第147話 男の勝負

「ぐっ!! ここまでか‥‥‥」


「まだまだだな。もっと練習して出直してこい!!」



 距離にして1.5km地点。さっきまで着いてきていた人達は誰1人いない。

 全員司のペースについて行けず、途中で離れてしまった。



「残ったのは俺とお前だけのようだな、俊介」



 司は俺に話しかけるが、俺はそれに答えることが出来ない。

 それぐらい俺も司のペースについて行くのにいっぱいいっぱいだった。



「(もうすぐ結衣達がいた場所だな)」


「よっしゃあ!! そろそろラストスパートをするか!!」


「(こいつ、まだ余力を残してるのかよ!?)」



 こっちがへとへとなのに。元気な奴だ。

 徐々に司のストライドが広くなり、スピードが上がっていく。


「(きっとここでで俺を突き放して、周りのみんなに自分の格好いい所を見せたいんだろうな)」



 そう思うと絶対司に離されたくない気持ちが湧いてくる。

 むしろここで俺が司を突き放したい。



「(結衣達がいるポイントだ)」



 猛スピードで走る俺達の事を結衣は見ている。

 だけどそこにいる結衣はさっきと様子が違う。

 道路沿いで何かに乗って、俺達の事を待っている。



「(結衣の奴、何で自転車に乗ってるんだよ!?)」



 驚くのもつかぬ間、猛スピードで結衣達の前を通過する。

 そしてびっくりしたことに、その後ろを結衣が自転車に乗って着いてきたのである。



「(一体何がどうなってるんだ!?)」



 俺の後ろを自転車で追走する結衣。そんな結衣を一瞬見たが、今は彼女に構っている余裕はなく、前にいる司の後ろに必死に食らいついて行く。



「(まずい!! どんどん体が重くなっていく!?)」



 最初から無理なペースで走ったせいか、足が棒のようだ。

 両太ももに乳酸が溜まってきたせいか、思うように体が動かない。



「悪いな、俊介。この勝負は俺の勝ちだ!!」


「くそ!!」



 スピードをあげた司に着いて行く為に、俺は必死に体を動かす。

 だけど俺にはもう余力がない。今にも足がつりそうだ。



「(ここまでなのか)」



 よくよく考えれば俺はよくやった。今年行われたインターハイ出場選手相手にここまでついていった。

 思えばこの合宿もよく司の無茶ぶりについて行けたと思う。だからもう楽になってもいいだろう。



「俊介君!!」



 はっ!? 俺は何を考えてた!?

 今司のやつに負けてもいいと思ってなかったか? 結衣がいる前で!?



「(こんなところで弱気になってどうするんだよ!!)」



 水島司に勝つんだろう。だったらそんな弱気になっていたら駄目だろう。



「(もっと足を動かせ!! 終わった後倒れてもいいから、その1秒を削り出せ!! 風見俊介!!」



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「ぐっ!?」



 最後の力を振り絞って叫び、司を追い抜くように必死に足を前に出す。

 次第に体は司の横へと行く。そしてゴール直前に司よりも前に体が出た。



「くそ!!」


「この勝負!! 絶対勝つ!!」



 茉莉が見てようが関係ない。この勝負、絶対に俺が勝つ。



「(絶対に結衣が見ている前で負けられない!!)」



 何が何でも司に勝つ!! 両手を振り、止まりそうになる足を必死に前へと出す。



「俊介!!」



 いつの間にか司が俺の後ろにいる。

 茉莉の前を通過した時、俺は司を抜いて先頭を走っていた。



「俊介先輩!? 大丈夫ですか!?」



 ストップウォッチを持つ茉莉の前を全力で駆け抜けた俺は、しばらく走った後その場にしゃがみ込み動くことが出来なかった。

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