私が感謝しているのは、司さんの件ですよ」
「司の件?」
「はい。あそこまで調子を落としていた司さんが、俊介先輩のおかげで復活しました」
「それはよかったな」
「だからありがとうございます。この合宿で司さんと一緒に走ってくれて」
茉莉から頭を下げてまでお礼を言われるなんて思わなかった。
彼女がここまでするという事は、合宿前までよっぽど司の調子が悪かったのだろう。
合宿中はあんまり悩んでいる様子はなかったけど、もしかしたら彼女は相当思い詰めていたのかもしれない。
「茉莉、ここにいたのか」
「司」
「俊介か。悪いけど、俺はまだお前に負けたとは思ってないからな」
「そんなことはわかってるよ」
「勝負は秋の新人戦。そこでどっちが上かはっきりさせようぜ」
「あぁ。そうだな」
10月に行われる秋の新人戦。地区予選を通過すれば県予選で、有無を言わず司と当たることになる。
「俺は1500mと5000mで絶対に代表になるから。首を洗ってまっておけよ」
「わかったよ。俺は1500mの代表を目指すから、県大会ではお互い頑張ろう」
「えっ!? 俊介って5000mの試合はでないの!?」
「ウチのチームの方針は1人1種目なんだよ。だから顧問の心変わりでもない限り、基本は1500mしか出れない」
俺が夏の大会で1500mのレースしか出場しなかったのもそれが理由だ。
出来れば多くの人達が出場できるようにという顧問の配慮で、うちの部活はこういうやり方をしている。
「なんだよ、それじゃあ俺が不利になるだろう」
「悪いな。こればかりは俺の一存じゃ変えられないんだ」
それこそ顧問の先生が心変わりして、俺を2種目出場させるような事がない限り司と2試合連続で戦う事はない。
今まで前例がないので、さすがにそれを覆してまで2種目走らせるようなことはしないと思う。
「ごめんな、司。こればかりは諦めてくれ」
「ぐっ!! それなら1500mのレースは絶対に勝つ!!」
「望むところだ。受けて立つよ」
どうやら俺達の戦いは秋の新人戦に持ち越しのようである。
そこで司と戦う時が本当の決着の時だろう。その事を想像しただけでもワクワクして来た。
「おい司!! バスが発車するから、そろそろ行くぞ!!」
「わかりました!! 今行きます!!」
司に呼びかけた先輩らしき人がロビーを出て行ってしまう。
どうやら司達との別れの時間が来てしまったようだ。
「じゃあな、俊介。次は県大会で」
「あぁ。司と対戦するのを待ってるよ」
「それじゃあ茉莉、そろそろ行こうか。俺達のバスへ」
司が茉莉にバスの方へと行くように促すが、茉莉は一向に動こうとしない。
それどころかいつの間にか俺の隣に立っている。
「茉莉、どうしたんだ? 早く司の所へ行った方がいいぞ」
俺が呼びかけるが、ニコニコと笑う茉莉はその場を動かない。
その光景は彼女が司の事を見送っているように見えた。
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ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
長かった3章ももうすぐクライマックスです!
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